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第126話 別れと出発

 カルナート王国に行くように言われたキルスであったが、まだ肝心な依頼内容までは聞いていないかった。


「それで、ギルマス依頼内容は何なんだ?」

「ああ、カルナートの王都近くに魔物が出現してな。そいつの討伐依頼だ」

「討伐? なんで、俺なんだ」


 アダルエイトの軍はどうしたのかと、疑問に思うキルスであった。


「ああ、アダルエイトの軍はいないわよ」


 キルスの疑問をシュレリーが応えた。


「どういうことだ?」

「えっとね。今から50年ぐらい前の王様、つまり先々代の王様がね」


 キルスが首を傾げながら聞いていると、それはあきれるものであった。

 50年前、時のアダルエイト国王、トリエル・ダ・ドップラー・アダルエイトは歴史上稀に見る愚王であった。

 まず、意味もなく周辺諸国にけんかを売った。その中には隣接もしていないキリエルン王国も含まれていた。

 尤も、いざ相手が本気になると逃げ出す始末。

 また、その他にも数多くの愚策を実行した。

 そのおかげで、アダルエイトの国力は一時低迷したほどであった。

 それでも、揺るがない国力をトリエルの先代が獲得していたことが幸いしたほどだ。

 当時周辺諸国も、アダルエイトが何をしたいのか全くわからず、困惑し通しだった。

 まぁ、そのようなことがくり返されたことで、最終的には誰も相手をしないようになった。


 その、トリエル国王はある時カルナートに軍を配置しているのは無駄だと言い出した。

 そもそも、カルナートに軍を配置していたのは、両国間で結ばれた安全保障条約に基づくものであった。

 カルナートの軍を解体することで、魔物や害悪の脅威からカルナートを守るというものだった。

 もちろん、アダルエイトの官僚たちも王に進言した。しかし、トリエル国王はカルナートが現在敵国がいないこと、魔物が弱い物しかいないことをあげた。

 これらは、別にトリエル国王がよく調べたというわけではなく、子供でも知っている事実である。

 尤も、アダルエイトが軍を配置しているのは、条約に基づいてのことであり、その代わりに海の使用権を獲得しているのであった。

 だが、トリエル国王はこれを聞かずに撤退、しかも、海の使用権は相変わらず行使した。

 一方、カルナートとしてもアダルエイト軍がいなくなることは歓迎したのだ。

 というのも、アダルエイト軍はカルナート国内を自由に動き回り、あろうことか女性に暴行などやりたい放題なことをするものがおり、時々問題となっていたからだ。

 それでも、撤退するとなると、国の守りがなくなる。そこで、カルナートも軍の再編を考えたが、これにはアダルエイトが猛反発、最悪攻め滅ぼすと脅しをかけてきた。

 かつてのカルナートならともかく、アダルエイトによってその力を落とされたカルナートはこれに従うしかなく、結局カルナートには軍がいないということとなったのだ。

 では、国の守りはどうしたのかというと、それをになっているのが冒険者だ。

 だが、その冒険者もほとんどが女性であり、どうしてもレティアのような女性でありながら高ランクになれるものが少なく、カルナートではせいぜいがCランクまでしかいない。


「つまり、今回の魔物はBランク以上ってことか」

「そういうことだ。まぁ、キリエルンなら、他にも高ランクはいるし、お前である必要はないんだが、あの国で男は基本弱いとさげすまされるしな。でも、お前ならレティアの息子ってことで問題ないだろ、なにより、シルヴァ―もいるしな」


 ということで、どうだと、グレンはキルスに言った。


「なるほどな、まぁ、大体は、わかったよ。俺もたまには外国に行くのも悪くないと思うし、行ってみたいしな、引き受けるよ」

「そうか」

「ほんと、キルス君、ありがと」

「うん、キー君頑張ってね」


 こうして、キルスの次なる目的はカルナート王国に発生した魔物の討伐となった。

 その出発日はシュレリー達をトーライドに送り届ける日とし、それまでキルスは準備を進めていくのであった。

 一方でシュレリーは帰るその日までキルスをはじめとした従弟妹たちとのふれあいを心行くまで堪能していったのである。


 そうして、ついにシュレリー達がトーライドに帰る日がやって来た。


「うわぁぁぁぁん」

「いっちゃやだぁぁぁぁ」

「もっと、あそぼうよぉぉ」


 案の定キルスの幼い弟妹達はシュレリーに抱きつき駄々をこねる。


「あぁぁぁん、わたしも、帰りたくないぃぃ」


 シュレリーもまた、そんな子供たちを見てそういった。


「そういうわけにも行かないでしょ。まぁ、気持ちも分からなくもないけど」

「そうだな。でも、いつでも手紙を出せるだろ」

「う、うん、そうだけど。ねぇ」


 トーライドからバイドルまで手紙を出す、通常なら不可能な距離だ。

 今だ郵便制度がないこの世界において、手紙を出すというのは、商人に頼むか、冒険者に依頼するしかない。

 しかし、彼らは専門ではないために、途中で紛失なんてことはざらにあるからだ。

 短い距離でもありうるのに、この両者ではほとんど不可能といってもいいだろう。

 しかし、それを可能としたのがキルスのマジックバックである。

 これなら、どんなに遠く離れていても一瞬にして物品のやり取りが可能であった。

 それを、キルスはシュレリーに渡したのである。


「うん、みんな、絶対お手紙書くからね。みんなも、書いてくれる?」

「うん」

「かくー」

「ぐすん、がく」

「私も、書くわ。あと、色々贈るわね」

「ええ、もちろん私もよ」


 子供たちのあとエミルが手紙と贈りものをするといえば、シュレリーもそれに返事をした。


「それじゃ、そろそろ、行くか」

「さぁ、みんな、ほら、そろそろシュレリーおねえちゃんを放してあげなさい」


 コルスの号令ととともに、エミルが子供たちに命じた。

 長女の命令とあれば効かないわけにもいかず、子供たちも泣く泣く手放した。


 そうして、シュレリー達は短くも充実したバイドルを後にしたのであった。


 その後、キルス達はシルヴァ―に乗りトーライドを目指し3日、ついに眼下にトーライドを収めた。


「あっ、見えた」

「帰ってきたのね」

「そうだな。改めて思うが、本当に速いな」

「ほんとね」

「キルス君、今日はうちに泊っていくでしょ」

「ああ、そのつもりだよ。それで、明日、カルナートに出発するよ」


 ということで、キルスはその日、祖父の家でありレティアの実家に泊まり、翌日の朝ギルドによってから、シュレリーたちに見送られてカルナートに出発したのであった。

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