第50話 バラエルオン伯爵~邂逅~
バイエルンに到着して、キルス達兄妹はさっそく領主の元へと向かい、領主に面会を求めた。
そこで、思わぬことが起きた、キルスもこの時は面会のアポをとるだけだろうと考えていた。
しかし、領主はすぐにでもキルスに会うと言ってきたのだ。
それはキルスも領主に会うなんていう面倒ごとはすぐに片付けたいので、それを了承し、今、まさに質素な応接間にて領主が来るのを待っていた。
そして、少し待っていると、不意に扉がノックされた。
「失礼いたします。伯爵様がお越しです」
執事のセライスの声が聞こえたことでキルスは立ち上がり、キレルもそれに倣って慌てて立ち上がった。
「よく来たな。俺がバラエルオン伯爵だ」
バラエルオン伯爵は、貴族の出身だがあまり格式ばった話し方はスキではない、また、話し相手がキルスという平民の冒険者であるということも、このような話し方となった理由であった。
「初めまして、俺は、Dランク冒険者のキルスです。こっちは妹のキレルです」
「は、初めまして」
キレルは領主ということで緊張していたが、キルスは一切緊張していなかった。
「ほぉ、さすがは殲滅の子か」
ここでなぜかバラエルオン伯爵が感心した。
というのも、このバラエルオン伯爵は強面で、怒っているわけでもないのに謝られ、機嫌よく歩いているだけで子供に泣かれるという経験があった。
キルスはそんなバラエルオン伯爵を見て伯爵が何を感心したのかを理解した。
「俺たちは父で慣れていますから」
「グワッハハハハ、なるほどな。そういうことか」
バラエルオン伯爵もさすがに2人の父ファルコがどういう人物かをある程度調べていた。
それによると、性格は温厚だがその顔は凶悪の一言であると聞いていた。
「さて、改めて、よく来た。まぁ、座れ」
そういって、バラエルオン伯爵はキルス達に座るように勧めてから自身も対面に座った。
すると、見計らったようにメイドが3人の前に紅茶と焼き菓子を置いた。
それを見た、キルスは軽く会釈をしキレルはその焼き菓子から目を離せないでいた。
それというのも、この世界で焼き菓子というものは、主に貴族や大商人といったお金持ちが食するものであり、キルスのような一般庶民が口にすることなどありえないからだった。
そうして、そんなキレルの様子を見ていた伯爵は、少し微笑みながら、自身からまず焼き菓子に手を伸ばす。
それを見たキルスも伯爵の意図を読み取り、焼き菓子に手を伸ばしつつ、キレルにも数枚渡した。
受け取ったキレルはというと嬉しそうにキルスを見てからそれを口に運び、おいしそうに頬を緩める。
その様子は、この場に流れていた緊張を緩めるには十分だったようで、全員が微笑んでいた。
「キルスだったな。来てもらったのは他でもない」
「ダンジョンと、エンシェントドラゴン討伐の件ですね」
キルスもここに呼ばれた理由はすぐにわかった。というかそれしかないからだった。
「そうだ。聞くが、間違いなくエンシェントドラゴンであったのか」
伯爵もエンシェントドラゴンの脅威は知っている。そのエンシェントドラゴンを目の前の少年が倒せるとは思えなかったのだ。
「それは間違いありません」
キルスは少しのみじんもなく応えた。
「ずいぶんと自信があるな。その根拠はなんだ」
キルスが見せた自信はかなりのものがあり伯爵も興味が引かれた。
「俺には、鑑定スキルがありますから、それで確認しています」
これは事実であった。しかし、ここでキルスは鑑定スキルは先天性の物であると主張することにした。
なぜなら、スキルの石碑の存在は伏せておきたかった。
「ほぉ、鑑定スキルか、それはまた珍しい物を持っているものだな。具体的には何を鑑定できる」
伯爵が具体例を聞いてきたのは、鑑定スキルは珍しいが、それは何かを断定した物だけ、例えば植物に特化した鑑定スキルや、魔物や動物などに特化したものとなる。
「俺の鑑定はすべてです。この世にあるあらゆるものを鑑定できます」
何が鑑定できるか、これは別に領主に隠す必要はないために正直に答えた。
「すべてだと、それはまた、さらに珍しい物を……」
すべてであると聞いて伯爵も驚愕した。
「ええ、母からもそういわれています」
そうは言うが、すべての鑑定ができるスキルは先天性のスキルよりも一段上の物となるために、普通は存在しない。
「そうか、もしその力必要なときは依頼をさせてもらうぞ」
「はい、いつでも。本来ならバイドルを拠点としていますが、一か月ほどはこの街にとどまるつもりですから」
「ほぉ、それはいいことを聞いたな」
それから、キルスは伯爵の質問に応える形でエンシェントドラゴンとの闘いの様子などを語り、ダンジョンのことを話した。
伯爵も当初はダンジョンがバイドルの収益に繋がる何かあるのではないかと考えたが、さすがに一階層から、オークが存在しすでにキルスによって最下層のボスを倒されていることからあまり有用ではないと考えた。
「……それでは、宝物について聞きたいのだが、報告によれば、ギルドマスターには荷が重い物であったと聞くが、俺にも重い話か?」
大体の話が終わり、最後にやはり宝物について聞いてきた。
これは、キルスも予想できたことであり、出発前にレティアからも予想できると聞いてきたことであった。
「そうですね。どのように報告があったのかは分かりませんが、かつてこの宝物を求めて戦争になりかけました」
キルスがその後、簡単にマジックストレージのことを伏せつつ、なぜダンジョンが作られたのかなどを説明した。
「……それはまた、とんでもない物であることはわかった。それでも、教えてはくれぬか」
伯爵もここまで聞けば、どういったものかを知りたくなった。いわゆる怖いもの見たさである。
「わかりました、母からも伯爵様であれば教えても大丈夫だろうと言われていますし、俺自身、こうしてお会いして、話をして、問題ないと判断しました。しかし、あえて警告しますが、これは本当に危険なものです。なるべくなら知る者が少ない方がいいと判断します」
キルスはそういって、控えていたメイドやセライス、または周囲を見渡していった。
「うむ、確かに、一理あるな。お前たち下がっていろ」
伯爵はメイド達にそう告げたことで、その場に控えていたメイドはすぐに部屋から出て行ったが、セライスだけは下がらなかった。
「セライスは、我が家に長年仕えており、信用できる、構わんか」
「それは、伯爵様に委ねます。それより……」
キルスは、周囲を改めて見た。
「はははっ、さすがだな、お前たちも下がっておれ」
実はこの部屋の周囲には伯爵が用意した影の者達が潜んでいた。
それが下がったのを確認したキルスはいよいよマジックストレージについて話した。
「……これが、この魔道具です」
すべてを説明し終わって、キルスは伯爵に自身がつけているマジックストレージを見せた。
「……これが、か、しかし、とんでもない魔道具だな。なるほど、確かにこれなら、誰もが欲する。戦争になってもおかしくないな」
話を聞いた伯爵は冷や汗を流していた。
「はい、このようなものがあれば、物資の運搬などに革命がおきましょう」
セライスも思わずといった感じにそういった。
「ええ、そうです。これで、あまり話せないことはお分かり頂けたかと」
「ああ、わかった、これは確かに危険な物だな。だが、有用なものでもある。もし、何かあった時は頼る日が来るかもしれん」
「はい、その時は……」




