第13話 穴の先
バイドルの街はキリエルン王国の中でも小さな街だ。
また、周辺の魔物も弱く、滅多に強力な魔物は出ない。
さらに、多くの商人が出入りするような街でもないために、盗賊もうまみがないために滅多に出ない。
そういう、平和な街だった。
しかし、そんな街だからといって全く危険がないというわけではない。
そのため、街の周囲を防壁で囲っている。
その防壁は他の街と比べると、さほど強固というわけではない。
その証拠に、今、3人の少年が防壁に空いた小さな穴を通り街の外に繰り出そうとしていた。
「ほんとに大丈夫だよな」
少年の1人は怖気づいたようだ。
「大丈夫だって、俺がいるんだぞ」
そんなことを自信満々に言っている1人少年、ドーラフである。
ドーラフは、自分がガイドルフの教え子の中では最強であるという自負があった。
といってもそれはあくまでも子供たちの間での話、そこにもう少し年齢が上がった、つまりは駆け出しの冒険者と比べた場合、当然話にならない弱さだ。
そう、まさにドーラフは井の中の蛙だった。
だからこそ防壁の外がいかに危険な場所であるということがわからなかったのだ。
そんなドーラフ達は、防壁の外に出て、意気揚々と歩き出した。
目的は、何やら魔物を見つけ狩ること。
「本当に大丈夫なんだよな」
先ほどの少年がまた同じ不安を口にした。
「大丈夫だっていったろ、しつこいぞ」
2度も同じことを言われドーラフは少しイラつきながら答えた。
そうして、少し歩いていると、不意に目の前の森がざわついてきた。
「な、なんだ」
「誰か、いるの」
「バカ、落ち着け、きっと動物だ」
取り巻きの2人がパニックになりかけ、ドーラフも半ばそうなりかけたが最強というプライドか何とか自制することに成功した。
そんな、3人の心中も知るはずもなく、先ほど音がした方から、小さなウサギが顔を出した。
「なんだ、ウサギかよ」
3人は心底ほっとしていた。
ここは、魔物が闊歩する異世界、それでもウサギのような普通の小動物も当たり前のようにいる。
まぁ、平和な地球にいるより捕食する存在が多いために数はあまり多くないが……。
「ほら、いくぞ」
ドーラフは気を取り戻して再び歩き出した。
まさにその時だった、ほっとした3人の油断を着いたの如く、木々の陰から不意に何かが出現した。
「ゲギャ」
そんな、なんとも言えない不気味な鳴き声とともに出現したのはゴブリンだった。
「ひっ」
「お、俺が相手だ」
取り巻きの少年2人はおびえきっており、腰を抜かしてしまったのに対して、ドーラフは果敢にも腰の剣を抜き放ち、ゴブリンに向かった。
この剣は、先日誕生日を迎えたドーラフのために父親からプレゼントされたものだが、このプレゼントがさらにドーラフを勘違いさせたのは言うまでもないだろう。
そんなドーラフがゴブリンと対峙する数分前、散歩に出かけたキルスの前に突如現れた稽古仲間のユビリス。
ユビリスの話ではドーラフたちが防壁の穴から出て行ったという。
それを聞いたキルスは、とりあえずガイドルフに知らせるように頼み、自身はその問題の防壁の元へと急いだ。
(あいつら、何もないといいけど)
前世の記憶を持つキルスは5歳という年齢でも街の外がいかに危険な場所であるということが分かっている。もちろん、その知識は勇者時代によるものだ。
だからこそ、ドーラフたちが街の外に出て問題ないという結論には達しない。
「あれが、穴か、確かに、あれじゃ子供しか通れないよな。でも……ああ、なるほど」
初め見たとき、明らかな穴があった。しかし、そんな穴が空いていては警備兵などがすぐに気が付いて、この街を治める代官に報告が上がるはずだ。
ちなみに、この街を治めているのは、この辺り一帯を治める領主、バラエルオン伯爵家だ。当初はこのバイドルに居住を構えていたが、領地を増やした今は別の街に住んでいる。
そのため、この街には、バラエルオン家の家臣が代官として派遣されている。
キルスが周囲から集めたその代官と領主の評判としては、決して悪いものではなく、だからといっていい物でもない。ようは可もなく不可もなくといったものだった。
まぁ、実際の領主も代官も領民のことを考える立派な人間だが、領民にはそれが伝わっていないという不幸があったが……。
とにかくそんな代官がこんな小さなとはいえ穴を放っておくということはありえない。
領主や代官の心情は知らないキルスだったが、これまでの両親などの会話からの推測で代官なら直すだろうと判断する。
しかし、それがなされていないどういうことかと思ってよく見てみたら、穴の位置にある地面を見てみるといくつかの大きめの石が転がり、その周囲にも散乱していた。
(この石が積みあがてってて、誰も気が付かなかったってことか)
実際、この穴はドーラフたちが開けるまで複数の石が積みあがっていたことでほとんど見えていなかった。
どうして、このような場所に石が積まれていたのか、いつからあったのかはわからないが、なぜか積まれていた。
「よくわからないけど、とにかくこの穴からあいつらが出て行ったのは確からしいからな、とにかく確認してみるか」
そう思ったキルスはまずは穴を覗いてみた。
「あっ、居た」
穴を覗くとすぐ近くに3人の姿を確認することができた。
思っていたより近くにいたことにほっとしつつ、3人に声をかけようとした。まさにその時だった。
「ゲギャギャ」
そんな不気味な声とともに2人の少年の悲鳴が上がった。
「ヒィ」
「うわぁ」
「お、俺が相手だ」
そんななか、ドーラフは勇ましくも腰の剣を抜き放っていた。
しかし、その姿は震えていた。
(まずいな)
キルスはそう判断して、すぐに穴から外に出ることにした。
といっても、この穴、子供でもそう簡単には出られない、何せ頭は通ってもそのあと体をひねらないと全体を出すことができないからだ。
(早くしないと、よっと)
キルスは焦る気持ちを抑えつつ何とか、穴を抜けることに成功した。




