第210話 サリーナの衝撃
E&R商会へとやってきたサリーナの目的は、下賤なる蛮族が皇族たる己を差し置いて美容の何たるかを語り、あまつさえ専門の商会を立ち上げたと聞きいかに帝国が優れているかを知らしめるためである。
しかし、その出鼻をくじくかのように自分をはるかにしのぐ美貌の持ち主であるエミルを目撃してしまった。
しかも、そのエミルこそがE&R商会の会長であることに少なくない衝撃を受けつつも案内をしてもらった。
そこでは、帝国では考えられないほど多くの女性が働いていたが、その女性たちが元はと言え帝国の民、それが今や裏切って王国のために働いていることに顔をしかめつつももう1人の経営者である玲奈とも何とか挨拶を交わした。
(よかった、この娘には勝ちましたわ)
玲奈を見たサリーナは内心そう思っていた。
エミルに敗北を期していたために何とか玲奈には勝てると安心していたのだった。
実際、サリーナと玲奈の美貌は双方ともに比べようがないが、投票が行われれば十中八九サリーナが勝利していただろう。
その勝因はやはりうちからくる気品、サリーナは皇女として生まれながらの気品と教育の賜物としてのものがあるが、玲奈は普通の日本人それなりの教育は受けているが皇女の気品にはかなわないというわけだ。
「ここでは、どのようなものを扱っているのですか?」
サリーナはさっそくとばかりにエミルと玲奈に商品を見せてほしいと言った。
「はい、ではこちらへ」
「ええ」
エミルの案内で店の奥へと入り2階の応接室へと案内されたサリーナであった。
一方そのころキルスはというと、王城にて国王と面会していた。
「陛下、すみませんたびたび」
「なに、気にするな。それで手紙にもあったが使者として第二皇女がやってきたと」
「はい、以前にも正体をかくしてやってきましたけど、今度ははっきりと皇女殿下と名乗ってきました」
「それは、ありえませんね。こういった場合に皇女殿下御身が使者などをするなど」
話を聞いていた宰相はありえないという、それはそうだろうキルスは他国それもついこの間侵略した相手の現在は男爵の爵位を得ているとはいえ元は平民。
そのようなもののために皇女という立場の人間が自らやってくるなどありえないからだ。
「うむ、それで帝国はなんとそれを相談しにまいったのであろう」
「はい、それなんですか、なんでも先の戦争に対する賠償と、先日起きたスタンピードの件褒賞としてオルスタンを含む港町のオレイスまでを譲渡すると」
キルスはサリーナが言ったように説明したところ、国王と宰相は一瞬絶句し驚愕した。
それほど帝国が自国の領を与えるなどありえないからだった。
「そ、それは誠か?」
国王すら驚きでキルスの言葉を疑ったほどだ。
「はい、間違いないかと」
ここでキルスの隣に控えていたメリッサが第二の耳として保証した。
「これはまた、どうしたことか」
「はい、なにか魂胆があるように思います」
「それは、間違いないだろう、キルスはどう考える」
国王は実際にサリーナから話を聞いたキルスの意見を聞くことにした。
「そうですね。おそらくですがサリーナ殿下を使い俺を帝国側になびかせようと考えているように感じました」
「ほぉ、それを見抜くか」
「ええ、まぁそれが一番納得できそうな話ですし、なにより……」
元は平民でそういった教育をしていないキルスが、帝国の考えを見抜いたことに国王は少し驚いた。
しかし、キルスからしたらなんとなく予測ができる。
何より前世において勇者として召喚された際、ハエリンカン王国が護人をつなぎとめるためと魔王を討伐させるために王女をあてがった。
その時の王女の表情と今回のサリーナの表情がまさに瓜二つ、同じだった。
(あの表情は、覚えがあるんだよなぁ。の時と同じだよ。はぁ)
それは、相手を篭絡しようとしている者のものであった。
「うむ、それが分かってるならよし、それで、どうするつもりじゃ」
「もちろん、俺は王国を裏切るつもりはありませんよ」
キルスにとっては王国は故国であるし、何よりキルスはこの国王や王家の人々と触れ合った結果、言い方は悪いが気に入っているのも事実であった。
「それはなによりです。さて、そこで今回の事案であるオルステン殿への帝国からの提案ですが、陛下これはボライゲルド辺境伯を交えたほうがよろしいかと存じます」
「そうであるな。キルスさっそくボライゲルドを呼んできてはもらえるか」
「わかりました」
そんなわけで、キルスはすぐにボライゲルド辺境伯を迎えに行ったのであった。
そんなキルスが奔走しているころE&R商会では応接室のテーブルの上には商品を並べサリーナに説明をしていた。
「……以上が商会で扱わせていただいております商品です」
説明は主にエミルが行っていた。
というのも、玲奈は普通の女子高生だったためにこういった対応は出来ないからだ。
もちろんエミルも普通の食堂の娘のためできないはずだが、なぜかエミルはこういったことができていた。
「……なるほど、これは予想以上ですわ」
サリーナも美容を語るからにはある程度のことは予想していたが、それはせいぜいが簡単なものかと思っていた。
しかし、今目の前にあるものは自分ですら知らなかったものがほとんどだった。
「えっと、百聞は一見に如かずって言いますし、体験されますか?」
「え、ええ、そうですわね。お願いできますか」
「はい、お任せください」
サリーナも皇女とは言え女、エミルからの説明でこれらの商品を試してみたくなった。
「お待ちください殿下」
しかし、メイドとしてはこれを止めないわけにはいかなかった。
説明を聞く限り問題ないように思えるが、それでも蛮族が作ったもの、どんな危険があるかわからないことを皇女に使わせるわけにはいかない。
そう考えたメイドは止めたのだった。




