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異世界で賢者になる  作者: キノッポ
第三章
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第69話

 白い膜に覆われていた中に入る。

 円形に広がっていた中心部。

 そこにミーミルの泉はあるはずだ。

 失った左目の痛みがそれを教えてくれる。


「もしあの女性と戦うことになったら?」

「全力で逃げよう。ちょっと僕達の手に負える相手ではない」

「でも炎の巨人を倒してくれたから、良い人なのでは?」

「それは分からないよ。あの強力な冷気の魔法を打つ時に、僕達のことなんて気にしてなかった。逃げるのが遅れていたら、僕達も氷漬けだったからね」


 近い。

 すぐそこにミーミルの泉がある。

 大きな岩のその先だ。


「あの人だ」


 やはりミーミルの泉に彼女はいた。

 泉の前に立っている。

 何かを探しているようだけど……。

 こちらには気づいているよな。


「どうします?」

「少し様子を見ましょう。いつでも逃げられる用意を」


 失った左目が痛い。

 ミーミルの泉に近づいたからか?

 こんなに痛むことはなかったのに。


「あ、こっちに」


 泉の前に立っていた女性は何かを諦めたように振り返ると、こちらに歩いてきた。

 綺麗な人だ。

 雰囲気からして、敵意があるとは思えないけど。


「え?」


 なんと彼女は俺達に話しかけてきた。

 ただまったく知らない言語だ。

 内界で使われている言語ではない。

 やはり外界の人なのか?

 獣人族なら普通に話せるはずだけど、見た目からして獣人族の特徴はない。

 外界にいる俺達の知らない種族なのかもしれない。


「え、えっと。すみません。言葉が分からなくて」


 彼女も俺達の言葉を聞いて理解できなかったのだろう。

 何とも寂しそうな笑顔を浮かべて、道の端に移動した。

 まるで、どうぞ、と譲ってくれているようだ。


「どうしますか?」

「とりあえずこちらを攻撃してくることは無さそうだね。ミーミルの泉に行ってみよう」


 彼女のことは置いて、ミーミルの泉の前に行った。

 記憶の中に朧げにあるミーミルの泉と同じだ。

 でもミーミル様がいない。

 この泉の中に頭だけのミーミル様がいたはずなんだけど。


「ミーミル様がいない……」


 間に合わなかったのか?

 ミーミル様は亡くなられた?


「あぐっ! なんでこんなに痛みが」

「旦那様!?」

「失った左目が痛むんだ……なんでこんなに……え?」


 眼帯を取ると、左目の空洞から涙が溢れていた。

 それを涙と言えるのか分からない。

 まるで左目の空洞から水が溢れてくるように、流れ出ていく。

 その水がミーミルの泉の中に落ちていった。


「ぐっ……これは……」


 俺の左目の空洞から水がどんどん泉に落ちていく。

 するとその水が何かの形を成していった。

 徐々に形作られていくそれは、見覚えのある形だった。


「そんな……ミーミル様?」

「久しいな、アルマよ。また会えたな」


 やっぱりミーミル様だ。

 俺の涙? によってミーミル様が現れた。

 どういうことだよ。


「保険が効いたな」

「どうして僕の涙からミーミル様が?」

「正確には私はもうこの世にいない。スキールニルに殺されておる。いまここにいる私はアルマの涙と共鳴して存在している霊体だ。よって時間はあまりない」

「スキールニルがミーミル様を殺したのですね。スキールニルはいったい何をしているのですか?」

「ラグナロクによって世界は終焉を迎えた。同時に新たな再生が始まるはずだった。スキールニルはその時を狙って、ユグドラシルの支配権を奪おうとしたのだ」

「ユグドラシルの支配権?」

「そうだ。この世界はユグドラシルによって支えられている。また世界の理を定めているのもユグドラシルだ。かつてオーディンでさえ、ユグドラシルの支配権など望まなかったというのに」


 ユグドラシルの支配権?


「ユグドラシルの支配権を得てスキールニルはどうするのですか?」

「奴は世界を創り変えようとしている。己の望む世界にな」

「世界を創り変える」

「それ自体を悪といえるのか、私には分からぬ。奴には奴の正義がある。ヴァン神族の世界を創り出し、そこで王となろうとしている。奴が支配する世界で生きるヴァン神族は幸せかもしれんの。だが、アルマ達はそうはいくまい」

「僕達は奴隷ですか?」

「奴隷ですらない。スキールニルはヴァナヘイム以外の世界を消し去ろうとしている」

「消し去る!?」

「そうだ。スキールニルがユグドラシルの支配権を完全に掌握したら、アルマ達の世界は滅びるだけだ」


 なんてこった。

 スキールニルと敵対することは避けらない。


「まだスキールニルはユグドラシルの支配権を完全には掌握していないのですね?」

「うむ。奴は3つの泉を奪い、ユグドラシルを徐々に弱らせておる」

「3つの泉?」

「1つはこのミーミルの泉だ。ユグドラシルはこの世のあらゆる知識と知恵を集めてしまう。その情報を全てユグドラシルが持つには膨大過ぎるのだ。だからこのミーミルの泉に知識と知恵を流して、ここで保管している。だが、番人である私がいなくなり、ユグドラシルは知識と知恵をこのミーミルの泉に流せていない」


 ミーミルの泉にそんな役割があったのか。


「そしてもう1つはフヴェルゲルミルの泉だ」


 ニーズヘッグが自分を連れていけと言っていた泉だ!


「フヴェルゲルミルの泉にはニーズヘッグがいたが、ラグナロクの時に天へと昇った。新たなニーズヘッグが産まれてくるはずだったのだが、スキールニルがそれを妨害しよった。ノルン3姉妹の助力のおかげで、どうにか新たなニーズヘッグの生命を得たが、どこに産まれたのか分からなかった」


 その蛇なら後ろにいますぜ。


「新たなニーズヘッグはここにいます」

「おお、アルマの元にいったのか。これもまた運命か」


 この蛇はそんなに大事な存在なのか?

 こっちを睨むな!


「ニーズヘッグがいるならば話は早い。アルマよ、フヴェルゲルミルの泉にニーズヘッグを連れていけ」

「フヴェルゲルミルの泉にニーズヘッグを連れていくと、ユグドラシルが弱まるのが止まるのですね?」

「そうだ。ニーズヘッグはフヴェルゲルミルの泉でこの世の罪を喰らっておる。ユグドラシルは知恵と知識だけではなく、この世の罪もその身に溜めてしまうのだ。ユグドラシルの中に溜まった罪を喰らい浄化するのがニーズヘッグなのだ」

「へぇ……」


 この蛇にそんな重要な役割が。

 今までただの蛇だと思ってごめんよ。

 すごい蛇だったんだね。

 だからこっち睨むなって。


「フヴェルゲルミルの泉はどこにあるのですか?」

「氷の国ニブルヘイムだ」

「ニブルヘイムはどこにあるのですか?」

「中途半端な知恵と知識を得たせいか、そんなことも分からないとは嘆かわしい。己の頭の中でよく考えてみろ」

「そんなこと……う~ん」


 頭に手を当ててニブルヘイムの場所を探ってみる。

 何やらぼんやりと見えてくるものがある。

 ニブルヘイムという言葉が分かれば、得られた中途半端な知恵と知識が教えてくれるようだ。


「何となく……分かります」

「そこにニーズヘッグを連れていくのだ」

「分かりました」

「最後の泉はウルズの泉だ」


 ウルズの泉。

 精霊王国にたくさんある泉だ。


「ユグドラシルの栄養となる泉だ。この泉があるおかげでユグドラシルは枯れないでいる。ノルン3姉妹が守っていたのだが、スキールニルによって奪われてしまった。取り返すのだ」

「ウルズの泉って精霊王国にたくさんある泉ではないのですか?」

「それは本物のウルズの泉ではないな。ウルズの泉はアースガルズにある」


 アースガルズ。

 古代の神フレイ様に連れていってもらったあの神々の国だ。

 確か巨大な樹の根が伸びていた。

 あの樹の根の先にウルズの泉があったのか。


「アースガルズにあるウルズの泉をスキールニルから奪い返せばいいのですね」

「ウルズの泉を復活させるには新たなノルン3姉妹が必要となる。アルマよ。お前が魔力を与えた最初の3人の娘にはノルンとなる資格が与えられたはずだ」

「え?」

「ノルン3姉妹も己の運命の終わりを悟り、未来のアルマへ新たなノルンの託したそうだ」

「僕が最初に魔力を与えた3人の娘って……」


 俺が魔力を与えたのは、モニカ、マリアナ様、そしてアーネス様だ。

 あ!

 もしかしてモニカとアーネス様に見えている『神の使い』という資格のことか!?


「僕の騎士のモニカとアーネス様には『神の使い』という資格があります」

「それだ。あとの一人はどうした?」

「ニーズヘッグを戦具に宿したマリアナ様です。ですが、まだ神の使いの資格は得ていません。アーネス様もモニカも、戦具の『解放』を使った後に神の使いの資格を得ました」

「ならば、そのマリアナという騎士も解放を使うのだな」

「ニーズヘッグをフヴェルゲルミルの泉に連れていけば、解放を使えると思います。ニーズヘッグがそう言っていました」

「全ては必然の運命か」


 アーネス様、モニカ、マリアナ様が新たなノルンという3姉妹になる?


「アルマよ。まずはニブルヘイムへ行き、フヴェルゲルミルの泉でニーズヘッグを解放しろ。その後にアースガルズのウルズの泉へと行き、新たなノルン3姉妹を誕生させるのだ」

「新たなノルン3姉妹となったアーネス様達はどうなってしまうのですか?」

「運命の女神となる」

「え、えっと人では無くなるということですか?」

「そうだ。運命の女神となる」


 アーネス様達が人では無くなってしまう。

 ええ!?

 そ、そんな……。


「3つの泉を復活させなくては、いずれ世界はヴァナヘイムだけとなる。それでもいいのなら、残されたわずかな時間を過ごすがいい」


 人として残された時間を過ごすか。

 スキールニルから3つの泉を奪い返して、人族の世界を救うか。


「スキールニルは弱ったユグドラシルに秘密のルーン文字を刻み続けているだろう。それが完成した時、ヴァナヘイム以外の世界は滅びる」


 でもそもそも俺達はスキールニルに勝てるのか?

 いや別に戦う必要はないのか?

 3つの泉を復活させれば。

 あれ?

 フヴェルゲルミルの泉とウルズの泉の復活は分かったけど、ミーミルの泉は?

 いまここにいるミーミル様は俺の涙から出てきた霊体なんだよな?


「3つの泉の復活ですが、ミーミルの泉はどうなるのですか? いまここにいるミーミル様は霊体でいずれ消えてしまうのですよね?」

「そうだ。だから新たな番人が必要だ。ミーミルの泉を守る番人が」

「その番人って」


 あ……すごく嫌な予感が。


「アルマよ。お前だ。お前が新たなミーミルの泉の番人となれ」


 え……俺……頭だけになるの?


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