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俺はラブコメがしたいッ!【改定版】  作者: まるまじろ
三年生編・last☆stage後半
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双子の繋がり

 本日最後の撮影のお相手、篠原愛紗しのはらあいしゃという人物を語る上で欠かせない部分を挙げるとすれば、あのテンプレの様なツンデレ要素は外せないだろう。本人はその事に気付いているのか分からないけど、仮に気付いていなかったとしても、その事をわざわざ教えようとは思わない。なぜなら俺は、そんな愛紗を見るのが好きだからだ。

 現実におけるツンデレ女子なんて、面倒臭くて仕方ない――そう思っていた時期が俺にもあった。いや、正確に言えば今でもそう思ってるんだけど、なぜか愛紗に限ってはそんな風に思わないから不思議だ。

 まあ、愛紗と高校で再会した時にはそのツンデレ要素に気付かず戸惑ったりもしたけど、一緒に居る内に段々とそんな部分が可愛らしく思えてきた。それはもしかしたら、愛紗が年下だから――というのもあったのかもしれない。

 タイプはまったく違うけど、俺としては杏子を相手にしている感覚と一部似ている気がする。とは言え、杏子の時ほど砕けた感じにはならないけど。


「すみません。お姉ちゃんの準備はもうちょっとで終わるので、もう少しだけ待って下さい」


 美月さんとの撮影を終えて愛紗が来るのを会場で待っていると、愛紗の妹である由梨ちゃんがやって来てペコリと頭を下げた。


「いやいや。別に由梨ちゃんが謝る様な事じゃないから気にしないで。それよりもごめんね。うちの宮下先生のせいで、貴重な休日を潰しちゃってさ」

「いえ。私も最初は驚きましたけど、こんな機会はそうそう無いので楽しませてもらってます」

「そうなの?」

「はい。さっきスタッフさんには了解を得たので、このスマホでこっそりとウエディングドレス姿のお姉ちゃんを撮影しようと思ってます♪」


 楽し気な笑顔でそう言いながら、由梨ちゃんは手に持っているスマホを構える。どうやらこの様子を見る限り、状況を楽しんでいるのは間違いなさそうだ。


「そういえば、由梨ちゃんと愛紗は双子だったよね? 二卵性双生児?」

「あ、いえ。よくそう聞かれるんですけど、私とお姉ちゃんは一卵性双生児なんですよ」

「えっ!? マジで?」

「本当ですよ。私も詳しくは知らないんですけど、一卵性双生児の中でも、まれな確率で外見がまったく違う双子が誕生するらしいんです。あっ、ちなみに血液型はお姉ちゃんと一緒ですよ」

「へえー、そんな事があるんだね。初めて知ったよ」


 生命の誕生ってのは、本当に神秘に包まれているんだなと、思わず感心してしまう。それと同時に、自分の無知に少し気恥ずかしさを覚えた。


「実は私も中学生になるまでは、お姉ちゃんとは二卵性双生児だと思ってたんですよ」

「そうだったの? それじゃあ、何を切っ掛けに知ったの?」

「えーっと、確かあれは中学生になって二ヶ月くらいが経った頃だったと思うんですけど、ある夜にお姉ちゃんの部屋で話をしてたら、『私達、二卵生の双子なのに趣味とか似てるよね』ってお姉ちゃんが話し始めたんです。そしたらたまたま部屋の前を通ったお母さんが部屋に入って来て、『あなた達は一卵性双生児よ』って教えてくれたんです」

「へえー、色々と偶然が重なったってわけか」

「そうですね。でも私は例え二卵性だったとしても、関係なくお姉ちゃんの事が分かったと思いますよ」

「双子によくあるって聞く、以心伝心みたいなやつ?」

「うーん……それとは少し違うかもしれません。私の場合はお姉ちゃんをずっと見てきたから分かるって感じなので、どちらかと言うと観察に基づくものかもしれません」

「ははっ。それは以心伝心って言われるより説得力があるね」


 以心伝心と言えば聞こえはいいけど、俺にはそれがどこかオカルト染みている感じがするので、由梨ちゃんが言った観察の結果というのはとてもしっくりくるものだった。


「ねえ。由梨ちゃんにとっての愛紗ってどんな感じなの?」

「そうですね…………一言で言うなら、素直だけど素直じゃない――と言ったところでしょうか」


 素直だけど素直じゃない――その言葉はあの愛紗という人物を言い表すのにとても簡潔で分かりやすい。その的確さは、流石に長年姉を見てきた妹と言うべきだろうか。


「はははっ。そっかそっか。由梨ちゃんにも愛紗ってそんな風に映ってるんだね」

「はい。でも、素直になれないせいで少し損をするところがあるので、そこだけは心配です」

「そうだね。そういうところはちょっとあるかもね」

「はい。でも龍之介さんがそんなお姉ちゃんの事も分かってくれてるみたいですから、そこだけは安心です」

「えっ? それってどういう――」

「あっ! お姉ちゃんが来ましたね」


 由梨ちゃんの言った言葉が引っかかって質問しようとしたけど、それは準備を終えた愛紗の登場により遮られてしまった。


「では龍之介さん。お姉ちゃんの事、よろしくお願いしますね?」

「あ、うん」

「それと、一つお願いなんですけど、お姉ちゃんが側に来たら感想を言ってあげて下さいね。よろしくお願いします」


 由梨ちゃんはそう言ってペコリと頭を下げると、俺の返答を聞く事なく愛紗の居る方へと向かって行った。なんだか完全に由梨ちゃんのペースに乗せられている気がするけど、あまり気にしない様にしておこう。


「お、お待たせしました。先輩……」

「おう。気にしなくていいよ」


 通常よりスカート丈が短いウエディングドレスを纏った愛紗が、側に来て恥ずかしそうにモジモジとする。その姿はいつもよりも愛紗を幼く見せ、愛紗の持っている可愛らしさを何倍にも増している。


「愛紗。似合ってて可愛いよ」

「と、突然何を言うんですかっ!?」


 自然と出た言葉に対し、愛紗が顔を紅くして慌てふためく。

 どうも愛紗はこんな風に褒められ慣れていないせいか、この手の発言をするとすぐにこうなる。そういったところも俺は結構好きなところだ。


「何をって、ドレスが似合ってて可愛いって言ってるんだよ」

「も、もうっ! それ以上言わないで下さい! 褒めたって何も出ませんからねっ!」

「えーっ!? 思った事を言っただけなのに」

「い、いいからもう止めて下さい。恥ずかしいので……」

「やれやれ」


 紅くなった愛紗を見ながら苦笑いを浮かべ、撮影の準備へと移る。これまでの撮影で結構疲れてるけど、気合を入れ直して頑張るとするかな。


「――先輩。ありがとう」


 そして撮影が始まってから最初のシャッターが押される瞬間、小さく囁く様な愛紗の声が俺の耳に届いた。

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