第212話 ミイラ取りがミイラになった
オルスタンのE&R商会内において、オリエが玲奈からメイクを施されサリーナが敗北しているころ。
キルスは国王の命により、ボライゲルド辺境伯を迎えに領都であるボライゲルドへと転移していた。
ちなみにキルスは領主になってからとなるが、以前ボライゲルドへ辺境伯を尋ねてやって来たことがあったためにすぐに転移出来たのである。
「おおっ、これはオルステン殿、ご無沙汰しておりますな」
辺境伯はキルスを同じ貴族として敬称と敬語を使っている。
「はい、ご無沙汰しております。辺境伯様」
一方キルスはいまだ平民としての感覚が抜けていないために様をつけてしまっている。
「いけませんなオルステン殿、我らは同じく王国に使える貴族、様はいりませんぞ」
「ああ、そうでした。すみませんボライゲルド殿」
キルスも気が付き謝罪とともに呼びなおしたことで、辺境伯は微笑みながらうなずいた。
キルスとボライゲルド辺境伯はうまくやっているようである。
「して、本日はどのようなご用事で」
「ええ、突然押しかけまして申し訳ありませんが、実は……」
キルスは簡単にではあるがサリーナがやってきたことや、その際に帝国からの賠償の話をした。
「なんと!」
「そのことを先ほど陛下に相談したのですが、やはりこれはボライゲルド殿も交えての話し合いが必要であるとなりましてお迎えに上がりました。これは陛下から預かっている書状とです」
「拝見します」
キルスから差し出された国王からの書状を恭しく受け取ったボライゲルド辺境伯はすぐに近くにいた執事に命じた。
「すぐに支度を、オルステン殿、すぐに支度しますゆえお待ちいただけますかな」
「もちろんです」
その後、少し待ったキルスであるがボライゲルド辺境伯は国王が待っているということですぐに支度を整えて戻ってきた。
「お待たせいたしましたな。すぐにでもお願いします」
「了解しました。ではこの場から転移します……転移」
キルスはすぐさまボライゲルド辺境伯とそのそばにいる執事を連れて転移した。
転移先は当然王城、そこにはすでに使用人が数名待ち構えていた。
「お待ちしておりました。ボライゲルド辺境伯様、オルステン男爵様。陛下がお待ちです。こちらへ」
いまだにかしずかれることに慣れないキルスは戸惑いながら、幼少の頃よりかしずかれているボライゲルド辺境伯は鷹揚に答えると使用人の後について歩き出した。
そうして、歩くこと少しキルスたちは国王の執務室までやってきた。
「ボライゲルド辺境伯、及びオルステン男爵様がお越しです」
「うむ、入れ」
執務室の中から国王の声が響きキルスたちは部屋の中へ入っていく。
「よくぞ来たな。ナリアス、キルス」
ナリアスというのはボライゲルド辺境伯のファーストネームである。
「お待たせいたしましたようで申し訳もありません」
「気にするな。我が突然呼び出したのだ。さて、本日ナリアスに来てもらった理由はキルスから聞いていると思うが」
「はい、伺っております。なんでも帝国が賠償としてオレイスをオルステン殿に明け渡すとのことですが」
「そうじゃ、具体的にはオルスタンからオレイスまでの地、つまりこれをキルスが受けることで帝国と接するのはキルスのみということになる」
「正直言いまして、我が領は先の戦争においての疲弊をいまだ抱えております」
というのも帝国が魔獣軍団を用いて侵攻してきた際にその対応をしたのがボライゲルド辺境伯であり、その兵士や騎士の多くがその命を散らしている。
そのため、ボライゲルド辺境伯としては今帝国がもう一度攻めてきたら、たとえ一か所しか防衛箇所がないといっても対応しきれない可能性があった。
「ですので、オルステン殿がそこを請け負ってくださるのでしたら、ありがたいというのが正直な気持ちです」
「うむ、そうか。しかしそうなってくるとそなたが辺境伯を名乗ることは出来ぬな」
「それもやむなしと考えております」
ボライゲルドはたとえ降爵したとしてもいいと考えていた。
というのも、先の戦争においてキルスが来るまで全く手も足も出ない状況であり、多大な被害を国へもたらしたからである。
「そうであるか、ならばナリアスよ。そなたに侯爵の爵位を与えることとする。また、キルスには子爵の爵位を与える」
「はっ?」
「えっ!」
国王は少し考えたのちいきなり、ボライゲルド辺境伯とキルスの陞爵を命じたのであった。
これには、ボライゲルド辺境伯もキルスもまた驚愕した。
驚愕していないのは、国王の隣にいる宰相だけであった。
「へ、陛下無礼を承知でお尋ねいたしますが、なぜ侯爵に」
ボライゲルドが国王に尋ねるがキルスも同じ気持ちなのでうなずいていた。
「ナリアス、そなたは確かに多くの被害を出した、これは間違いないであろう。しかし、同時にキルスが魔獣軍団を退けたのち帝国を追い返し、オルスタンを奪い取ったはそなたの功績だ。故あってオルスタンはキルスへ与えたが、そなたへ褒美がまだであったであろう」
国王はそういうが、ボライゲルド辺境伯はすでに多額の報奨金などを受け取っていたが、国王の言葉に感動していた。
こうして、キルスとボライゲルド辺境伯はともに陞爵したのであった。
それから、キルスたちは細かい話し合いをしていくのであった。
そんなキルスたちをよそに、E&R商会ではオリエに続いてサリーナもまた玲奈にメイクを施されていた。
「……はい、出来ました。殿下は元がきれいですから、ちょっと薄めのナチュラルメイクにしてみました。どうです?」
「まぁ、これは……」
サリーナはこれまでと違い、薄目ということで元の美しさを生かしたメイクに喜んでいた。
「え、えっと、殿下お願いがあるんですがいいですか?」
鏡を見て己に見とれているサリーナに玲奈がそういった。
「お願いですか、何でしょうか」
このころになると、サリーナにはすでに玲奈やエミルに対する蛮族という侮りや敵国の人間という警戒もすっかりとなくなっていたために、うきうきした風に尋ねた。
「はい、そのえっと、髪型も少しいじらせてもらいたいんですけど」
「髪、ですか、構いませんわ」
「ありがとうございます」
玲奈は嬉しそうにお礼を言った。実は玲奈、サリーナを見た時からぜひやってみたいと思っていた髪型があったのだった。
それから、すっかりとエミルと玲奈に篭絡されたサリーナは楽しそうに玲奈に身を任せるのであった。




