第190話 炊き出し
「おいっ!! なんだ、そのガキは!」
キルスがゾンダスと話をしていると、突如怒鳴り声が響いた。
「んっ、俺はキルス、今日からこの街の領主となった」
「はぁっ、領主だぁ、ふざけんなっ、てめぇみてぇなガキが、領主だとぉ」
キルスが領主であると答えると、男はさらに激高した。
「そう言われてもな、事実だから仕方ない」
「ふざけんなっ!!」
キルスが仕方ないとばかりにいうと、男はまたさらに激高したが、キルスにとっては男の相手をしている場合ではない。
「続きは後だ。今はそれどころじゃないだろう、父さん、兄さん頼む」
「うん、任せて」
「わかったよ」
「なっ!」
キルスは男をほおっておいて、マジックストレージから簡易かまどなどを取り出し、広場に設置していく。
一方で、ファルコとオルクはマジックバックからそれぞれ愛用の包丁など調理道具を取り出し、キルスが設置した台などに並べた。
「とりあえず、オーク肉でいい?」
「そうだね。おねがい」
ファルコに確認を取ったあと、キルスはマジックストレージからオーク肉の塊を取り出した。
ちなみに、この肉はファルコが持つマジックバックからも取り出せるが、キルスが取り出したほうが、キルスからの提供だという印象が付いていいだろうと、フェブロが言い出したことだった。
「それじゃ、あとは任せて」
「ああ」
オルクは力いっぱいそういうと、オーク肉を細かく刻み始めた。
どうやら、ハンバーグを作るようだ。
「おいっ、てめぇ、何をしてやがる。それに、今、どこから出しやがった!」
男にとって目の前で起きたことが信じられなかった、なにせ、何もないところから突然大きな台やら、かまどやらが出てきたかと思ったら、今度は巨大な肉の塊が出てきたのだから、混乱するなというほうが無理だろう。
実際、男だけじゃなく周囲にいた街の住人たちは全員驚愕に目を見開いていた。
「何って、炊き出しだよ」
「炊き出し?」
「ああ、聞いた話だと、お前ら帝国軍と元領主等街の上層部の連中に食糧、持っていかれて、ほとんど残っていないんだろ」
「……あ、ああ、だが、そんなことてめぇには関係ねぇだろ」
「だから言ったろ、俺は今日からこの街の領主だって、そんな俺がこの状況を黙ってみているわけにはいかないだろ。幸い、この2人、俺の父親と兄は料理人、そんで、俺は食材ならいくらでも持ってる。領主が飢えかけている領民に食糧を提供するのは当たり前のことだろ」
日本でも大名は民から年貢を獲り、それを蓄えておきいざという時に放出していたという、今回はキルスが討伐したものだけだが問題ない。
それほど、キルスはマジックストレージに大量に食糧を確保していた。
「何が、領民だ。俺はてめぇら蛮族の施しなんか受けるかよ」
「そうよ、そうよ」
「俺たちは誇り高い帝国人だ」
帝国では、自分たちこそ文化人であり文明人、それ以外の者は野蛮な蛮族である。
そういった教育を幼いころから行っており、帝国人の奥底に根付いたものだ。
「あんたらがどう考えて、俺たちが用意したものを食わないってんなら、それは好きにすればいい。俺もそんなことを強制するつもりはないからな。でも、そんな大人の事情に、子供を巻き込んでんじゃねぇよ」
キルスは叫ぶように言いつつ、少し離れた場所で力なく座り込んでいる子供たちを見ていた。
そう、キルスはこの広場に来た時から、その子供たちを見つけており気になって仕方なかった。
もちろん、それは家族全員も同じで、ファルコとオルクもすぐに子供たち向けに料理を始めたし、エミルに至ってはすぐさま子供の元に走っていき面倒を見始めていた。
「うっ」
キルスの言葉と視線に街の大人たちは一斉にたじろいだ。
「子供は、次代を担う国の宝、そんな子供たちを飢えさせて、何が誇りだ!」
キルスはなおも責め続けた。
キルスもまた、一家の例にもれず小さなものが好きで子供好き、そんなキルスからしても、今の子供が飢えている姿は許せないものがあった。
「キルス、できたよ」
その時料理を作っていたオルクから料理ができたと声がかかった。
「ああ、それじゃ姉さん」
「ええ、待ってたわ。オルク、こっちに持ってきて」
「わかったよ。姉さん」
エミルはオルクとファルコの料理ができるのを今か今かと待っていたこともあり、すぐにオルクだけではなく、キレルやロイタなどにも指示を出していった。
「ところで、あの子供らの親は?」
ここで、なぜ子供を放っておいたのかという意味をこめて先ほどの男たちに視線を向けつつ尋ねた。
「あ、あの子らは孤児よ。あんたたちのせいで、親を失ったのよ」
キルスたちのせいで孤児となった。つまり、親は此度の戦争に参加し戦死したということだろう。
それをきいて、顔を一瞬しかめたが、同時に腹も立った。
「そうか、だが、だからといってあの子らがあそこまで飢えているのを放っておいたのか?」
ほかにも子供はいるが、今エミルが面倒を見ている孤児の子供たちはほかの子供たちにくらべて明らかに飢えていた。
違いがあるとすれば、ほかの子供のそばには親らしきものたちがいるということだろう。
すなわち、この街の大人たちは自分の子供には飢えないように残り少ない食糧を分け与え、親のいない孤児には渡さなかったということに違いなかったのだ。
「……」
キルスの質問に答えるものはいなかった。
キルスは、そんな者たちから離れて、エミルの元へと向かった。
「さぁ、ご飯よ。いっぱいあるからね。ゆっくりと食べるのよ」
エミルから食糧をもらった孤児の子供たちは、一生懸命に食べていた。
「ママ、おいしそう……」
「駄目よ。あれは、食べちゃ、駄目なの」
「なんでぇ」
そんな孤児たちの様子を見ていた親のある子供が親に自分も食べたいと告げるが、親はなかなかそれを許さない。
(大丈夫かねぇ、こんな調子で、さて、どうしたものか)
キルスはそんな様子を伺いつつ、これからどうしてこの街を収めていくか、それを考え始めるのだった。




