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聖女の真実

 豪華な衣装を着た男はその場に伏せた。

 すると俺たちを取り囲んだエルフたちもその場に伏せる。


「ま、まさか……もう一度お目にかかれるとは……聖女様」


「ち、違います! 聖女だったのは先祖で……」


 楓は否定するがエルフたちは頭を上げようとしない。

 一応フォローしとくか。

 伝わってない可能性を考慮してエルフ語で。


「【聖女の子孫だ】」


「賢者よ。わかっている! だが聖女とは役職のことではない。ハイエルフのことだ」


「俺たちの世界の人間でもある。それでもハイエルフなのか?」


「賢者よ。それは関係ない。我らにとって聖女様の血族が存在する、それだけが重要なのだ」


 俺はエルフの長を見据えた。

 ここでハッキリさせておきたい。

 関口は口先でごまかすことを考えるだろうが、俺はハッキリさせたい。


「一応言っておくが、彼女は日本に帰る。ここに置いていけとか言いだしたら……お前らは敵だ」


「かまわん。異世界人にはわからぬだろうな。ただ存在し血を継承する。それだけが重要なのだ。たとえ異世界でもどこかで生きている。それだけでいいのだ」


「聖女とは何だ? なぜ崇める!?」


「始祖のエルフの血を継ぐもの。それが聖女だ。血が途切れぬ限り我らは……ミッドガルドの民は守られる」


 あん?

 守られるって……守ってもらってたらダンジョンに俺たち放り込む必要ねえだろ……。

 いや待てよ……。


俺たちに(・・・・)守られる……なのか! じゃあ、つまりシステムは!?」


「異世界人がシステムと呼んでいるもの。それが始祖様だ。本来、エルフがシステムを管理しミッドガルド王が決済をする。盟約によりエルフの血統は維持され、ミッドガルド王も異世界人を呼ぶ力を持つ代わりに、エルフを保護する責を負う。異世界人は力を得、爵位と財力を与えられる。そういう関係だったが……いまや我々も勇者もミッドガルド王の奴隷だ」


 マジかよ……。


「この世界にはダンジョンという脅威がある……賢者よ、御身にはわからぬかもしれぬが、ダンジョンは人を食らう」


「よく知ってるっての。俺たちはダンジョンに捧げられた生け贄だ。俺はエステルとダンジョン攻略キャンプで出会った」


「そうか……よく生きて戻られた」


 と少ししんみりしてると関口が割って入った。

 悪い顔をしている。


「長よ。そこでいい話があるのですが。どうでしょう。エルフは代償を払った。我々異世界人も関係ないのに代償を払わせられ続けた。ところがミッドガルドの人間、いや王家はどうでしょう? なんの代償も払わず我が世界の人間をダンジョンの生け贄にし続けている。不公平ではないでしょうか?」


「どうしろというのだ? 賢者の仲間よ」


「商人の関口と申します。あなた方なら、もう少しうまく運用できますよね?」


「なにが言いたい?」


「私たちの目的は拉致をやめさせること。勇者を呼ぶなとは言いません。リスクを説明して断れば帰してやる。ただそれだけでいいのです。ただそれを成し遂げるにはいささか王族が邪魔かと」


「復讐は何も生まぬぞ。墓をもう一つ掘ることになる」


 すると関口は今世紀で一番邪悪な顔をした。


「復讐ではございません。ただ邪魔者は排除すべきかと。幸いこちらには切り札があります」


 咲良のことだろう。

 要するに建前が復讐じゃなければいいのだ。

 殺す。だが復讐ではない。はいはい、復讐ではないのね。

 連中が悪いやつだから殺す。これもだめ。賛同者が少なくなる。

 崇高な目的の邪魔だから仕方なく排除する。これでいい。

 まあ反対派は皆殺しだろうが。


「邪魔なだけで命を奪うのか?」


「なにか問題でも?」


「恐ろしい男だ……。いや、これも始祖様のお導きなのだろう。あいわかった」


「ではまずこの辺の領主はどこに?」


「攻め込むのだな?」


「いいえ。交渉します」


 関口はにやあっと顔を歪めた。

 あーあ、嘘つきが。


 場所を聞き出すと俺の出番。

 ハヤトは暗殺向きじゃないので非戦闘員の護衛。

 関口と四宮、それにエルフの長で行くことになった。

 俺だけ単独行動。

 領主の館は二階建て。

 鉄筋コンクリートなし。地盤への杭はなし。

 地震大国の日本人の感覚だと正直怖い。

 門の前には兵士の詰め所があった。

 俺は日本から持ち込んだ双眼鏡で森の中から様子を見る。

 魔法使ってもいいけど道具の方が楽だ。

 詰め所には数人の兵士がいた。

 巡回する兵士も数人見える。

 正面突破できるな……。

 まあ関口も皆殺しにしろとは一言も言ってない。

 要するに無力化しろということだろう。

 俺は森から出て隠形した。

 この世界の兵士のレベルは10程度。

 レベル25の隠形を見破る事はできない。

 俺は詰め所の横を通り、中に侵入する。


「【風の精霊よ。我に魔法の痕跡を示せ】」


 魔法を使うが反応はない。

 侵入感知の魔法はかかっていないようだ。

 俺は半地下にある保存庫の窓を見つけた。

 銅の網を蹴破って中に侵入。

 頭さえ入れば小さい戸でも侵入可能っと。

 するっと入ると水やら食料やらが置いてあった。

 せいぜい一日から二日分だろう。

 床にはトカゲやら虫やらがいるのが見えた。

 衛生状態が悪そうに思えるが、ここではこれが普通だ。

 半地下で冷えている分だけマシ。

 水も外にある井戸から汲んできた水の入った瓶がいくつも置いてある。

 井戸から直接水を飲むことは少ない。

 単に井戸が外にあって不便だからだ。

 そこで俺は思いついた。

 例の呪いだ。

 人格修正プログラムと俺を殺す呪い。

 二種類あった。

 たぶん人格修正の方がシステムのセキュリティプログラム。

 俺を殺そうとした方が黒田のウイルスだ。

 で、王を殺そうとしたってことは王は役割を終えた。システムにとって邪魔者なのである。

 本題だがその人格修正プログラムは俺を鉄砲玉にするために、ありとあらゆる暗殺方法を書込んだ。

 アサシンの知識外のものもだ。

 だから俺は何をすべきかわかった。


「【闇の精霊よ。呪毒をまき散らせ】」


 食料と水を汚染っと。

 もっとえげつない毒はいくらでもあるけど、とりあえず死なないやつね。

 半地下の貯蔵庫を出ると部屋がいくつもあった。

 焼却炉があったので火をつけるために置いてある松ぼっくりに細工をしておく。


「【闇の精霊よ……】」


 焼却炉の部屋を出ると廊下の燭台にも細工をしておく。

 一階に上がって食堂に侵入。こちらにも毒を仕込む。食器に食料に水っと。

 燭台にも毒を仕込む。

 二階に侵入。足音を立てずにこちらにも毒を仕込む。

 衛兵はいるがこちらに気づかない。

 こちらも殺気を出さないし、ただ燭台と食器に毒を仕込むだけ。

 作業が終わったら地下に移動して、半地下の戸から出て、銅の網を元に戻して終了。

 森に戻る前に外の井戸も汚染しておく。

 そして森に帰る。

 数時間後、夕方を狙って関口が館を訪問する。

 馬車はないので馬で向かうのが見えた。

 俺たちは乗馬はそれほど上手じゃない。

 馬に乗る必要がなかったからだ。

 グリフォンや大きなトカゲなら乗ったことがあるが……。

 おそらく日本で練習したのだろう。

 エルフの長が馬から下りて詰め所に行く。


「【音の精霊よ。彼のものの音を運べ】」


 俺は精霊に働きかけ音を拾う。

 さあ楽しくなって参りました。

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