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第142話 実食

「いつもとちがうー」

「このしろいのなにー」

「あまいにおいする。おかし!」


 食卓に並んだ和食を見たキルスの幼い弟妹達がそれぞれにそういった。


「こいつは、和食っていってな。玲奈や幸の故郷の食べ物だ」


 キルスはそんな弟妹達にそう説明した。

 キルスの兄妹はキルスが前世の記憶を持っていること、異世界から転生してきたことを知ってはいるが、幼い弟妹達はまだ分かっていないので玲奈と幸と説明したのだ。


「ふーん」

「よし、それじゃ、たべよっか」


 エミルが微笑みながらそういった。


「じゃぁ、いただきます」

「いただきまぁす」

「いただきます」


 キルス、玲奈、幸の3人はほぼ同時に日本風に食前の挨拶をしてから用意したフォークを手に取った。


「なんか、ちょっと違和感あるよねぇ」

「は、はい」

「そうだよなぁ……あっ、忘れててた!」


 いざ食べようとすると、ご飯をフォークで食べるという違和感に苦笑いしていると、ふとキルスは思い出した。


「どうしたのキルス?」


 そんな声を突然出したキルスにオルクが訝しんだ。


「ああ、いやぁ、すっかり忘れてたよ。えっと、ちょっと待ってろ、ああ、これこれ」


 キルスはマジックストレージの中身を確認しながら目的の物を探した。

 そうして、キルスが取り出したのは、3つの長方形の箱だった。


「これを渡すの忘れてた」


 そういって、キルスは玲奈と幸に箱をそれぞれ渡した。


「最初は自分で作ったんだけど、いびつだったからな。カルナートの木工職人に依頼して作り直してもらったんだよ。2人のは一応小さめに作ってもらったけど、大きさを確認してくれ」

「う、うん……って、これって、お箸?!」


 そう、キルスが取り出した箱の中身は箸だった。


「ああ、っで、どうだ」

「ピッタリです」

「うんうん、ちょうどいいよ」

「そりゃぁよかった」


 キルスも自身の箱から自分用の箸を取り出した。


「じゃぁ、改めて」

「「「いただきます」」」


 今度こそ同時に挨拶をしてから箸を右手に茶碗に似た器を左手に持ち1口。


「うまっ」

「おいしい」

「……」


 三者三葉の感動があった。


「ふふっ、よかったわね。でも、何かと思ったら、そう使うものなのね」


 この3人の様子に微笑んでいたエミルがそういった。


「ああ、これは箸っていって、日本では昔からこれを使って食べているんだ」

「なんか、難しそうだね」

「まぁ、練習は必要になるよな。といっても、物心つく前から使っているから、苦労した記憶はないけどな」

「そうそう、ああ、でも、あたしは小さいころ持ち方が違うっておばあちゃんから治されたっけ」


 人によっては大人になっても変な持ち方のままってのもいる。幸いというべきか3人の中には変な持ち方はいなかった。


「へぇ、そうなんだ。私も使ってみたい」


 話を聞いていたキレルがそういった。


「ん、使ってみるか」


 キルスはそういってから再びマジックストレージから小さめに作っていた箸を取り出しキレルに渡した。


「ほれ、こうやって持つんだ」


 キルスはキレルに箸の持ち方を見せながら説明した。


「え、えっと、こ、こうかな?」


 持ちなれないキレルはなんともいびつな持ち方をしていたが、キルス、玲奈、幸の3人が修正することで何とかご飯を持ち上げることに成功した。


「う~、むず、かしい」

「あははっ、まぁ、そのうちなれるだろ」

「うんうん、そうそう」

「きっと、大丈夫」

「そ、そうかなぁ、わっ!」


 その後、ぼくもわたしもっと、キルスの兄妹たちがこぞって箸を使痛がったのでキルスは全員分の箸を取り出して渡したのであった。

 尤も、その中でまともに使えたのはエミルとロイタのみであった。


「おっ、この味噌汁、うまいな」


 今回の食卓にはご飯だけではない、玲奈作の味噌汁もあるし、具はキルスが作った豆腐とワカメである。

 また、その他にもおルクに捌いてもらった魚を焼いたもの、ご飯を炊いている間に幸がつくった煮ものがあった。


「でしょ、これだけはおばあちゃんに習ったんだよね」

「なるほどなぁ」

「ほんと、おいしいね。おみそだっけ、なんともコクがあって、味わい深いよね。それに、なんだろ、味わったことのないうまみがあるような気がするよ」


 さすがの料理人、オルクは味噌汁を飲んで出汁の存在に気が付いた。


「味噌汁とはいっても、お湯に味噌を溶かしただけじゃないからな。小魚を煮てから干した煮干しっていうものと、昆布っていう海藻から取った出汁を使っているんだ。だろ?」

「うん、本当は鰹節も欲しかったけどね。これでも十分すぎるほど良い出汁が出てると思う」

「へぇ、出汁かぁ、今度使ってみたいなぁ」


 それから、キルス達は久しぶりの和食を、その他の家族も生まれて初めての和食を心から楽しんだのである。

 ちなみに、この後オルクとファルコによって味噌や醤油などをはじめ和食の調味料や製法を使った新たな料理が作られ、人気を博するのは付け加えておこう。

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