第193話 適材適所
オルスタンの住人たちの腹も満たされたことで、キルスはほっとするとともに現在は元領主が住んでいたという屋敷にやってきていた。
「おおきなおうちだね。きるにーちゃ」
「わぁ」
「お前ら、あんまりはしゃいで、物を壊すなよ」
「うん」
「はーい」
そう言いつつはしゃいで屋敷内を走り回る弟妹にまぁいいかと、思いながらキルスは屋敷内を探索していく。
「えっと、ここが執務室かな。って、ほんとなんなんだ、この屋敷は?」
キルスは屋敷内をうろつきながら嘆息していた。
それというのも、ありていに言えば、この屋敷内は広く、おいてある調度品も高そうなものばかりで統一感もない。
まさに悪趣味なものだった。
「まるで、成金の家だよなぁ」
キルスはこの屋敷の状態を見て、前世で見た成金の屋敷のように感じていた。
「さてと、やるか、といっても、何が何だかわからないんだよなぁ」
執務机の上にはいくつかの書類が置いてあったので、キルスはそれを手に取り、事務仕事でもやるかと思ったが、当然ならが前世でも今世でもこういったことはやったことがないキルスにとっては、正直意味が分からなかった。
「……仕方ない、とりあえず片づけでもするか」
書類が分からないので、キルスはまずこの部屋の片づけをすることにした。
なにせ、この部屋は領主が慌てて逃げたのか、書類は散乱しおいてあったツボも床に落ち割れており、破片が散らばっていた。
「それと、こいつはあれか、隠し金庫って奴だよな」
おまけに、執務机の背後には床に落ちた絵画とそれがかかっていたであろう壁にはめ込まれた金庫がある。
そして、その金庫は開いており、中は空っぽだった。
それから、キルスは書類を適当にまとめ、破片をゴミとして片づけていった。
そうして片づけをしていると、ふいにマジックストレージの中に手紙が追加された。
「んっ、おっ、来たか、思ったより早かったな」
手紙の差出人は国王陛下その人であった。
実は以前国王にはマジックバックの話をしており、そのあと玲奈と幸により作られたマジックバックを送ってあった。
「あっ、オーレルちょうどよかった」
「なに、キルスにーちゃん」
ちょうど執務室の前を通りかかった五男のオーレルを発見して声をかける。
「今から、ちょっと王都に言ってくるから、姉さんたちに伝えておいてくれ」
「わかった」
オーレルはそう返事をして再び駆け出して行った。
「そんじゃ、行くか、転移」
こうして、転移したキルスがやってきたのは王都の王城庭であった。
「お待ちしておりました」
キルスが転移したところには、以前王城に滞在した際に世話係をしていたリッタだった。
「えっと、リッタだっけ」
「覚えていて頂けましたか、ありがとうございます」
キルスが名を覚えていたことにリッタは笑顔で礼を言った。
「宰相閣下がお待ちです。こちらへどうぞ」
「ああ、頼む」
その後キルスはリッタの案内で王城内へと入っていった。
そうして、やってきたのは宰相の執務室だった。
「これはオルステン殿、よくぞ参られた」
オルステンというのは、キルスの家名である。
「いえ、えっと、用意ができたとのことですが」
実は、キルスが爵位を得た際、さすがに街の統治などしたことのない素人だけでやらせるわけにはいかない。
そこで、国王がキルスに家令を用意すると話していたのだった。
それを今回用意ができたと国王からの知らせを受けてキルスはやってきたのだった。
尤も、国王もさすがにこのぐらいでキルスと会うわけにはいかないためにこの場にはいない。
「ええ、その通りです。ソバイラス」
「はっ、お初にお目にかかります、オルステン男爵様。わたくしは宰相閣下の家令、ソバイラスと申します。以後お見知りおきを頂ければ幸いでございます」
宰相の指示により、宰相の背後に控えていた執事が一歩前に出て自己紹介をした。
「あ、ああ、よろしく、キルスだ」
「お初にお目にかかります。男爵様、わたくしはソバイラスの孫娘、メリッサと申します」
続いて、さらに背後に控えていたメイドが一歩前に出て自己紹介をしてきたのだった。
「ああ、よろしく、えっと」
「実は、このメリッサをオルステン殿の家令にと思っているのです」
「えっ!」
キルスは突然のことに驚いた。
「孫は、このような格好をしておりますが、幼いころより才にあふれておりまして、わたくし自ら家令としての教育をしてきました。しかし、見ての通りメリッサは女、この国において、女を家令として雇う貴族はおりません」
法律上は雇っても問題ないが、それを嫌う貴族がほとんどだからだ。
「わたしにはソバイラスがおりますから、雇うことはできません。かといって、この才能を埋もれさせるのはもったいない。そこで、オルステン殿にと、いかかでしょうかお使い頂けませんかな」
「なるほど、まぁ、俺としては全く問題ないです」
キルスは元日本人、日本では現在女性がそれなりの地位に立つことは特段おかしなことではない。
そんな世界の記憶と、何より今世において両親の立場が母が強く父が弱いという物を見て育ち、エミルとニーナという2人の姉を持ち、多くの妹をもつキルスはそもそも女性から命令を受けることすら日常であった。
「よろしいのですか?」
キルスがあっさりと受け入れたことにメリッサは驚愕し、思わずキルスに聞き返してしまった。
「もちろん、適材適所って言葉もあるしな。その才能があるのなら、むしろこっちから頼みたい、なにせ、俺にはその手の才能も知識も皆無だからな。というわけで、よろしく頼むよ」
「はい、こちらこそ、よろしくお願いいたします。誠心誠意お仕えいたします」
こうして、キルスは宰相の紹介で家令を手に入れたのだった。




