第224話 落ち着いた領地
オルクの結婚から一か月が過ぎた。
オルクが開いた代官食堂はいまだに盛況であり、多くの住人が利用していた。
また、住人の中から従業員を雇い入れたことで、落ち着きを取り戻したのは言うまでもないだろう。
こうして、オレイスの住人とは特にもめることもなくオルクは住人から人気を獲得したのだった。
一方、キルスがいるオルスタンでも当初のもめ事が嘘のように、キルスは受け入れられていた。
それというのも、やはりE&R商会とスタンピードの際に見せたキルスの力が大きい。
しかし、それだけではなくキルスは街の住人からの歎願を受けて防壁などを中心に修復を素早く行い、孤児たちのため孤児院を建設。
そこの責任者をE&R商会会長の1人であるエミルを起用したことで、E&R商会として孤児院の職員を雇っている。
また、そのE&R商会ではキルスの提案で孤児院を利用した託児から、育休産休を取り入れたことで女性たちから多くの支持を受けたのだった。
「街の修復の件はどうなった?」
キルスはメリッサに街の修復の進捗を尋ねた。
「はい、おおむね終了しております。あとは個人宅の細かな修復が残っております」
メリッサによると、街の重要な施設である防壁などの修復はすでに完了しているが、今現在個人宅の傷などの修復が残っているだけとなっていた。
「なら、そろそろこの屋敷を建て替えてもいいかな」
「はい、問題ありません」
キルスが今現在住んでいる屋敷は以前の領主であるダレンガンが住んでいた屋敷であり、豪華絢爛を絵にかいたような建物と内装で、キルスにとっては悪趣味な屋敷だった。
そのため、キルスとしてはすぐにでも建て替えたいと考えていたのだった。
しかしそれはあくまでキルスの個人的な思いでしかなく、領主である以上それを真っ先におこなえば、住人から反感を買っていただろう。
なにせ、この屋敷は趣味に合わないだけで、住む分には全く問題ないのだから。
だからこそ、オルスタンが安定し街の修復が終わった今、屋敷の建て替えをしてもいいのではないかと考えたのだった。
「とはいえ、いきなりやるのはどうかと思うし、一応領民たちに説明をしたほうがいいだろうな」
「それがよろしいかと」
「なら、区長たちを呼んでくれ」
「かしこまりました」
キルスが言った区長というのは、街をいくつかの区分に分けそれぞれの代表のことで、キルスの提案によって実現したものであった。
これにより、区長から街の住人たちの声を代表して聞くことができ、キルスの言葉を住人たちに素早く伝えることができるのであった。
その区長選出は住人たちの自薦他薦は問わないが、最終的には立候補者となっていた。
というのも、やはりいくら周囲が認めても本人がやる気がなければ意味がないからだ。
そうして行われた初めての区長選、各地では住人による投票が行われた。
初めてのことゆえ、当初は混乱を極めたが何とか開票までこぎつけることができた。
その結果8名の区長が誕生したのだった。
区長たちは初代ということもあり、やる気に満ち溢れキルスの呼びかけに応じてすぐに集まった。
「みんな、良く集まってくれた。さっそく本題に入るが、以前から歎願されていた街の修復もほとんどが終了、後は個人宅のみとなった」
「おおっ、それは」
「ありがとうございます」
キルスの言葉に感動する区長たち、それというのもやはりダレンガンが全く聞き入れなかったことに起因する。
「そこでだ。実は最初から思っていたことを実行したいんだけど、それをみんなに相談したくてな」
「相談ですか?」
「それは一体どのようなことでしょうか?」
区長たちは一体キルスが何をいうのかと少し緊張した。
「いや、特に大したことではないんだがな。この屋敷って前の領主が住んでたものだろ」
「はい」
「俺としては、こんな無駄にバカでかい屋敷は性に合わなくてな」
「ああ、もしかしてこの屋敷を建て替えたいと」
「そういうことだ。どうかな。みんなの意見を聞きたい」
「あっしは、いいと思います」
「私もです」
「確かに、領主様には合わないお屋敷よね」
キルスは少しぐらいは反対されると覚悟していただけに、この全員からの賛成は肩透かしを受けてしまった。
「いいのか?」
「もちろんです領主様。そもそも私たちもこのお屋敷にいい思いはないですから」
1人の区長がそういったが、まさにこれは住人すべての思いだった。
それほど、ダレンガンは住人たちに良くは思われていたなかったのだ。
「そうか、それなら遠慮なく建て替えることにするよ」
そういうことで、キルスは領主屋敷の建て替えを決意したのだった。
その後、キルスはさっそく街の大工たちを呼び寄せことの説明をした。
「……ということで、この屋敷を建て替えようと思ってる。頼めるか?」
「もちろんでさぁ。領主様には俺たちは多大な恩があるんだからなぁお前ら」
「おうよ」
「頭の言う通りだぜぇ」
大工たちもまたキルスに恩があるからとやる気に満ち溢れていた。
「ははっ、それじゃ頼むよ。一応言っておくけど、こんな豪華な屋敷はやめてくれよ」
やる気に満ち溢れている大工たちを見たキルスは、なんとなく今よりも豪華な作りにされそうな気がした。
「へぇ、わかってます。なるべく質素になるようにしますよって」
「だといいが、まぁ、設計ができたら見せてくれ」
「わかりやした」
こうして、キルスの屋敷の建て替えが始まった。




