第206話 サリーナ・エリアント・ゲイル・トッテン・バラエスト
サリーナ・エリアント・ゲイル・トッテン・バラエストは、バラエスト帝国第二皇女として生を受けた。
そのため幼いころより厳しく教育を受けてきたのだった。
それは、帝国皇族として恥ずかしくない教養をはじめ、立ち居振る舞いはたまた戦闘訓練も行ってきた。
なぜ、皇女が戦闘訓練を行っているのかというと、これは帝国がまだ王国を名乗っていたころからの伝統だからだ。
かつて、バラエスト王国建国王ゲイルミュッドは絶大なる強さを誇っていた。
その力を用いて傭兵をしており、数々の戦場でその名をはせていた。
だがゲイルミュッドたち傭兵団は強すぎた。強すぎたがゆえに、危険視した雇い主であった国から裏切りを受け壊滅状態となってしまった。
多くの配下を失うも、ゲイルミュッドは生きていた。
また、生き残った配下も精鋭がそろっていたこともあり、少数ながらその国に復讐を行った。
その結果、国王をはじめ多くの重鎮が命を落とすこととなった。
そうして、そこに建国したのが傭兵たちが作り上げた。彼らのための王国であった。
国名は当時ゲイルミュッドたちが名乗っていた傭兵団の名であり、『猛き獅子』の意味の言葉バラエストとなった。
そうした経緯からバラエストでは王族、皇族となったとしても強くあらなければならないとされている。
強さがあればたとえ裏切られても生き残ることが出来、さらにその復讐もできる。
ゲイルミュッドのそうした考え、思いからの伝統であった。
そのため、バラエスト帝国では古来より、ある一定の強さを持たなければ皇族とは認められないとされており、かつて実際にその力を得られなかった第一王子が、あっさりと捨てられてしまっている。
だからこそ、サリーナは必死に戦闘訓練を行ってきた。
その結果、兄弟たちの中で尤も強き者となり、その名に強さの象徴である建国王ゲイルミュッドの名から一部を拝借を許されたのである。
そんな、己の強さに自身があったからこそキルスから圧倒的に自分のほうが強いといわれたことそして、それが事実であったことがショックだった。
「殿下、あのような戯言はお気になさらないでください」
ショックから気を落としていたサリーナにメイドがそう言ったが、サリーナ自身はあれが戯言ではないとわかっていた。
というのも、キルスから一瞬だけにじみ出た殺気を感じた時、自分ではどうしようもないと恐怖したのは事実。
「いいえ、あのものは強い、おそらくは陛下よりも、フェンリルと合わせて考えたとしても最初からわたくしたちでは勝ち目はなかったのです」
キルスをこの目で見て感じたからこそ、帝国がかなう相手ではないと痛感したのだった。
「……」
メイドもまたサリーナの言葉に息を飲む、いつでも自信たっぷりでその強さに誇りを持っていたサリーナがここまで恐れるキルスという人物が恐ろしくなったのだった。
「それだけではありません。これは帰国後すぐにでも陛下に進言する必要があります」
「はっ」
「それから、辺境伯について調べておいてもらえますか、あのものが言っていたことが気になります」
サリーナはキルスが言っていたスタンピードの件が気になり調べるようにと命じた。
「もし、本当のことならば放置はできません」
「はっ」
サリーナは現在キルスの領主屋敷において、長旅の疲れを癒している。
これは、当然キルスからの提案でありサリーナはそれを受けたのであった。
尤も、ダレンガンは自分の屋敷だから自分の部屋に行こうとしたが、そこはすでにキルスが自室として使っているために別の部屋を用意されたわけだが、当然騒ぎたてていた。
そうして、翌日サリーナはキルスに見送られる中帰国の途についたのだった。
「なぁ、あれなんの馬車だ?」
「ああ、帝国から使者が来たらしいぞ」
「へぇ、いまさらって感じだな」
「だな。俺たちを見捨てておいてな」
「まったくだぜ」
「おい、あれって辺境伯じゃないか?」
「まじかっ」
「ああ、間違いないって、俺はあいつの屋敷で働いていたんだからな」
「まじかよ。あの野郎」
「ふざけやがって」
それから、ダレンガンが乗る馬車には思いっきり石などが投げつけられたのは言うまでもないだろう。
そんな馬車を眺めながらサリーナはますますダレンガンを調べる必要性を感じていた。
こうして逃げるようにオルスタンから帝国に戻ったサリーナたちはすぐに帝都へと向かい、父親である皇帝へ謁見を申し出た。
「戻ったか、して、首尾は?」
「申し訳ありません陛下、フェンリルを簒奪することかないませんでした」
「なに、どういうことだ」
「はい、かのものは間違いなくBランク、いえそれ以上の力を有していると思われます」
「それほどか」
皇帝もまさかサリーナからこのような報告を受けるとは思わず驚愕した。
「はい、またかのものは鑑定のスキルを有しているようです」
「なに、まさか!」
「はい、わたくしの魔獣使いはもちろん、わたくしが皇女であることも見抜かれております」
「なんと、人物鑑定持ちか、やっかいな」
人物鑑定というのは、文字通り人物に関して特化した鑑定スキルのことである。
「はい、間違いないかと」
「そうなると、よく無事でしたね」
話を横で聞いていたサリーナの母であり、第一皇后が心配そうに言った。
「はい、わたくしも正体が知られたとき覚悟をしていたのですが、かのものは逆に道中をねぎらっておりました」
「そうですか」
「なめられたものだな。しかし、かといって手出しは危険か」
「おそらく、わたくしの魔獣でもお役にはたてないかと存じます」
サリーナの話を聞き皇帝は悩んだ。
帝国にとってキリエルン王国侵攻は悲願だった。
しかし、キリエルン王国は精強であり、帝国でもおいそれと手出しはできなかった。そこにサリーナの魔獣使い、これで悲願が達成できる。
そう考えて、侵攻したというのにまさかキルスただ1人に阻止されてしまうとは、つゆほどにも思わなかったのだった。
「それと、かのものが気になることを言っていたので独自に調べましたところ……」
それから、サリーナはダレンガンのことを説明していった。
それは、ダレンガンが行っていた悪行のかずかず、しかしそれはある程度の貴族が行っているものであり、そこまで気にすることではなかったが、中に1つだけ聞き捨てならないことがあった。
それこそが、スタンピードである。
スタンピードは発生するとなぜか近くの街、または村を襲う、そうして襲い終わると次の近くの街と周囲の魔物を飲み込んで規模を大きくして進んでいく。
そして、オルスタンで発生したスタンピードはオルスタンを飲み込んだ後、キリエルン王国側に行けば帝国としては問題ないが、オルスタンから近いのは帝国側にあった。
つまり、下手をすれば大規模なスタンピードとなりここ帝都が襲撃を受ける可能性があった。
これには皇帝も黙ってはいられない。
それより、数日後徹底的に調べ上げられたダレンガンは帝国の法に乗っ取り、爵位をはく奪捕縛され帝国において最も重罪である反逆の罪によりその首がはねられたのであった。
もちろん、それは元オルスタンのギルドマスターなども同様の罪により処刑された。




