第63話 信用問題
「エンシェントドラゴンの血、ですか、確かに俺は持っていますが、お断りします」
キルスは第二王女であるカテリーナの願いをきっぱりと断った。
「なっ!」
「貴様ぁ」
断られるとは思ってもいなかったカテリーナは目を見開いて驚き、シュレックは怒りに顔をさらに真っ赤にしていた。
一方、伯爵は落ち着きながら場を見守っていた。
「ど、どうしてでしょうか」
カテリーナは動揺しながらもなぜ譲ってくれないのかを尋ねた。
「そうですね。簡単に言えば、信用できないからです」
「なんだと」
「!!?」
これにはカテリーナも心底動揺した。王国の姫たる自分が国民であるキルスから信用されていないという事実を受け止めきれなかったのだ。
「どういうことだ、貴様、答えによっては、わかっているだろうな」
シュレックは怒り心頭という感じで、すでに抜剣寸前であった。
「キルスさん、差し付けなければ、お教え願えませんか」
カテリーナもなぜ自分が信用できないのか、少し心を落ち着けてから尋ねた。
「俺は元々あまり王族や貴族というものを信用していません」
キルスは前世でハエリンカン王国の王族や貴族に利用され、罪を擦り付けられ、処刑された。
その経験から考えれば、これは当然のことだろう。
「ですが、伯爵様については、母からや、自身の目で確認して信用できると判断しています」
キルスは続いて隣に座る伯爵にそう告げた。
すると、伯爵も少しほっとしていた。
「それは、殿下も同じですよ。殿下も俺の目で確認して、信用できる人物であると思っていますから」
キルスの場合、前世のことから王侯貴族はマイナスから入る、そのうえで話をして、信用できると判断したわけだ。
「では?」
キルスの言葉を聞いてカテリーナはますます訳が分からなかった。
信用できるのに、信用できない、どういうことだろうかと。
「俺が信用できないのは、その男です」
キルスはそういってシュレックを見た。
「出会った瞬間から睨まれて、伯爵様の提案だったこともあり、仕方なく模擬戦までしてやったというのに、いまだに睨んできますし、むしろ殺気まで飛ばしてきていますからね。そんな奴を傍においている殿下を信用できないということです」
「貴様、平民の分際で、してやっただと、ふざけるな」
シュレックの心境としてはすでに抜剣して、目の前の不届き物を切り捨てたい一心だった。
しかし、この場には自分の主であるカテリーナと自身より爵位が上である伯爵がいる。
そんなところで抜剣すれば自分の立場が悪くなることは明白であったからだ。
「おやめなさい、シュレック、キルスさんわたくしの騎士が申し訳ありません」
本当に剣を抜きかけているシュレックをたしなめつつカテリーナはキルスに謝罪の言葉を述べる。
「はぁ、おい、お前さ、これで何度目だ」
「なに」
キルスはため息を吐きながらシュレックに尋ねた。
「殿下が俺に謝罪をしているのが何度目かと聞いているんだ」
「貴様ー、先ほどからの不敬の数々、許せん、たたっ切ってやる」
怒り心頭であるシュレックはもはやキルスの問も聞こえていないようだ。
「自分の言動によって、使えるべき主に頭を下げさせることの方が不敬だろに」
「ふむ、キルスのいう通りだな」
伯爵もキルスの発言が正しいと後押しをした。
「殿下、エンシェントドラゴンは俺が命がけで数時間闘って、まさに運よく倒せた存在です。その素材をお譲りするには、やはり信用できる者にと考えております。ご覧のようにこの男はいまだに俺を睨んでいる。そんな人間を信用することは無理というものでしょう」
キルスはカテリーナに諭すようにそういった。
「そうですね。確かに、その通りです。申し訳ありません」
キルスの説明にカテリーナも納得した。
実はカテリーナもこのシュレックが平民嫌いであることは知っており、今回エンシェントドラゴンを討伐した人物がその平民の冒険者であることは知っていた。
しかし、シュレックは自身の騎士団の団長であり、平民が絡まなければ優秀な男であった。
そういうことからシュレックを護衛としておかない理由はなかったのだ。
だが、今回平民の冒険者であるキルスと交渉するのに、平民嫌いであるシュレックを傍においていたのは失敗である。
カテリーナはそれを今痛感していた。
「すみません、キルスさん」
カテリーナは王女という立場があるにも拘らずキルスに対して深々と頭を下げたのであった。
(へぇ)
それを見たキルスはますますカテリーナに対して好感を持てた。
「頭をお上げ下さい殿下、まずは、その男を外に出してもらえませんか」
キルスはこれからの話にシュレックがいては出来ないとそう告げる。
「なんだとぉ」
これにはますます怒りを覚えるシュレックだった。
「わかりました、シュレック、外に出ていてください」
「っ、わかりました」
さすがのシュレックもカテリーナに言われれば否とは言えずおずおずとキルスを睨みながら出て行った。




