第216話 抵抗する者たち
まるで時代劇の名シーンのような光景が繰り広げられているオレイスの門前。
「帝都から報せが届いているはずです。この地はすでに我が帝国ではなく、ここにいるオルステン殿に賠償と褒賞として譲り渡しました。あなた方は皇帝陛下の決定に歯向かうつもりですか?」
サリーナは門番たちに冷たい声で言い放った。
「なっ、馬鹿なっ。帝国は我らを見捨てたというのですか?」
「ばっ!」
サリーナが告げると、門番たちには知らされていなかったのか、1人が思わずサリーナに詰め寄った。
しかし、よく考えてほしいサリーナは帝国の皇女、本来ならただの兵士に過ぎないものが声をかけたり、そもそもその顔をまじまじと見てはならない存在。
そのサリーナに詰め寄るということはまさに、無礼極まりない行動であった。
それを見た同僚がいさめようとしたが、すでに詰め寄った後だった。
「通してもらいますわ。さぁ、オルステン殿行きますわよ」
「あ、ああ」
サリーナは兵士を無視して馬車を走らせる。
「良かったんですか、殿下」
「ええ、構いませんわ。彼の言っていることはある意味で事実ですから」
事実、帝国はこの街をキリエルン王国に売ったことになり、見捨てたと同意だった。
「そうですか、まぁ、殿下が良ければ」
そういうことで、キルスたちはオレイスへと入っていったのだった。
「思っていたよりは活気があまりないね」
港町は活気にあふれているというイメージを持っていたオルクだったが、オレイスにはあまり活気がないように見えた。
「確かにな。俺が前に行ったカルナートのイザナールはもっと活気があったからな」
「そうなのかい、そうなるとどうして活気がないんだろうか」
「多分だけど、オルスタンと同じ理由じゃないか」
オレイスの街はもともとダレンガンが収めていた街でもある。
オルスタンと同じ領主だけに、街からだいぶ搾取していたと思われた。
「正解ですわ。わたくしたちの調べでもかのものがずいぶんとやりたい放題だったようですわ。申し訳もありません」
サリーナは悲痛な顔を見せて謝罪した。
この謝罪は誰に向けたものか、この街の住人に対してなのか、この街を譲ったキルスに対してなのか、はたまた両方になのか、これはサリーナ自身にしかわからないだろう。
実は、サリーナの謝罪にはオリエが陰ながら驚いていた。
というのも、帝国皇族にとって民の暮らしなど余り興味がなくむしろ皇族のために民があるという考えを持っている者が多い。
実際サリーナもその考えの持ち主でもあった。
だが、オルスタンに来てキルスやエミルたちをはじめオルスタンの住人達と触れ合っているうちに、その逆である民あっての皇族貴族であることを痛感したのだった。
「今は代官屋敷に向かいましょう」
「そうですわね」
こうして、キルスたちはまずは代官が住んでいた屋敷へと向かったのだった。
過去形の理由は、ダレンガンが処刑されると同時にここの代官も同時に逮捕され同じく処刑されたからだ。
「今は、帝都から派遣されたものが代官を務めておりますわ。そのものはキルス殿のことはわかっているはずですわ」
サリーナはそういった。
そして、実際キルスたちが代官屋敷に入ると、歓迎された。
尤も、歓迎はキルスたちに対してではなく、サリーナに対してのみだったが……。
「これは、殿下ようこそオレイスへお越しくださいました。歓迎いたします」
「ご苦労様、さっそくだけれど中へ案内してもらえるかしら」
「ご随意に」
臨時の代官はキルスを無視してサリーナにのみ恭しく礼をしてから屋敷内へ入っていく。
「ここも、大きいね」
「それに派手だな」
「う、うん」
代官屋敷もオルスタンの屋敷に負けず劣らずの派手さを持っていた。
そして、ここにもなぜか謁見の間がありキルスたちはそこに案内されたのだった。
そして、臨時代官はサリーナに玉座を勧めたのだったが、サリーナはこれを拒否した。
以前のサリーナだったら勧められるままにその玉座に座っただろうが、今のサリーナは座らない。
「いいえ、ここに座るのはわたくしではなくオルステン殿ですわ」
「なっ!」
まさか拒否されるとは思わず臨時代官は驚いたのち、ここで初めてキルスをにらみつけた。
「さぁ、オルステン殿、こちらへ」
「いえ、殿下私はここで」
余人がいるためにキルスは1人称を私として言葉を発した。
「そうですか、さて、代官殿」
「はっ」
「報せは届いていますね」
「っ、はっ、はい」
ちゃんと報せは届いているようで代官は悔しそうに顔をゆがめながら返事をした。
「我が帝国はここオレイスをキルス・ド。オレステン殿に譲り渡しました。よって、これよりこの街を収めるのはこのお方となります。これまでご苦労でした」
サリーナは文書だけでなく言葉としてオレイスをキルスに渡したことを宣言した。
「で、殿下、お言葉ながら、申し上げます」
「何でしょうか?」
代官は意を決したように顔を上げてサリーナに物を申すつもりのようだ。




