第62話 王女の目的
バイエルンの街は今3年に1度のコントラル祭りで盛り上がっていた。
そんな中、キルスは領主に呼ばれて1人領主屋敷に赴いた。
そこでここキリエルン王国第二王女であるカテリアーナであった。
キルスは、ここに来る前にタニヤからその存在が来ていることを噂程度で知っていたために、そこまで驚くことではなかった。
とはいえ、相手は王女、キルスも緊張しながらも話し相手をすることになる。
その話は当然、キルスがエンシェントドラゴンを討伐したというものであった。
王女はこの事実に素直に感心する一方、護衛をしている騎士シュレックは違った。
それを見たバラエルオン伯爵はキルスとシュレックの模擬戦を提案したのだった。
キルスは特にやる気も見せずに仕方ないという風に模擬戦をすることに、その際にキルスは無手であったが、全く問題なく圧勝して見せた。
「くそっ、貴様、離せ」
転ばされた上に腕を背中に押し当てられて動けないシュレックは王女の前で恥をかかされたと、顔を真っ赤にしながらも叫んでいる。
しかし、いくら力を込めたところで、一切キルスを振りほどくことができず、もがいている。
「ほぉ、強いとは思っていたが、ここまでとは、それでも、そのものは殿下の護衛騎士、この国でも5本の指に入る実力であったはずだがな」
「5本? それって、騎士たちの間ですか」
キルスがそういったのは、すでにこの男より強い者を3名ぐらいはすぐにあげることができるからだ。
それは、自身の母レティアであり、キルスの登録試験を担当したゲイルク、その際に見た貴族サディアスである。
最も、キルスはすでにサディアスの記憶はないために、今思い浮かぶのは2名であったが……。
「そうだ。冒険者の数は無数にいるからな、そんなものを比べるなど無理だ」
「なるほど、そういうことですか」
「貴様、離せ」
「あ、あの、キルスさん、そろそろ……」
伯爵とのんきに話をしているキルスであったが、その下にはいまだに吠えているシュレックがおり、王女はそろそろ離してくれないかと、キルスに言った。
「ああ、はい、忘れていました」
そういってキルスはようやくシュレックを解放した。
「ぐっ」
ようやくの解放にシュレックは悔しそうにしながら立ち上がった。
「ふむ、では、続きは応接室にて行いましょう」
ここで、伯爵がそういったことで、キルス達は屋敷内に移動を開始した。
もちろん、この際もずっとシュレックはキルスを睨みつけていた。
「さぁ、どうぞ、お座りください」
応接室に付くと、まず先ほど座ていた位置にカテリアーナを座らせ、続いて伯爵が座り、それを見たキルスが最後に座った。
シュレックはカテリアーナの背後でキルスを睨みつけていた。
「キルスの実力はご覧いただいた通り、まぁ、私にとってもあそこまでとは予想外でしたが、いかがでしたでしょうか、殿下」
「そうですね。確かに、キルスさんであればドラゴンを討伐も出来るでしょう。ですが、キルスさんはその若さでなぜあのようなお力を」
カテリアーナとしても気になるところであった。カテリアーナとキルスはほぼ同年代、そのようなキルスがどうしてあそこまでの実力を持っているのか気になった。
「殿下は、殲滅のレティアという冒険者をご存知ですか」
「殲滅? ですか、いえ、すみません存じ上げません」
「!!」
レティアのことを聞き若いカテリアーナは知らないと応えたが、ある程度年齢に達しているシュレックは知っていたようで、憎々し気な表情をした。
「殿下はお若いので、ご存じないかもしれませんが、後ろのシュレック殿は、やはり知っているようですな」
「あら、そうなの、シュレック」
「は、はい、危険な女です」
(危険って、いや、確かに、物騒な二つ名だけど、人の親に向かっていうことじゃないよな)
キルスもレティアを危険な女呼ばわりされてあまりいい気はしない。
「キルスは、その殲滅の息子なのですよ」
「まぁ、そうなんですの。そうなると、キルスさん、申し訳ありません、知らぬこととはいえ、シュレックがとんだ失礼な発言をいたしましたわ」
「いえ、お気になさらずに、実際、二つ名は物騒ですからね」
先ほどのシュレックの発言に対して、カテリアーナはすぐに謝罪したのでキルスとしては好感が持てた。
一方シュレックは、カテリアーナが謝罪しているというのにキルスに対して殺気に近い憎悪の表情をしていた。
「殲滅の由来は様々ですが、最初はオークの群れをたった1人で殲滅したことによるものでしょうな」
「まぁ、オークの群れを」
「ええ、それも、オークジェネラルが率いているような大きな群れだったそうです」
「そんな、危険なものをたったおひとりで、凄いですね」
話を聞きカテリアーナはレティアがいかにすさまじいかを理解できた。
「ええ、確か、その時の年齢は、殿下と同じだったかと思いますよ、そうだったな、キルス」
「そうですね。殿下のご年齢は分かりませんが、当時母は、17歳だったと聞いています」
「あら、それなら、同じですわ」
それから、レティアに興味を感じたカテリアーナはキルスにレティアについて色々質問していった。
そうして、時間が過ぎていく中、キルスはふと、なぜ自分が呼ばれたのかをまだ聞いていないことに思い至った。
「……ところで、伯爵様、俺はなぜ、呼ばれたのでしょうか」
「おお、そうだったな、すまん」
「そうでしたね。すみません、今日キルスさんをお呼びしたのは、わたくしの目的の為です」
伯爵が謝罪して、そのすぐ後にカテリーナが謝罪を口にした。
「殿下の目的、ですか」
「はい、実はですね。ぜひ、エンシェントドラゴンの血を分けていただきたいのです」
エンシェントドラゴンの血は、錬金術などで大活躍するような素材であり、また、占いなどにも使える素材でもある。
「血ですか、それを一体何に」
「貴様は黙って血を差し出せばいい」
キルスが尋ねると、シュレックがすかさずそういいだした。
実は、このシュレックは貴族家の人間であり平民が嫌いであった。
「シュレック、いいのです。申し訳ありません、キルスさん。わたくしは占いをしているのですが、近頃少し不穏な結果が出たのです。それをより正確にするために強い力の素材を使う必要があるのです」
カテリアーナの占い、こう聞くとキルスは前世の占いを思い出すが、この世界の占いはそういった統計学や観察などの結果とは違い、魔力を使った、本当の意味での占いである。




