第67話 王女の試食
コントラル祭り2日目、トルレイジ亭のブースはなぜか客がまばらであった。
その理由は、アクレイド商会の企みで、トルレイジ亭のハンバーガーが元はアクレツ亭で考えられていたものであるという、状況から考えてちょっと無理のあることをビラで謳ったり、まるでトルレイジ亭の肉が鮮度の低い肉を使用しているかのように宣伝して回っているからであった。
さすがにこれには腹を立てるキルス達であったが、その時、突如キリエルン王国第二王女たるカテリアーナが尋ねてきた。
カテリアーナの目的は前日にキルスから聞いていた、ハンバーガーなる物を食したいがためであった。
だが、そこへアクレイド商会長であるゴーザスが突如やってきて、トルレイジ亭の肉が廃棄寸前のくず肉を使用していると言い出した。
それを聞いたシュレックは怒り、カテリアーナはキルスに尋ねたところ、根も葉もない言いがかりであると実際に使用している肉のブロックを持ってきて説明したのだった。
そんなやり取りを遠目で見ていた者たちは、1つの疑問が浮かんでいた。
「なぁ、これって、どう思う」
1人の男が、となりの友人にアクレイド商会が配っていた紙を差し出して見せた。
そこには、トルレイジ亭がアクレイド商会のアイデアを盗んだと書かれている。
「どう考えても、違うだろ、だって、あいつ、パンのことバンズだの、肉のことをパテだのいっているんだぜ」
「だよな。それに、王女殿下があいつが考案したって、さっき言っていたよな」
「言ってた、言ってた。さすがに王女殿下相手に嘘つくやつはいないだろ」
「そうなると、やっぱり、違うよな」
そんな会話がいくつかの場所で発生していた。
それを聞いたゴーザスはまずいと考えた。
まさか、具材の1つ1つに名前がついているとはつゆにも思わなかったのだ。
だが、こうも考えられた、キルスがこの場でいかにも自分が考えたようにたった今名前を付けたのだと。
そう言おうとしたところで、不意にキルスがハンバーガーの中身である肉、パテだけの料理があること説明しだしたのだ。
しかも、その名前はハンバーグという。
「ハンバーグですか、それはどのようなものでしょうか」
「そうですね。見た目はこのパテと似ていますが、パテには味付けしたミンチ、えっと、細かくした肉をまとめて焼いただけですが、ハンバーガーはそこにタマネギなどをまぜつなぎというものを入れて成形して焼いたものです」
キルスは簡単にハンバーグのレシピを説明した。
「なるほど、それもおいしそうですね。では、それを頂けますか」
「わかりました。といっても、ここでは何ですし、デイケス小父さん」
キルスは最後に店主であるデイケスに確認をとった。
「構わんが、オルク、お前が調理しろ」
「えっ、僕がですか」
デイケスの突然の指示にオルクは驚愕した。
「そうだ、お前はもう一人前だ殿下にお出しするには十分の腕があるし、なによりキルスのレシピだ。俺より兄であるお前の方がよく知っているだろう」
「わかりました、殿下、まだまだ、未熟の身ではありますが、僕が料理させていただきます」
オルクは少し緊張しながらそういった。
それを見たカテリアーナは少し、ほんの少しだけ呆けていた。
というのも、カテリアーナはオルクを初めて見てから、こんな整った男性が平民にいるのだろうかと、これまで王族や貴族といったある程度整った顔を持った者たちを見てきたカテリアーナさえ魅了されていた。
もっとも、カテリアーナは王族であり、オルクは平民、身分が違うし、何よりオルクには婚約者がいることは前日にキルスから聞いていたこともあり、それ以上思うことはなかったが……
「え、ええ、お願いします」
というわけで、キルスとオルク、ついでにキレルの兄弟と、カテリアーナとシュレックが連れ立ってトルレイジ亭の厨房にやって来た。
「では、お願いします」
「わかりました、それじゃ、兄さん、玉ねぎをみじん切りにしてくれ、俺はミンチをやるよ」
「わかった、任せて」
「キルス兄さん、私も手伝う」
ここで、キレルも手伝いを申し出てきた。
「そうだな、キレルはこのパンをパン粉にしてくれ」
「わかった」
それから、キルス達はハンバーグをキルスの指示の元作り始めた。
「兄さん、みじん切りが終わったら、玉ねぎを炒めて」
「どのくらい」
「そうだな、きつね色までとはいうけど、家でもそこまで炒めてないから、しんなり程度でいいと思う」
「了解」
「キルス兄さん、パン粉出来たよ」
「おう、それじゃ、それを少量のミルクに付けておいてくれ」
「うん」
そんな風に手際よく料理を初めた兄弟を見ていたカテリアーナはうらやましそうに眺めつつ、気になった単語を尋ねた。
「キルスさん、このハンバーグというものは、キルスさんのご実家でも出されているのですか」
「出してますよ。といっても最近ですけど、子供や女性冒険者から人気がありますね」
「そうなのですね。確かに、女性だと、こちらの方が好まれるかもしれませんね」
「そうですね。まぁ、中には、肉にかぶりつきたいって女性冒険者もいますけどね」
「ふふふっ、そうなのですね」
「ふんっ、肉はかぶりつくものだ」
それから、キルス達は会話をしながらも手早くハンバーグを作っていき、ついに出来上がった。
「さぁ、殿下、出来ましたよ。どうぞ」
というわけで、さっそくキルスはカテリアーナの前にハンバーグを出した。
「ありがとうございます。おいしそうです」
「お待ちください、殿下」
カテリアーナが食べようとフォークとナイフを手に取ろうとしたところでシュレックから待ったがかかった。
「どうしたのですか」
「そんな下賤な者どもが作った。なにかもわからないものを口にされては何があるか分かりません。妙なものでも入っているかもしれません」
「……」
「なにそれ」
キルスとオルクはあまりの発言に少しあきれ、その間にキレルが憤慨した。
そんなまだ、幼いと言えるほどの少女であるキレルに対しても、にらみつけながら言った。
「調子に乗るなよ、平民」
「はぁ、シュレック、お前、さっきから調理する過程を見ていただろ、その中でどうやって、妙なものを入れるんだよ」
キルスはあきれながらそういった。
「そうですね。シュレック、失礼ですよ。わたくしも見ていましたが、妙なものなど入っておりませんでしたよ」
「しかしですね。殿下」
シュレックはカテリアーナに窘められて、たじろぐも反論しようとした。
「だったら、お前も食えばいいだろ、兄さん」
「うん、わかった。どうぞ、食べてみてください」
「そうですね。シュレック、頂きなさい」
シュレックとしては平民が作ったものなど口に入れたくもなかったが、カテリアーナからの命令となれば仕方ない、ハンバーグを口に運ぶのであった。
「!!」
シュレックはまずいものだと思い込み、即座にまずいと言い放つつもりだった。
しかし、口に入れた瞬間、肉がほぐれ、口中に肉汁とタマネギの甘みが広がり、実に旨かったのだ。
「どうやら、おいしいようですね。では、わたくしも」
そんな一瞬のスキにカテリアーナも手ばやくハンバーグを口に入れた。
「まぁ」
口に入れた瞬間そのうまさが広がり、カテリアーナは一瞬にしてその味の虜になってしまった。
「おいしいです。おいしいですオルクさん」
「ありがとうございます。殿下」
「どうやら、気に入ったみたいですね」
「おいしいでしょ。へへへっ」
カテリアーナの称賛にオルクは少し照れながラ応え、キルスは満足げに、キレルは自慢げにそういった。
「はい、キルスさん、このハンバーグのレシピを城の料理人に伝えてもよろしいでしょうか」
ここで、カテリアーナは申し訳なさそうにそう尋ねてきた。
「もちろん構いませんよ。これをどうぞ」
キルスはこうなると予想して、すでにハンバーグのレシピを紙に書いていた。
「ソースは、ハンバーグに合うように父が作ったものですから、城の料理人であれば、みずから作り上げてくれると思いますよ」
「そうですか、ありがとうございます。これで、城に戻ってもこれをたべられるのですね」
こうして、カテリアーナのハンバーグ試食会は終了し、カテリアーナは上機嫌で王都に帰っていった。




