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俺はラブコメがしたいッ!【改定版】  作者: まるまじろ
二年生編・花嫁選抜コンテスト
78/295

小さな我がまま

 最終審査最初の挑戦を勤めた杏子の告白が終わり、花嫁選抜コンテストはいよいよ次の挑戦者の出番を迎えようとしていた。


「次は私が行きますね」


 またお互いに顔を見合わせる事になるかと思ったけど、そんな事も無くあっさりと次の挑戦者が決まった。

 告白審査の二番手に名乗りを上げたのは、マーメイドラインドレスに身を包んだ美月さんだ。

 モデルの様なスレンダー体型に豊満なバストを持つ美月さんにマーメイドラインドレスは非常に良く似合っていて、まるで御伽噺おとぎばなしに出てくる人魚姫が、そのまま現実に登場したかの様な錯覚さえ覚える程に美しい。

 世の中には見惚れると言う言葉があるが、まさにこの様な時にこそ相応しい言葉だと言えるだろう。


「では、最終審査二人目。如月さんどうぞっ!」


 渡の言葉を聞いた美月さんはマイク前までやって来ると、その前ですうっと息を吸い込む動作をしてからゆっくりと言葉を紡ぎ始めた。


「私の好きな人とは、小学校二年生の時に出会いました。ほんの二週間程の間でしたが、その彼とは一緒に楽しく遊びました。彼は何も無かった私に、沢山の楽しい事を教えてくれました。それが今の私の夢に繋がり、こうして私がここに居る理由にもなっています」


 美月さんの意中の相手が、幼い頃に出会った人物だというのは本人からも聞いている。しかしそれが、小学校二年生の時だというのは知らなかった。


「私は彼と楽しい二週間を過ごしたあと、その彼と長い間会う事はありませんでした。でも去年、私は偶然にも彼と再び出会う事ができました。でも彼は、私の事を覚えていませんでしたけどね……」


 そう言って寂しそうな表情を浮かべる美月さん。

 どこの誰かは知らないけど、こんな美人にここまで想われているのに勿体ない。すぐにでも俺と立場を代わってほしいくらいだ。

 それにしても、こんな美人に長年想われているのに、相手はまったくそれに気付いていないとか、世の中ってのはそう都合良く出来ていないという事の表れだろう。


「彼には今の生活と築いてきた環境があります。だから私は、彼に昔の事を無理に思い出してもらおうとは思っていません」


 これも前に美月さんから聞いた内容だが、彼女の思慮深さには相変わらず恐れ入る。

 だけど俺は、美月さん自身の気持ちも大事にしてほしいと、少なからず思っていた。だって長年想い続けてきた意中の相手に再会できたんだから、少しくらい我がままになっても良いと思う。


「でも、やっぱり寂しいと思う自分が居るのも確かなんです。だから私は――」


 まるで心の内にある想いを膨らませているかの様に瞳を閉じ、穏やかな微笑みを浮かべる美月さん。


「――だから私は、少しだけ我がままになってみようかと思っています。私との思い出に気付いてもらえるように。そして、初恋の彼に全てを思い出してもらえたなら、その時にはきっと、私はこの想いを伝えたいと思っています」


 そう言ってから深く頭を下げる美月さん。

 するとホール内に居る生徒達から、惜しみない拍手が送られた。

 それにしても、素晴らしい告白だったと思う。美月さんの想い人に対する真剣で誠実な想いが、ひしひしと伝わって来た。誰かを想う心というのが、こんなにも胸を打つものなのかと、感動すら覚えたくらいだ。

 下げた頭をゆっくりと上げた美月さんの表情はとってもすっきりした感じに見え、清々しささえ感じる。

 するとそんな美月さんが、俺の方を見て柔和に微笑んだ。

 俺はそんな美月さんを見て、その勇気ある告白への賛辞の意味を込めて誰よりも大きな拍手を送った。

 それにしても、やはり美月さんにここまで想われている相手が羨ましい。俺にも小さな時に出会った可愛い女の子が、美月さんみたいに俺を想っていてくれたりしないかな――などと、そんな妄想じみたアホな事を考えてしまう。


 ――そういえば確か、小学二年生の夏休みに田舎のじいちゃんの家に二週間くらい泊まった事があったけど、その時に近所に住んでるって女の子と一緒に遊んだ事があったような……。


 しかしかなり昔の事なので、その記憶はまるでかすみがかかった様になっていて、はっきりと思い出す事ができない。まあ何にしても、美月さんの事とはまったく関係無いだろうけど。

 こうして美月さんの素晴らしい告白タイムは終わり、審査は三人目の告白タイムへと移って行った。

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