第12話 壁の穴
ニーナの失踪事件から1ヵ月が経過した。
「いってらっしゃい、キー君」
「う、うん、行ってきます」
今日も剣の稽古に行くキルスを見送るのは、すっかり元気を取り戻したニーナだ。
あの後、エミルと長いこと話し合ったところ、エミルとニーナはともに可愛いものが好きであることや同い年など、いくつかの共通点があり親友となった。
その結果、どういうわけか、オルク以下、エミルの弟妹達はニーナと共有となったらしい。
そのおかげか、現在ニーナは朝からミーナとともにファルコ食堂に赴き、エミルとともにロイタやキレルの面倒を見ている。
また、そんな弟妹の中でニーナが特に構っているのが、実際の弟と同い年であることからキルスとなっていた。
ちなみに、キー君というのは、いつの間にかニーナがそう呼ぶようになっていたキルスのことである。
(ニーナもずいぶんと元気になったよな。まぁ、ちょっと、過保護な部分が見られるけど、まぁ、クリスのことを考えると、仕方ないのかもな。それに、ニーナのおかげで、俺たちの負担はもちろん姉さんや母さんの負担も減ったからな、いいことづくめだ)
キルスは、そんなことを思いながら稽古をする空き地に向かった。
「よし、今日はここまでとする」
剣の稽古が終わり、キルスは家に帰ろうとした。
「キー君」
そんなキルスのそばに寄ってきてそう呼ぶものが現れた。
ニーナである。
「ニーナお姉ちゃん、どうしたの?」
突然現れたニーナにキルスは驚愕した。
「うん、迎えに来たのよ」
そういいつつ、ニーナの尻尾は嬉しそうに揺れていた。
「そ、そうなんだ」
「帰ろう」
「う、うん」
こうして、キルスはニーナとともに家路に着いたわけだが、この様子を恨めしそうに見ている者がいた。
「おい、ドーラフ、どうしたんだ」
ドーラフ、以前キルスに絡んだ少年だった。
ドーラフは、衝撃を受けていた。
ニーナを初めて見た瞬間、雷に撃たれたような気がしたのだ。
そう、ドーラフはニーナに一目ぼれした。
誰だろうと、思いながら見つめていると、不意にニーナがキルスのそばにやってきて、嬉しそうに笑いながら話している。
その様子を見て、それまでキルスに思うところのあったドーラフとしては、2人が話している内容はわからずとも2人の仲がいいことだけはわかった。
そのために、恨めしそうにキルスをにらみつけたのだった。
「クソッ、なんなんだよ、あいつ」
ドーラフは独り言ちたが、それは誰の耳にも届かなかった。
それから、数日。
「クソッ、キルスの野郎」
数日が経ったことで、キルスとニーナの関係もわかったドーラフだったが、それでもやはりニーナに世話を焼かれている事や、剣の訓練でもガイドルフから熱心に鍛えられているという事実。
これらがどうしても気に入らなかった。
それというのも、キルスがやってくるまでは、ガイドルフから教わっている子供たちの中では、ドーラフが最もガイドルフから熱心に教わっていたからだ。
といっても、今現在一番強いのはドーラフであることは確かだ。その理由は、キルスが未だ5歳であるということや剣の訓練を始めたばかりで肉体が上手くコントロールできていないからだった。
「ドーラフどうするんだよ」
ドーラフの取り巻きの1人が憤慨するドーラフに恐る恐る尋ねた。
「……あれをやるしかない」
「あれ? ってまさか、あれか?」
「そうだ、準備するぞ」
ドーラフはキルスに勝つためにある手段を取ることにした。
それが、いかに危険な事かということを考えずに……
そんなドーラフの決意の次の日。
キルスは、その日訓練は休みで、店もそこまで忙しくなかった上に、ロイタやキレルの世話もエミルやニーナが行っており、暇であった。
そこで、散歩に出かけた。
(はぁ、暇だなぁ、何かすることないかな。どこかで、魔法の練習とか出来ればいいけど、街中じゃ無理だしなぁ)
キルスとしては、赤子のころに光の魔法を試して以来魔法を使っていなかった。
それというのもやはり、危険だからだ。魔封じの腕輪は自分で外すことはできるが、おいそれと外すわけにはいかなかった。
「あっ、キルス」
そんなキルスに突然声をかけた人物がいた。
「んっ、ユビリス、どうしたんだ。何か、慌てているみたいだけど」
ユビリスとは、キルスが通うガイドルフの剣の訓練場で一緒に剣を学ぶ仲間だ。そのユビリスがなぜかどこか慌てているようだった。
「ああ、実は、さっき、ドーラフたちを見かけたんだけど……」
「ドーラフ?」
同じ町に住んでいるんだから見るのは当たり前だ。
「あいつら、防壁の方へ向かって行ったから、気になって後をついて行ったんだけど」
ここで、ユビリスは少し言いよどんだ。
「それで?」
キルスは、先を促した。
「僕も知らなかったんだけど、どうやら、この街の防壁って穴が空いているらしいんだ」
「えっ!」
キルスは、驚愕と同時に嫌な予感がした。




