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システム

 歌穂が俺の顔を手で挟んだ。


「シュウ、聞いて。こっちの世界にはエルフ語の話者はあんたしかいない。今からギター弾くからそれっぽい曲を先に歌って。私が追いかけるから」


 俺はうなずいた。

 歌うか……歌なんてアニソンしか知らんぞ……。

 あ、そうかエルフの民謡があったか。


「【あの森を今も思い出す……】」


 俺は歌う。

 歌穂も知っている曲だ。

 エルフが故郷に帰る。ただそれだけの歌。

 拉致された俺たちには心にしみた。

 ただ俺たちは家に帰りたかった。

 でもダンジョンで死んだ数百人は帰ることが出来なかった。

 それを俺たちは忘れない。

 考えているとだんだんと俺の思考は細くなりトランス状態になった。

 俺の歌に歌穂が追走する。

 その途端、俺の脳内に呪いの先にあるものが見える。

 満里奈は水晶玉を凝視して、呪文を詠唱する。


「【運命の精霊よ。線の先にあるものを映せ】」


 線とは俺たちの作ったライン。

 その先は、俺たちの歌で追跡した呪いの元だ。

 それはエルフの集落だった。

 満里奈の水晶玉にも同じものが映っているのだろう。

 そこにウェーブのかかった長い黒髪の男がいた。

 6本足の炎のたてがみを持った馬に乗り、ミスリル銀の鎧を着け大剣を持った男。

 勇者らしい美形。鍛えられた手足。

 自信に満ちた顔。

 俺よりもよほど勇者らしい。

 男は言った。


「これでエルフどもは終わりだ。あとは王を始末すればミッドガルドは俺たちの王国になる」


 赤い鎧の男が話しかける。


「で、黒田。ダンジョンはどうする?」


「ミッドガルドの連中を生け贄にする。ダンジョンは食えば食っただけ危険性が下がる。俺たちの奴隷を残してミッドガルドの連中は餌にしてしまえばいい」


「エルフはどうする?」


「男は皆殺し、女は生かしておけ。日本に帰るにはやつらの力を借りねばならん」


「じゃあ数人もらっていいな」


「ハーレムか? 本当にお前ら好きだな」


「それがしたくて転移したんだよ。俺もみんなもな。まったく、ゴミみたいな人生捨ててこの世界にやって来てよかったぜ!」


 アホどもが。

 政治的な決定権がない庶民殺したってなにも解決しない。

 また新たなバカが現れて拉致を繰り返すだけだ。

 王族だけ殺して、拉致が悪いことだと教えてやらねばならない。

 ってそこまで考えてるはずがねえか。

 それにしてもよく支配者なんかになろうと思うよな。

 5人パーティーの指揮取るだけでも死ぬような思いするのに。

 たった5人のパーティーでも、食事のタイミング、体調、スタミナ、死人が出たら死体の回収の可不可の判断。

 最悪の場合だとまだ生きてるメンバーを置き去りにする判断までしなきゃならない。

 それも俺の責任でだ。

 ストレスでたった一ヵ月で7キロ体重が減った。

 でもやつらはそんな思いをしたことはないだろう。

 黒田はさわやかにほほ笑んだ。


「誰かが見てるようだ。ああ、そうか……呪いを辿ったのか……あはははは。クレイジーなやつがいるもんだ。世の中は広いな! 見ている君。たぶん、俺たちの覇道を邪魔してるやつ。それはエルフの賢者たちがシステムへの侵入に対して発動する呪いだ。それを少々ハッキングさせてもらった。探知は不可能。システムに疑問を持った瞬間、命を奪うように調整した」


 そうか。黒田だった。

 黒田は操られてるんじゃない。

 黒田が呪いを操っていたのだ。

 おそらく仲間の粛正のために。

 そうかこうやって裏切者を処分してたのか。


「ぼくらはエルフの森を焼くところだ。敵キャラとして妨害してもいいし、仲間になってもいい。だが……敵キャラになるというなら必ず殺す。君の家族も友人も皆殺しだ……。僕らはミッドガルドに王国を作る。地球にも。逆らうものは殺す。君らがどう動くか楽しみにしてるよ」


 そう言うと黒田は柏手を打った。

 次の瞬間、距離が遠くなっていく。

 その最中、別の声が聞こえる。

 顔が映る。

 長い耳。青い髪。

 エルフの少女だ。


「【助けてください! このままじゃエルフは絶滅してしまいます! 誰か! 助けて……】」


 そのまま俺の意識は戻される。

 気が付くと血まみれで道場に横たわっていた。

 生きている。解呪二回。

 エルフ語を使える俺と高位神官のハヤトの力で二回。

 普通なら死んでいた。

 周りを仲間が囲んでいた。

 俺の目が正気に戻ったのに気が付いた真穂が俺に抱きつく。


「血がつくぞ」


「うるさい……ばか……」


 関口が俺の顔をのぞき込んだ。


「シュウ、俺も見たぜ。黒田の野郎、あいつ……まともじゃねえ」


「俺たちに助けを求めるエルフどもも大概だけどな」


 ミッドガルドには狂ったやつしかいないのか?

 と思ったそのときだった。


【クエスト:決断が発生しました。48時間後にミッドガルドへ転送します。クエスト同行者:真田咲良、渋谷楓】


 ハヤトが怒鳴った。


「ふざけるな! 俺たちがエルフを助ける義理はない!」


 関口と四宮はゴニョゴニョと話していた。

 四宮はハヤトの肩を叩いた。


「なあハヤト、キレる前によく考えろ。システムはエルフを助けろなんて一言も言ってねえ。見殺しにしてもクエスト自体は達成になるんじゃないか?」


 四宮は悪い顔をしていた。もちろん関口もだ。

 だが俺には違和感があった。


「なあ、俺を呪ったシステムを信頼するのか?」


「違うなシュウ、よく考えろ。いやお前の場合はシステムに直接聞いてみろ」


 あん?

 どういうことよ?

 まあいいっか、聞いてみよ。


「システム! お前が俺を呪ったのか!」


【否定します。システムに呪いの機能はございません。システムはエルフより古きもの。異世界人をサポートするために存在します。すでにシステムの権限を奪取、正常に戻りました】


「……じゃあシステム、クエストの達成条件を答えろ」


【エルフ側指導者の抹殺、またはミッドガルド王の抹殺、両者の抹殺でもクリア扱いになります】


「黒田の討伐は?」


【「決断」のクリア条件ではありません】


 なんだか違和感がある。

 なにかおかしい。


「ねえねえ……なんか隠してない?」


【否定します。なにも隠してません】


 隠してるな。


「じゃあさ、王族殺してもいい?」


【ご自由にどうぞ】


 殺す殺さないは行ってみないとわからない。でも殺すっていう選択肢があるのは生存率に大きな影響があるだろう。


「了解。それと、あのダンジョンの死体は誰?」


【エルフの賢者……ガープの亡骸です。アサシン、ガープは賢者エステルの師匠です】


 師匠の師匠だったか。

 うーん、そこまで師匠弟子ってわけじゃないからな。

 できれば葬ってやりたいが。


「なぜダンジョンに?」


【エルフは各地のダンジョンに賢者を向かわせました。目的は自己を犠牲にした大魔法の配置。システムの一部を乗っ取って異世界から勇者を召喚するプログラムでした。システムはすぐにそれを修正。会議の結果、異世界に召喚された人々を帰すポータルとして残しました】


「じゃあさ、なぜ俺たちを選んだの?」


【質問の意味がわかりません】


 俺はニヤリと笑った。

 笑いが漏れる漏れる。

 嘘をついてやがる!


「この嘘つきめ。恣意的な介入がないとでも? 俺たちが、たまたまあの部屋にたどり着いた? 違うね。システムは俺らを監視して俺たちニホンを選んだ。違うか?」


【……真実の一部公開が承認されました。ニホンではなく、神宮司修一及び山神隼人を選びました】


「システムが?」


【肯定します】


 つまりそういうことだ。

 俺たちはシステムに選ばれたのだ。


「呪いは?」


【システムの想定を超える出来事でした。直ちに修正致します。では48時間後に】


 そう言ってシステムは通信を切った。

 咲良、楓、そして歌音は俺を見ていた。


「歌音、お留守番しててくれ。お土産何がいい?」


「いらないよばか!」


「二人は大丈夫? ……俺が命がけで守るから」


「ばか! 命なんてかけないで!」


 咲良が怒りをあらわにした。


「あたし、決めたから。誘拐するのをやめさせる。誘拐された人たちを帰してもらう! 友だちがこんなに苦しむなんておかしい!」


 楓もこくりとうなずく。

 友人たちは本気のようだ。


「オラァ、シュウ! 武器寄こせ!」


 そして真穂は何かを決心したかのようだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] お疲れ様でした。 本来は「異世界」のバランスと秩序の安定させる「安全装置(ワクチンプログラム)」としてシステムがあったのだろうね。 最早存在しない「創造者(GM)」の権限を外法でもっ…
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