第20話 初めての仕事
登録試験が終わって、キルス、ガイネル、ビル、シャイナの4人はもめているサディアスを置いてさっさと1階に降りて行った。
「キー君、終わったの」
「ああ、予想通りEだったよ」
「そう、おめでとう、それで、みんなは」
「俺は、Fだ」
「私とビルはEランクですよ」
「あら、すごいじゃない、登録試験でほとんどがEなんて、最近では高くてもGが多かったのに」
ニーナが言った通り、最近のバイドルでの登録試験の結果、ほとんどがGランクと低く、たまにFランクがいるぐらいで不作とされていた。
だが、今回は、低くてもFであったことは、バイドルのギルドにとっては嬉しいことである。
「それじゃ、後は明日だけね」
「そうなる。それで、明日の仕事って何?」
冒険者ギルドの規定では、登録試験を終えた冒険者は最初の仕事として、Hランク、つまり街の中での雑事を請け負うことになっている。
これは、いくらEランクとなったからといっていきなり討伐依頼に出すより、まずは安全な仕事をしてもらい、ギルドでの仕事のやり方を学ぶというわけだ。
そして、その仕事はすでに決まっており、ここで受付嬢から聞かされる。
「キー君達にやってもらうのは、ソルケイ川の掃除ね」
「げっ、どぶ掃除かよ」
バイドル出身であるキルスはその川がどういったものかは知っている。
それは、川と言われているが、自然に出来たものではない。これは、街に張り巡らされた側溝(雨水や各家庭から出た使用済みの水が流れている)の行きつく先として作られたものだ。
ということから、多くの土などが流れ着き、非常に汚い川となっている。
まぁ、トイレなどの汚水は別に地下に張られた下水道に流れており、そこでスライム処理が行われてからソルケイ川に流されているが、それでも底にたまったヘドロなどが匂う場所だ。
ちなみにスライム処理というのは文字通り、スライムを投入して汚物を食べてもらうという処理方法のことだ。
そんなことをすれば、下水道でスライムがあふれかえってしまうのではと思うが、この世界のスライムは古代の時代に研究された結果、同じ空間では7割を占めた時点でなぜか増殖をやめてしまうという性質がある。
それにより、古来より下水処理にスライムを投入することは常道となっている。
とまぁ、ソルケイ川はそんな場所であるために、定期的に掃除をしないと、においやヘドロなどが溜まって水位が上がってしまうために必要な行為となる。
そしてこれらは主に冒険者ギルドからHランク依頼として出されている。
もちろん、冒険者ギルドだけでなく、スラムの住人に仕事として任せることもある。
「ドブって、まじで」
「うわぁ」
「まじか」
キルスの発言を聞いてガイネル、シャイナ、ビルがそれぞれ嫌そうな顔をした。
「何言っているの、必要なお仕事なのよ」
ニーナも気持ちはわかるが、それでも必要なことであるということからそういって諭した。
「わかっているよ、ニーナ姉さん、それやらないと水があふれて大惨事になるからな」
過去、別の街でだが、この掃除を怠った、それにより大雨で水があふれ街が泥水などに襲われた。
そこから疫病が流行り、多くの人が命を落としたのだ。
それから、キルス達は昨晩の疲れを取るために解散となった。
家に帰ったキルスは当然家族から、Eランクとなったことの祝いの言葉を受け、エミルをはじめ両親、キレル、ロイタなど年長の兄弟からも休むように言われた。
もちろん、キルスもさすがにサディアスの件も含めて疲れていたためにその日は何もせずに休むことにした。
そんな日の翌日。
キルスはというと、ギルドへとやってきていた。
それはもちろん冒険者の初仕事を受けるためである。
「よう」
「おはよう」
「おはよう、ガイネルはまだか」
キルスがギルドにつくとそこにはすでにビルとシャイナがいた。
「そうみたいだな」
「あの貴族もまだだけどね」
「あれは……また、さわぎそうだな」
「……だろうな」
「……放っておきましょう。それがよさそう」
「確かに」
キルス達はサディアスのことは放置するということで一致した。
(関わっても厄介なだけだろうしな。母さんもそういっていたし)
キルスがそんなことを考えていると、ちょうどガイネルがギルドに入ってきて、そのあと数秒もしないうちにサディアスもやって来た。
「全員揃ったようですね」
ここで、ニーナとは別の受付嬢がそういった。
「はい」
シャイナが代表して応えた。
「それでは、本日皆さんに行っていただく依頼をご紹介いたします」
キルス達は昨日の時点でニーナから聞かされていたが、当日ということで改めて聞くことにする。
「皆さんへの依頼はソルケイ川の掃除となっております。道具などはギルドの方で用意しておりますので、これからご案内します」
「なっ、川の掃除だと、僕に川の掃除をしろというのか」
ここで通例通りサディアスが騒ぎ出した。しかし、キルス達も昨日まででなれており、受付嬢もよくあることなのかなれているようであまり気にもせずに椅子から立ち上がった。
「どうぞ、こちらです」
「おい、ちょっと待て」
騒ぐサディアスをしり目に受付嬢は歩き出したのだった。
ちなみに、この受付嬢の態度は本来貴族であるサディアスを無視するという形となるので、さすがにまずいかといって関われば時間がかかるし厄介だ。
そこでこういった場合の特別処置として、実は各ギルドの受付嬢の中には必ず1人は貴族家出身の娘が配置されていた。
そんなこと可能かと言われると、それは簡単だ。なにせ貴族というのは多くの子供を作る。そのため余った子供が多い、その中には当然娘がおり、その見目は麗しい者が多いのが事実、というわけで各町に1人以上の受付嬢を確保出来るというわけだ。
そういうわけでこの受付嬢はサディアスを無視している。
「待て、貴様、受付嬢の分際で、僕を無視するとは、名を名乗れ、後悔させてやる」
受付嬢の態度に当然サディアスはキレた。
「失礼しました。私は、バイドル冒険者ギルド受付を担当させていただいております。レティエルーナ・キエン・ド・コロニエールと申します。以後お見知りおきをお願いいたします」
受付嬢はそういってあえて貴族の名を名乗った。
あえて、というのはいつもであればレティエルーナとだけ名乗るからだった。
「なっ」
レティエルーナの名乗りを聞いてサディアスは固まった。
それはそうだろう、なぜならサディアスの家名はドルゲストといい、男爵の爵位を持つ家だ。
それに対して、レティエルーナが名乗った家名コロニエールというのは、伯爵の爵位を持つ。
男爵と伯爵では当然伯爵の方が上となる。
つまり、男爵位であるサディアスが伯爵位のレティエルーナに”貴様”といったのは下手をすればかなりまずいことになるからだった。
こうしておとなしくなったサディアスを放置してキルス達はレティエルーナについて行った。
「こちらが掃除の道具です。使用後はなるべく洗ってから返却をお願いします」
「わかった、そうするよ」
この受付嬢が貴族と知ってサディアス同様おとなしくなったビル達を置いて、以前からこの受付嬢が貴族であることをニーナを通して知っており、なおかつ何度も話しているキルスが代表して応えた。
それから、それぞれ掃除道具を手に持ち、キルス達は件の川へと向かって行った。
「しかし、あの受付嬢が貴族とは思わなかったよな」
「そうね。でも、あの気品は貴族こそってわけね」
「おい、キルス大丈夫なのかよ」
「何がだ」
話題は当然レティエルーナのことだった。
「いや、お前、普通に話していただろ」
「ああ、そのことか、それなら問題ないよ、レティエルーナはニーナ姉さんと同期で仲がよくって、受付嬢になってからもよく家に来ていたからな。何度も話しているし」
レティエルーナはファルコ食堂によく顔を出していた。
「それに、今日はあえて貴族っぽい感じを出していたけど、普段は結構気さくなんだよ。まぁ、多少は硬いけどな」
レティエルーナの印象はそんな女性だった。
「へぇ、そうなんだ」
「そうそう、それに子供とかも結構好きでさ、家の弟や妹も懐いているしな」
「……くそっ」
キルス達がそんな話で盛り上がっている中、サディアスは1人悪態をついていた。




