第202話 真実と呆れと対策
キルスは現在オルスタン冒険者ギルドにおいて、臨時のギルドマスターをしている祖父コルスと祖母レイラと話をしていた。
その内容は、当然のごとくギルドのことであった。
本来のギルドマスターがと上層部が数人まとまって街を捨てて逃げ出したために、ギルドは現在ほぼ開店休業状態、それを何とか動かしてつい今日になってようやく冒険者を街の外に出すことができていた。
そんな話を聞いたキルスは何よりまずギルドに人を追加したほうがいいだろうと思っていた。
それも、街の住人という新人ではなくちゃんとした即戦力たる人物をである。
「なるべく早く人を送るように王都に申請しておくよ」
「頼むぞ」
冒険者ギルドというのは、世界に広がる1つの組織ではあるが、各国の首都にそれぞれの本部が存在している。
そこのギルドマスターこそが冒険者ギルドの最高責任者となっている。
つまり、冒険者ギルドの最高責任者は国の数だけいると考えていいだろう。
そんなことでまとまるのかと心配になるが問題はなく、彼らは通信の魔道具を使用して会議を行っており意思の共有を行っているうえに、誰かを押しのけようとする心の持ち主はそもそもギルドマスターには成れないようになっているからだ。
そこではギルドの経営方針や各地の魔物などの情報、特に新種などや強力な魔物の情報は何よりも優先して告げられる。
実際、キルスの存在やシルヴァーの存在はすでに共有情報であった。
もちろん、それはキルスがエンシェントドラゴンを単独で討伐したという事実にはかくギルドマスターが驚愕の余り取り乱したことは彼らを知るものからしたらありえない出来事だったという。
また、今回のようにコルスを臨時にギルドマスターに任命したのはキルスだが、これは臨時だからできることで本来ギルドマスターの任命権は本部ギルドマスターに帰依する。
さらに、人員の補充に関しても新人を雇うなら各ギルドマスターでも権限はあるが、別の街からの補充などの場合は本部に補充の申請をしなければならない。
そのため、オルスタンのギルドの補充には王都のギルドへ申請する必要があった。
「それまで、俺たちで何とかするしかないな」
「そうね」
こうして、2人は休憩は終わりとばかりに再び仕事へと戻っていこうとして、それを見たキルスは邪魔にならないように部屋を出ようとした。
まさに、そうしてキルスが立ち上がったところで扉がノックされた。
「お爺ちゃん、シュレリーです」
「おおっ、シュレリー、どうした?」
シュレリーの声がいつもとは違うことに気が付いたコルスは何かあったのかと尋ねた。
「うん、さっき外の探索に出ていたクローム・クロウの人たちからの報告があって……スタンピードを見たっていうの」
「!!」
「!!!! なっ! なんだと!」
シュレリーの報告にコルスをはじめレイラもキルスの驚愕した。
スタンピードとは、その名のごとく魔物の暴走、魔物の数が一定数を超えたところで起こるといわれている。
しかも、スタンピードの魔物は人を狙う傾向があり、近くの街を必ず襲うという、実際これによりかつていくつかの街が滅んでいる。
そのため、各町の冒険者ギルドの主な役割がこれを防ぐことで、そのために冒険者に討伐依頼を定期的に発布しているのであった。
「それは、確かか」
コルスもシュレリーのことを疑っているわけではないが、信じられないという意味をこめて尋ねた。
「うん、間違いない。ほかにも目撃情報があったから」
「……まじか……」
キルスも絶句した。
「くそっ、まさか、ここまでとは、ほんとに一体何考えてやがる」
「信じられないわね」
コルスが怒りをにじませレイラが呆れかえっているのは、当然逃げ出したオルスタンのギルドマスターに対してだ。
このスタンピードは完全にギルドとして機能していなかったことを意味しているからだ。
「とりあえず、クローム・クロウをはじめ外に出していた冒険者たちに休憩を取らせろ、あと集められるだけの冒険者をすべて集めるんだ」
「はいっ!」
コルスは一呼吸するとすぐにシュレリーにギルドマスターとして命令を出し、シュレリーもまた孫の顔からギルドの受付嬢の顔になり返事をしてから部屋を飛び出していった。
「キルス、聞いての通りだ。これは規模にもよるがフェブロにも出張ってもらう必要があるだろうな」
「そうだろうな。それと、俺も出るよ」
「助かる。あと、レティアにも声をかけておく必要があるだろう」
「わかった、それも俺がやっておく」
こうして、キルスたちは急いでスタンピード対策を行っていくのであった。
ここで真実を1つ、実はこの地オルスタンの領主一味とギルドマスターなどの上層部が街を一目散に逃げ出した理由がこれであった。
彼らはこのスタンピードの兆候があることがわかり、街を捨てて逃げ出したのだった。
つまり、王国軍が攻め込んだのはそんなある意味でちょうどいいタイミングだった。
そして、帝国軍がオルスタンにとどまらなかったのも、人づてにこの話を聞いたことに他ならなかったのだ。
そう、オルスタンの街とその住人は完全に見捨てられたのだった。
そうして、時間が経ちキルスの元にはスタンピードに関する情報が集まってきた。
「なぁ、メリッサ、もしかして領主たちが逃げ出したのって」
情報からキルスもまた真実に思い至った。
「おそらく、スタンピードの兆候はありますから気が付かないということはないかと」
「だよなぁ。はぁ、まぁ、仕方ない。ちょうどよくここにはかなりの戦力が集まってるし、俺もシルヴァーもいるし、何んとなるだろ」
そう、キルスが領主になったことで元Aランク冒険者であり元トーライド冒険者ギルドギルドマスターを長年勤めあげたコルス、その妻であり相棒で同じく元Aランク冒険者レイラとその愛娘である元Bランク冒険者、殲滅の異名を持つレティア。
また、元キリエルン王国軍大佐鬼と呼ばれたフェブロ、そして何より領主となった元Bランク冒険者であり、元勇者キルスとその従魔でその強さは最強種の最強エンシェントドラゴンに匹敵するといわれる魔狼王フェンリルたるシルヴァー。
そんな面々と、実はまだ王国騎士団所属のゾンタス以下が街に残っていた。
彼らの力を借りればスタンピードを納めることができるだろうと思われる。
さらに、場合によってはキルスは動けないにしろ玲奈と幸がともに転移スキルを使えるので王都などから増援を呼ぶことも可能なのであった。
「とにかく、俺たちと冒険者、あとは警備兵と騎士団で何とかするから、メリッサは街の住人たちを頼む」
「かしこまりました」
そんなわけで、急遽始まった緊急クエストにキルスはあちこち走り回ることになったのであった。




