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第200話 希望者殺到

 エミルと玲奈により、街の女性たちに対する商品のデモンストレーションが行われた。

 まずは1人目ということで、声を揚げていたミリアルという20代後半の女性が呼ばれた。

 女性は、訝しながらも言われるまま石鹸を使い顔を洗い始めたのだった。

 そうして、洗い終わり鏡を見て驚愕。


「うそっ、でしょ?」


 ミリアルは鏡に映された自分が、信じられず何度も顔を手で触り確認していた。

 また、そんなミリアルを見たほかの女性たちも驚いている。

 なにせ、彼女たちのほうがミリアルという女性の顔を知っているからである。


「うそっ!」

「なんで?」


 女性たちは口々にそういった。


「御覧の通り、この石鹸を使うことによって残っていた汚れもきれいに落とせるんです。ミリアルさん、それを見てみてください」


 玲奈はそう言ってミリアルに先ほど洗い流した水が入った洗面器を指さした。


「えっ、何これ、真っ黒!」


 そこにあったのは黒く変色した水と泡だった。


「わたし、ちゃんと毎日洗っていたわよ。なんで、こんな……」


 予想以上に汚れている水に衝撃を受けるミリアルである。


「ミリアルさんたちはこれまでムイレスの実を使っていましたよね。あれって、確かに汚れは落ちますけど、肝心の皮脂汚れとかは落ちないんですよ」

「ヒシ汚れ?」


 聞きなれない皮脂という言葉に首をかしげる女性たち。

 そこで、玲奈は皮脂汚れについて話すことにした。


「……ということで、石鹸はその皮脂汚れを落とすようにできています」

「もしかして、これを作って売るってこと」

「はい、そうです。ですが、それだけではありませんよ。レイナちゃん」

「これからが、あたしの本番、ミリアルさんちょっと失礼しますね」


 そう言って、玲奈はミリアルにメイクを施していく。

 玲奈はすでに大体の化粧品を開発していたのだった。


「はい、できました。一応今日はナチュラルにしておきました。鏡を見てみてください」


 玲奈はそういってミリアルに鏡を見るように指示。

 それを受けてミリアルは目の前の鏡を見て絶句、それを見ていた女性たちも同じく絶句していた。


「……こ、これが、わたし? 信じられない」


 たっぷりと時間を置きようやく起動したミリアルは鏡に映る自分を見て、それが自分の顔であることを認識するのに少々時間がかかった。


「ミリアル、よね。ちょっと、なによあれ」

「綺麗」

「信じられない」


 女性たちもまたミリアルの変貌ぶりに驚きおののいていた。


「これはメイクといって、王国でも王侯貴族の女性しかしていません。あたしたちはこれを普通の女の子もできるようにしたいんです」

「そのためには、私たち2人では無理ですから、どうか皆さん協力して下さい」

「協力?」

「何をしろっていうのよ」


 エミルと玲奈の言葉に女性たちは警戒しながらも、期待するような表情をしていた。


「私たちは、これらを製造して販売するつもりです。そこで、皆さんの中から従業員を雇いたいと思っています。本日集まってもらったのは、私たちがどんな商品を扱う商会なのかを知ってもらいたいからです」

「私たちが、それを作るっていうの」

「そんなこと、どうやって」


 だんだんと女性たちは前のめりとなってきた。


「大丈夫ですよ。あたしたちで教えますから」


 玲奈がそういうと、多くの女性たちがどうしようかと周囲にいた者たち同士で話し合い始めた。


「いかがでしょう、まだ時間はたっぷりありますし、良ければほかにもミリアルさんと同じようにメイクをしますよ」


 玲奈がそういうと、女性たちの目の色が変わった。

 どんな世界でも、どの国でも今よりもっと美しくありたいと願う女性は多いようで、この場に集まった女性たちは皆一様に次は自分だと手を上げ始めた。


「ふふっ、やっぱりこういうのは帝国も王国も関係ないのね。こちらの人数の問題もありますから、順番に並んでください」


 その後、エミルと玲奈、メリッサと幸の4人で街の女性たちにメイクを施していく。

 実はメリッサ以外、エミルと幸は玲奈からメイク術など様々な美容法をすでに学んでいたのだった。

 メリッサはというと、家令という立場ではあるがメイドとしての矜持もあり前日に玲奈から必死に学び取ったのである。


 こうして、エミルと玲奈のE&R商会によるデモンストレーションは成功。

 今日だけで多くの女性たちがメイクを施されて、ほくほく顔で家路についたのだった。

 尤も、さすがに集まった女性たち全員にというわけにもいかず、大半が出来ずにいたが……それでも、満足して帰宅したのだった。



 そんな中の1人であるミリアルに焦点を当ててみよう。



「おい、お前らどうだ?」

「ああ、準備はだいぶ整ってきた。あとはいつやるかってことだ」

「これで、あのガキを追い出せるぞ」

「おおっ」


 ミリアルの夫デリフが集まった同志たちとそんな話をしていた。

 実はデリフは自称オルスタン解放軍という名の反乱軍リーダーを務めていた。

 といっても、メンバーはデリフを含めて6人しかなく、倒すではなく追い出すということしか考えれずにいた。


「ただいま、あんた、いるの?」

「あん、なんだ、今忙しいんだよ!」


 ミリアルはさっそくきれいになった自分を見てもらいたくて夫を探したが、デリフはそれを知らないためにいつものように邪険に扱った。

 実はこの夫婦の仲は少し冷めていた。

 若いころは美人だったミリアルも20代後半に差し掛かってから、どこかくすんだことでデリフの熱が冷めてしまったのだった。


「こんなところにいたのね。あら、みんなも集まってまた反乱の話」

「ばかっ、こいつは反乱じゃない、解放……??」


 デリフは妻の声に振り返ったはずなのに、そこにいたのはいつもの妻ではなく混乱し固まった。


「……お前、ミリアル、なのか?」


 デリフは信じられないという風に妻に尋ねた。


「何言ってるのよ。当たり前じゃない」

「いや、だってお前なんだってそんな……」


 美人にとは口が裂けても言えないデリフであった。


「ふふっ、これはね。レイナ様にしていただいたの。どう?」


 ミリアルはすでに玲奈を尊敬してたために自然と様をつけていた。


「レイナって、あのガキの、どういうことだよ」

「なっ、なぁ、ミリアルもしかして、うちのもか?」

「そうよ、早く帰ってあげなさいよ。多分待ってるわよ」

「まじかよ」

「お、おい、早く帰ろうぜ」

「お、おお」


 こうして、解放軍は表舞台に立つことなく解散したのだった。

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