第204話 やってきた使者
キルスが治めている領地オルスタン近郊でスタンピードが発見された。
最悪の事態も考えられたが、幸いにしてキルスたちがいた。
その結果、何とかスタンピードを鎮圧することができた。
もちろんオルスタン側も無傷とはいかず、数人の犠牲が出てしまったが、それでもその犠牲は限りなく少なく、キルスに対する印象はうなぎ上り。
あれから2週間が過ぎた今、街の住人のほとんどがキルスの統治を受け入れていた。
「旦那様、こちらもお願いします」
「お、おう」
キルスは執務室で書類仕事をこなしているが、その数がかなり多くなってきており疲弊していたところに、さらに今処理した分と同量ほどの仕事をメリッサに渡された。
「……これ、終わるのか?」
思わずそうつぶやいても仕方ない出来事だった。
それから、2時間ほどしたところで、ようやく一段落しキルスは街へ出かけることにした。
「はぁ、疲れたぁ」
「お疲れ様です。旦那様」
「ああ、これじゃ体がなまるな」
「領主様、こんにちは」
「あっ、キルス様」
肩を回しながらメリッサとともに街を歩いていると、住人が挨拶を交わしてくる。
これは、スタンピード前だとなかった光景となる。
これもひとえにキルスが認められた証拠となり、メリッサは嬉しそうにしていた。
メリッサとしては使える主が住人たちから認められていることがうれしいのだ。
「ところで、防壁の修理はどうなっているんだ」
歩いている中防壁が見えてきたところで、キルスはメリッサに尋ねた。
「はい、順調に進んでいるとの報告を受けております。このままいけば、1週間後には終了する予定です」
「それはよかった。何よりも優先だからなぁ」
「はい」
防壁の修理は重要だ。
なんといっても街の外は普通にっ魔物が闊歩しているうえに、盗賊なども同じく存在している。
といっても、先ごろ起きたスタンピードによって周辺の魔物がキルスたちによって殲滅され、今でこそ数は少ない。
しかし、魔物というものはどこからか沸いてくるもので、すぐに街の近くにもやってくるだろう。
そういった脅威から街を守るため、また街の者が勝手に外に出て脅威にさらされないためには防壁は重要なのであった。
そう、かつてキルスが幼いころ、バイドルの防壁に穴が開いており、そこを通ってドーラフがゴブリンと遭遇、あわや殺されるところをキルスが魔法を用いて討伐した。
なんてことがあった。
それを思い出しながら、今度同じように抜け出した者が助かる可能性は低いだろうと思うのであった。
「物陰に隠れて見逃すことのないようにしてくれよ」
「はい、心得ております」
メリッサもキルスから、かつての話を聞いていたために、徹底して修復個所を探さているのである。
こうして、街をぶらつきながら気分転換という名の視察をあちこち行い、キルスは再び書類に向き合うために執務室へと戻ってきた。
「さて、やるか」
気分も一新キルスはさぁやるぞと、執務机に向かって、積まれている書類に手を伸ばした。
そうして、小一時間ほど経った頃だろうか、執務室から出ていたメリッサがやってきた。
キルスはそれを見て、また書類か。
そんな風に思い辟易しながら迎え入れたが、メリッサは書類の束は持っていなかったことにキルスはほっとした。
「どうした?」
「はい旦那様、帝国より使者が見えておりますが、いかがいたしましょう?」
「使者? 今頃?」
キルスがこの地を治め始めてからそれなりに時間が経っている。
そして、なによりスタンピードが終わってから2週間というタイミングである。
「はい、会われますか?」
「まぁ、会わないわけにはいかないだろ」
「そうですね」
「なら、そうしてくれ、えっと、それでどこに通せばいいんだ」
「そうですね。この場合せっかくですし謁見の間にお通ししましょう」
「ああ、そういえば、そうだな。そこに通してくれ」
「かしこまりました」
キルスはこれまで、なぜかある謁見の間を正しく使ったことがないために一瞬忘れていた。
というわけで、帝国からの使者を謁見の間に通してからキルスは使者の前に現れた。
そうして、ドカッと玉座に座ると使者を観察する。
使者は2人、1人は50代ぐらいの男性で、なんとも豪奢できらびやかな、貴族然とした人物で先ほどからキルスをにらみつけていた。
(これ、使者としてどうなんだ)
キルスもその態度に首をかしげていた。
そして、なにより気になるのがその隣のもう1人だろう、こっちは若く、キルスと同い年ぐらいに見える少女だった。
その服装は一見すると地味、だが、よく見るとその生地が高価なものに見えた。
(こっちはこっちで、謎だな。どれ、鑑定してみるか)
というわけで、キルスは2人を鑑定してあらゆる意味で驚愕し困惑した。
それというのも、まず男性のほうはダレンガン・デッチ・バル・オリアントといい、実はここオルスタンの元領主である。
そう、スタンピードが起きる前兆を察知して街を見捨ててさっさと逃げ出した人物である。
(こいつ、どの面下げて来てんだよ)
一度街を見捨てておきながら、今度は使者としてやってくる。意味がわからないキルスであった。
そして、何よりやはりキルスが驚いた一番の理由はその隣の少女だろう。
彼女の名はサリーナ・エリアント・ゲイル・トッテン・バラエストといい、なんとバラエスト帝国の第二皇女だった。
それだけでもありえない、キルスが王族ならあり得るかもしれないが、キルスはあくまで元冒険者であり平民、そして現在男爵。
そんな人物に皇女を使者に出すことはありえない。
では、なぜ皇女が使者としてやって来たのか、その答えこそ彼女の持つスキルにあったのだった。
(なんだよ、この魔獣使いって……まさか!)




