第217話 オレイス視察と触れ合い
「で、殿下、お言葉ながら、申し上げます」
「何でしょうか?」
キルスたちがオレイスの代官屋敷についたところで、案内されたのはこれまたなぜかある謁見の間。
そこで、サリーナは臨時で代官を務めていた男にオレイスをキルスに譲り渡したことを宣言したのち、ねぎらいの言葉をかけた。
それを受けた代官が反論を始めたのだった。
「ご無礼を承知ながら申し上げます。そこなるものは我が帝国民ではなく蛮族、しかも聞けば元はいやしき平民だっと聞きます。そのようなものに誇り高き帝国の地を渡すとは私は断固反対いたします」
代官は意を決してサリーナにそういった。
「あなたの言いたいことは分かります」
「でしたら?」
サリーナも少し前まで代官と同じ思いだった。
少し違いがあるとすれば、それはキルスの持つ力を知っているかどうかだろう。
「ですがこれは皇帝陛下の決定です。これに異を唱えることは、陛下に意見するのと同じです。そのお覚悟はありますか?」
「っ……」
サリーナがそう言って冷たく言うと、代官の男は黙り込んでしまった。
「もし、あなたにその覚悟があるのでしたら、どうぞ帝都に戻り次第陛下へ申し立ててください」
「ご、ご無礼を申し訳ありません」
そう言って、代官の男はおずおずと謁見の間を出ていった。
「ふぅ、申し訳ありませんわキルスさん、あの者も我が帝国を思ってのこと、お許しくださいませ」
サリーナは代官が出ていったところでキルスにそう言って謝罪の言葉を口にした。
これには、隣にいたオリエも驚いた。
というのも、以前のサリーナならこうしてキルスに頭を下げることはなかったからだ。
だからこそ、同時にうれしくもあった。
「いや、まぁ俺も気持ちはわかるからな」
誰だって、自国の土地を他国、それもつい先日戦争をした国に土地を譲るといわれて、はいそうですかとできるわけがないからだ。
「そう言っていただけると、幸いですわ。それでは、正式に本日よりここオレイスをキルスさんへ譲渡いたします」
「お受けします」
こうして、キルスは正式にオレイスの領主になったのであった。
「さてと、とりあえずどうするか」
領主になったところで、まず何をするかと考えるキルス。
「だったら、街を見て回りたいんだけど」
実際に街を収めることになるオルクがそう提案した。
「それもそうか、わかった。じゃぁ、さっそく街に行ってみるか」
「そうだね」
そういうことで、キルスたちはそろって街に繰り出すことになった。
「ちょっと、不安だわ」
屋敷を出たところでラナがそうつぶやいた。
「大丈夫だよ。ラナさんは僕が守るからね」
「あ、ありがとう、オルクさん」
不安そうなラナを気遣うオルクという情景は、サリーナですらうっとりさせるものがあったようで、しばし2人を呆然と見つめていた。
「殿下? どうしました?」
「……い、いえ、何でもありませんわ」
サリーナはオリエに声をかけられて、はっとして何とか取り繕っていた。
それから、街を練り歩いたキルスたちであったが、住人のほとんどがキルスたちをちらちらと見ながらも特に何かをしてくるということはなかった。
「視線が痛いね」
「睨んでくる人もいるわ」
「まぁ、こればかりは仕方ないって」
何かをしてくるものはいなくても、多くの住人がキルスたちを様々な目で見つめてくる。
事情をしらず、一体なんだという視線。
事情を知ってか、にらみつけてくる視線。
オルクを見て、顔を赤らめる女性たちの視線と、それを見た男たちの嫉妬の視線。
そんな視線に誘導されるように興味を持ったような視線など、様々だ。
それらすべてがキルスたちに刺さっていた。
そんな視線を受けつつキルスたちがやってきたのは、港町というだけあり港だ。
「へぇ、ここは活気があるね」
「だな、おっ、あれなんの魚だ」
「なんだろうね」
「あれは、アジルナという魚です。主にオイル煮にいたします」
ここで、オリエが魚の名前と調理方法を説明した。
「なるほど、オイル煮か、おいしそうだね」
「そうね」
「キルスだったら、どうする?」
「俺? そうだな。名前とか見た目の感じからして、フライかな」
キルスはなんとなくアジのような気がしたのだった。
「フライか、それもおいしそうだね」
「なんだ、兄さんたちこいつに興味があるのか」
キルスたちが会話をしていると、ふいにそう言って声をかけられた。
「ああ、うまそうだと思ってな」
「おう、こいつはうまいぜ。どうだ、1匹持っていくか」
「いいのか?」
「おう、良いってことよ」
こうして、キルスたちはアジルナを1匹漁師の男からもらうことができたのだった。




