第76話 サディアスのやらかし
「……」
ブレンが語ったものに、その場にいる全員が絶句していた。
そんな話の内容は、以下のとおりである。
最初に語られたのは、登録試験の後に行われた最初の依頼、ソルケイ川の掃除をキルス達がまじめに行っている一方終始優雅にサボっていた日の翌日からであった。
その日、キルス達は本格的に冒険を始めたが、前日にサボっていたサディアスはそれができず再びソルケイ川の掃除を言い渡された。
当然、サディアスは文句を言ったが、そこはレティエルーナによって黙らされ、おとなしくソルケイ川に向かった。
しかし、これまた当然と言わんばかりにサディアスは掃除をしなかった。それでは一体誰が、となるとそれはともにいた使用人たち、というわけではなく、その使用人たちが金で雇った貧民たちだ。
貧民というのは、どの街にも存在している読んで字のごとく金を持たない者たちのことだ。
そんな彼らはお金さえもらえればどんなこともする、例えば汚いドブ掃除の肩代わりぐらいたやすく、むしろ儲け話であった。
というわけで、彼ら貧民にやらせそれを自身の手柄としてギルドに報告した。
だが、まるで前日の学習をしていないサディアスの行動はギルドに筒抜けであった。
そうなると、もちろん依頼失敗となった。
ここでも、散々文句を行っていた。
そうして、次の日も同じく川掃除を言い渡されたサディアスは、しびれを切らして怒りながらバイドルを出た。
それを聞いたキルス達はそれはそうだろうと思った。
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その後、サディアスの消息はわからなかった。
どうやら、サディアスはギルドカードではなく貴族の身分証で移動していたようだ。
そうなるとギルドではどこにいるのか把握できない。
まぁ、尤もギルドもサディアスのような貴族であっても低ランク冒険者の動向など一々見ていられないというのがあるが。
そんなこんなで、次にサディアスの動向がわかったのは、バイドルから南東にずっと進んだ先に位置するクワンエイト辺境伯が収める領都クワンタンであった。
そこで、サディアスはようやくギルドに顔を出し、あろうことかグリフォン討伐の依頼を受けると言い出した。
グリフォン、それは獅子の体と鷹の頭と翼を持つ魔物で、その危険度はAランクとされている強力な魔物だ。
だが、グリフォンはその強さから
それを、Fランクでしかないサディアスが受けられるはずもない、というかそもそも、サディアスがギルドカードを提出した瞬間最初の依頼も完遂していないことが判明した。
そこで、クワンタンのギルドも、そのことを指摘し同じく川掃除をするようにと指示。
ここでも、サディアスは当然の如く憤慨、そこにやってきたはこれまた貴族の身分を持つ受付嬢であった。
そんなやり取りの翌日サディアスはギルドにある人物の書簡を持ってきたのだ。
その人物とは、誰あろうクワンエイト辺境伯だった。
なぜ、そのようなものを持ってきたのかというと、実はサディアスとクワンエイト辺境伯は伯父と甥の関係だったのだ。
ここで、1つ疑問が浮かぶ、男爵でしかないドルゲスト家と辺境伯のクワンエイトがなぜ婚姻を結べたのかというものだろう。
その理由は、クワンエイト辺境伯とドルゲスト男爵が学生時代の親友であったことにある。
その関係で、クワンエイト辺境伯は自身の妹をドルゲストに嫁がせたのである。
そうして、生まれたのがサディアスなわけだが、クワンエイト辺境伯はこのサディアスをめっぽう可愛がっていた。
だからこそ、サディアスがギルドの対応を辺境伯に訴えたことで、すぐにこの書簡を設えたとのことであった。
尤も、たとえ領主からこのような書簡が届いたとて、ギルドが聞くことはない、しかし、このギルドのギルマスは辺境伯に大きな借りがあったことや、最初の依頼免除であれば、いいだろうと判断したのであった。
こうして、まんまと川掃除を回避したサディアスであったが、だからといってグリフォン討伐の依頼を受けることはできない。
そこで、押し問答があったが、さすがにギルドもこれを受けるわけにはいかなかった。
それを受けたサディアスはもういいと行って、再び街を出て行った。
そして、サディアスが向かった先は、なんとというか、やはりというかグリフォンが住むと言われる、キリエルオン王国とガバエント王国の国境に位置するカイゲルン山に登っていった。
キルス達はまずこの無謀さにあきれた。それはそうだろう、サディアスの実力はキルスやゲイルクが見たところ、せいぜいがBランクの中盤、危険度Aのグリフォンに遠く及ばない実力しかない。
しかも、グリフォンは、危険度Aといっても、Aランクの冒険者が4人以上は必要となる。
それを、供を連れてといっても無謀にもほどがあった。
その結果、予想通りサディアスはあっけなく敗走する羽目となった。
ここまでは、まだサディアスの自己責任なのでいいとしても、問題はこの後だった。
なんと、サディアスはグリフォンに追われながら山を降り、あろうことか小さな町に逃げ込んだ。
サディアスは町に入る際、追われているから匿えと警備兵に身分を明かした上で指示したが、自分を追っているのがグリフォンであることを言わずにさっさと町に入ってしまった。
そのため警備兵は盗賊か何かかと思い、一応の警戒をしていたところで、突然のグリフォン、慌てたが時すでに遅し、あえなく町はパニックとなり滅んでしまったという。
馬鹿の行動で、町が1つ滅んだ。これは最悪の出来事であった。
そもそも、グリフォンという魔物は、賢い上に魔物にしては珍しくかなりおとなしい、こちらから攻撃をしない限り、向こうから攻撃してくることはない。
だからこそ、グリフォンが住む山と知っていても、そのふもとで安心して暮らせていた。
では、なぜそんな魔物に討伐依頼がギルドに張り出されているのかというと、簡単に言えば人間の欲、ただその素材が様々なところで有用であり、危険度Aということで討伐すれば箔が着くというただそれだけの理由だった。
そのグリフォンをサディアスが無謀に挑戦し、無意味に刺激してしまった。しかも、サディアスが襲ったのは不幸にも子供のグリフォンだった。
子供を傷つけられて怒らない大人はそうそういない、グリフォンも同じで、憤慨しサディアスを追ったのである。
まさに最悪の行動である。
だが、最悪と絞り出したキルス達を絶句させるのはこの後のことだろう。
というのも、サディアスが逃げ込んだ町、ここが問題であった。
サディアスはグリフォンから逃げるためにカイゲルン山を降りた。しかし、それがどの方角かはわからずに、つまり、それはガバエント王国側であったことなどつゆにも思わなかったのだ。
そう、サディアスが逃げ込んだ町はガバエント王国の北西に位置するトラッブラー辺境伯の領地にあるトロンボンという小さな町だったのだ。
しかも、その町は最悪なことにトラッブラー辺境伯の母親が静養の為に滞在していた。そして、さらにタイミング悪く、辺境伯の妻と唯一の幼い子供が見舞いと称して訪れていたのだ。
そうして、グリフォンの襲撃に巻き込まれ命を落としたという。
馬鹿のせいで最愛の母親と最愛の妻子を同時に亡くしたトラッブラー辺境伯は悲しみにくれた。
そして、それがキリエルン王国の貴族の子息であるサディアスが引き起こしたこと、サディアスがクワンエイト辺境伯の甥であることを知った時、ある疑いを持ってしまった。
それは、クワンエイト辺境伯が策略としてグリフォンを差し向けたのではないかというものであった。
この際、クワンエイト辺境伯が甥を失ったという事実を考えなかった。
ただただ、母親と妻子の仇を取りたかったトラッブラー辺境伯はすぐさまクワンエイト辺境伯に抗議した。
一方でクワンエイト辺境伯も可愛がっている甥が他国のしかも、普段から仲たがいしているトラッブラー辺境伯の領地の町で命を落としたことで怒っていた。
なぜ、サディアスを救わなかったのかと。
そう、実はキリエルン王国とガバエント王国は長年友好国として付き合い、王族に至っては幾度となく婚姻を結んでいる為に親戚のような存在。
しかし、実際に隣り合っているクワンエイト辺境伯家とトラッブラー辺境伯家は非常に仲が悪かった。
それが、この事件で最悪なほどに悪化してしまった。
もはや、お互いに兵を募り、戦争状態に入ろうとしていた。
もちろん、両国王としては、戦争などしたくない。そこで、お互いの辺境伯に待ったをかけつつ奔走しているという話しであった。
「……」
「……殿下が言っていたのは、このことか」
沈黙する中、キルスは誰にも聞こえない声で、バイエルンで出会ったキリエルン王国第二王女であるカテリアーナの占いを思い出していた。
『近い将来、我が国は北と南、双方との戦争状態と入ります』
まさに今、南に位置するガバエント王国との戦争が勃発しそうであった。




