第219話 新代官の評判
漁師から受け取ったアジによく似た魚、アジルナをアジフライへと調理したオルク。
それを食した料理はうまいと絶賛した。
「う、うめぇ。なんだこれ?」
「おい、まじかよ。俺にも食わせろよ」
「ちょっと、これもあげるから作って頂戴よ」
「お、俺も!」
「こっちも頼むわ」
アジフライを食べた漁師の反応を見た周囲の漁師やその妻たちも、一斉にオルクの元へ自分たちが取ってきたアジルナをもって来た。
「もちろん、さぁ、並んでください」
その後オルクの元へはアジルナを持った漁師たちが並び、それぞれがアジフライに舌包みをうったのだった。
「たしかに、これはおいしいですわね」
「ですね」
そんななかで、キルスとサリーナもまた余ったアジルナをもらい、アジフライにして食べたのだった。
「ところで、兄さんたちは何者なんだ?」
ここにきて、最初にキルスたちに声をかけてきた漁師が何者か問いてきた。
「ああ、そういえば言い忘れてたな。俺はキルス、元は冒険者なんだが今はキルス・ド・オルステン子爵になっている。一応オルスタンとここオレイスの領主だ」
「えっ!」
「りょ、領主!!」
「領主だって!!!」
キルスの言葉を効いた漁師たちは驚愕に目を見開いた。
「おいっ、どういうことだよ。蛮族が領主ってよ。ふざけんじゃねぇぞ。た、確かに、飯はうまかったけどよ。ほざいてんじゃねぇぞ」
「そ、そうだ。そうだ」
「帝国は、帝国は何をしているのよ」
当然反発する者が多い。
そして、その中には明らかに帝国人であるサリーナに詰め寄るものもいた。
尤も、オリエがガードしているためにサリーナに近づくことはできなかった。
「お静かに、確かにここオレイスは我が帝国の国土でした。ですが、先ごろここを収めていた領主であったダレンガン・デッチ・バル・オリアントは辺境伯でありながら、その職務を放棄し、オルスタンにおいてスタンピードを引き起こしました」
これを聞いた漁師たちはこれまた驚いた。
下手をすれば自分たちもまたそのスタンピードに巻き込まれていたかもしれなかったからだ。
「幸い、こちらにおられるオルステン殿によりこれを葬ることがかないました。そこで、我が帝国皇帝陛下は、かのものが収めていたオルスタンとオレイスを褒賞と詫びとして譲り渡したのです」
「なっ!」
「そ、それじゃ、俺たちは売られたってことじゃないか」
「そう取られても仕方ないことかと、ですがその責めはオルスタン殿ではなく我ら皇室が負うべきものですわ」
サリーナはこういったが、実はこの発言に一番驚いていたのはオリエだった。
以前のサリーナだったなら、間違いなくダレンガンのみを責め、自分たち皇室は無関係であると言ってのけたであろうからだ。
「えっ、いや、それは、んっ? 我ら、皇室? ?」
サリーナの言葉に戸惑った漁師たちであったが、サリーナの言葉から1つ気になったことがあった。
「申し遅れましたわ。わたくしバラエスト帝国第二皇女サリーナ・エリアント・ゲイル・トッテン・バラエストと申しますわ」
!!!!!!!!!!!!
その場にいた住民すべてが驚愕した瞬間だった。
そして、その場にいたすべての人間が、いや、キルスたちを除くすべての人間がまさに地面に頭をつける勢いで土下座の構えを取った。
これは、平民ができる最大級の礼である。
「……」
そうして誰一人言葉を発しなくなった。
これは、皇族をはじめ貴族と会話することは無礼であるという帝国の教えによるものだった。
「いえ、先ほども申しました通り、この地はすでに我が帝国領ではなく、キリエルン王国領です。どうぞ、頭を御上げなさいな。よろしいですの、オルステン殿」
「はい、まぁ、キリエルンでも王族が相手の場合いろいろありますけど、貴族の場合は特にそういった決まりはありませんし、貴族の中にはまぁ偉そうにしている者も多くいますけど、大体はたとえ相手が平民でも気さくに話してくれますよ」
そう言いつつキルスはバラエルオン伯爵のことなどを思い浮かべた。
「尤も、俺の場合さっきも言った通り元冒険者で平民ですからね。いきなり貴族にされて、貴族らしくふるまえと言われても無理ですから、さっきまでの態度でも全く問題ありません」
「だそうです。さぁ、皆さんおたちなさいな」
サリーナに言われて、かしずいていた住民たちが恐る恐るといった風に立ち上がった。
「……」
尤も、それでも言葉を発する者はいなかった。
「まぁ、いいか。それで、もともと平民である俺としては、オルスタンだけで手一杯だから、俺の代わりにここを収める代官として、俺の兄に頼ることにしたんだ」
「僕が、その兄のオルクです。僕はキルスのように爵位を賜ったわけではないですから、身分としては皆さんと同じ平民です」
「わ、私はそのこ、婚約者のラナと言います」
「というわけだから、兄さんをよろしく頼むよ」
「あ、あの、1ついいですかい」
「なんだ?」
ここで、勇気ある者が手をあげてキルスに質問した。
「あっはい、その、この街はどうなるんで?」
そのものとしては自分たちの生活が気になるのであろう。
「そうだなぁ。まぁ、どうするかは兄さんに任せるけど、今より悪くなることはないな。さっきも言った通り俺は元平民で、兄さんもまた同じだ。だから、これでも平民の大変さや重要さは分かってるからな」
「そうだね。僕としては皆さんと楽しくやって行けたらって思いますから、皆さんの生活を良くすることはあっても、悪くするつもりはないですよ」
「それにだ。俺としては漁師であるあんたらとことを構えるような事態にはなりたくない。なにせ、俺は魚が好きなんだ。これからどんな魚を食べられるかそれが楽しみだよ」
「はははっ、そうだねぇ。僕も楽しみだよ。ああ、そうそう、実は僕は代官という仕事の傍ら、食堂を開こうと思っています。皆さんにもそこにいくらか魚をおろしてもらいたいんですが、いいですか?」
「それはもちろん構わないけど、それってあたしらも食べに行けるのかい」
「もちろん、歓迎しますよ」
オルクがそういうと、住人たちが一斉に歓声をあげたのだった。
どうやら、オルクはすでにこの漁師たちをアジフライで見事釣り上げたようだ。




