第119話 バイエルンへ
キルスが家に帰ったその日の夜、以前キルスが保護した地球とよく似た世界から異世界転移してきた2人から領都であるバイエルンに連れて行ってほしいと依頼を受けた。
というのも、そのうちの1人である玲奈は見た目に似合わず編み物を趣味としていた。
そして、その編み物をこの世界で行いそれを製品としてバイドルの服飾職人ターナーの店で販売していた。
その結果、領主より毛糸のドレスを注文されてしまった。
これにはキルスはもちろん玲奈も驚いた。
編み物で作るものは基本防寒着であり、ドレスといったものを作る素材ではないからだ。
しかし、ターナーはこれを面白いと考え玲奈のいないところで受けてしまったという。そして、次々にアイデアが浮かびデザインを描き始めた。
それを見た玲奈もまた、楽しくなったようであっという間に形にしてしまったという。
というわけで、領主へ納品に行きたいというのだ。
「まぁ、それくらいなら構わないが……」
「ですが、キルスさん、お疲れでは?」
ここで、幸が帰って来たばかりで疲れているのではないかと心配した。
「いや、それなら大丈夫だ。実際俺はシルヴァ―の背にまたがっているだけしな。それに、シルヴァ―もこれぐらいで疲れるような存在じゃない」
「じゃぁ、お願いしていい?」
玲奈は懇願するようにキルスを見た。
「ああ、わかった、それで、いつ行くんだ」
「明日でいい?」
「急だな。まぁ、いいけど、それで、行くのは玲奈と幸か?」
「ううん、ターナーさんも」
「了解」
それを聞いた玲奈はさっそくと言わんばかりにターナーに報せに行ったのであった。
翌日の朝。
「キルス、起きなさい」
「んっ? あえ、姉さん」
キルスが寝ぼけ眼で見てみるとそこにはエミルがいた。
「なんだよ、姉さん、朝っぱらから」
まだ、日が昇ったばかりの早朝であった。こんな時間に起こされることはこれまでなかったことである。
「今から、シルヴァ―ちゃんを洗うわよ」
「はぁ、今から!? なんで?」
「今日は領主様のところに行くんでしょ、だったら、シルヴァ―ちゃんも綺麗にしていかないと失礼でしょ。ほら、早く起きて手伝いなさい」
まさに、有無を言わさぬ勢いで庭に連行されるキルスであった。
そして、エミル主導の元シルヴァ―を洗い始めたキルスであったが、その後起きてきた家族の手もあり、何とか出発までには洗い終わったのであった。
「それじゃ、行ってきます」
「行ってまいります」
「ええ、いってらっしゃい」
「気を付けてね」
「いってらっしゃーい」
「じゃ、行ってくる」
キルスたちは家族に見送られて家を出てターナーを迎えに店まで向かうのだった。
ちなみに、今日シュレリーたちはエミルやキレルが中心となってバイドルを案内する予定となっている。
「あっ、待ってたわ」
キルス達がターナーの店までくるとすでに準備を終えたターナーが前で待ち構えていた。
「ターナーさん、早いですね」
「おはようございます」
「ターナー姉さん、ひさしぶり」
「ええ、久しぶりね。今日はよろしくねキルス」
「ああ」
キルスはこの街の出身であり、ターナーとは昔からエミルを通して付き合いがあった。
「じゃぁ、行きましょうか」
さっそくと言わんばかりにターナーは自分の荷物を持たずに歩き出そうとした。
「俺に持てってことか」
仕方なくキルスはターナーの荷物を手に取ると先に歩くターナーの後をついていった。
そうして、街の外まで出たキルス達はいつものようにシルヴァ―に本来の大きさになってもらう。
「わっ、大きい、噂には聞いていたけど、こんなに大きいの、シルヴァ―ちゃん」
ターナーはエミルとの付き合いからシルヴァ―が本来フェンリルという種族の魔狼であり、その大きさは山ほどはあると聞いていた。
しかし、聞いていたとはいえ、実際に見るとその大きさに驚いた。
「まぁね。それじゃ、みんな乗ってくれ、っていっても、ターナー姉さんは無理だろうから、玲奈と幸、頼む」
「任せて」
「はい」
玲奈と幸は元は普通の人間だが、異世界転移をした際にエリエルから身体を作り替えられた。
また、その際に膨大な魔力を得ており、それを使った身体強化の方法をレティアから習っている。
そのため、現在のシルヴァ―の背に人間1人を抱えて乗り込むことなど簡単に出来るようになっていた。
こうして、キルス達はバイエルンに向けて飛び立った。
「わぁ! 高い、怖い、ちょっと、高すぎない」
シルヴァ―の背の上で玲奈にしがみつきながらターナーは叫んでいた。
「大丈夫ですよ。ターナーさん、確かに高いけど、シルヴァ―の背中大きいから、落ちませんって」
玲奈の言う通り、本来の大きさになったシルヴァ―の背は広く数人が並んで座っても問題ないほどある。
そんな中で、キルス達は中央に陣取っているので、万が一にも落ちることはないだろう。
そうして、数時間ついに眼下にバイエルンを見ることができた。




