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第40話

 ……今、アリエットが着てる服、見覚えがある。私が17歳か18歳の時、お気に入りだった服だ。アリエットにしつこくねだられて、譲ってあげたっけ。


 わざわざ私のお気に入りだった服を着て、最後に話がしたいと言うアリエットの真意を測りかね、私は訝しげに問う。


「……何のつもり?」


 少しの間をおいて、アリエットは華やかに微笑み、言う。


「姉さん、覚えてる? この服、姉さんが17歳の頃に着てたものよ。私が欲しい欲しいっておねだりしたら、プレゼントしてくれて、私、とっても感激したわ」


 しつこいおねだり攻撃にうんざりして、嫌々引き渡したのだが、アリエットの中では私からプレゼントされたことになっているらしい。アリエットは瞳を閉じ、素敵な思い出を反芻するように語り続ける。


「姉さんは、いつだって私に優しかった。小さい頃から、私の面倒を見てくれたのは姉さんだけだった。あいつらと違って、姉さんはいつも私のことを気にかけてくれていたし、姉さんは私にとって、親以上の存在よ」


 いきなり何の話だ。

 そう思いつつ、気になったことを問う。


「あいつらって?」


「父さんと母さんよ。子供には何の関心も払わず、いい歳こいて、いつまでも恋人気分が抜けない、馬鹿なおじさんとおばさん。あいつら、姉さんが旅立ちの準備をして、明日にはこの町を出て行くっていうのに、それに気づきもしていない。普通なら、何も言わなくても、『娘の様子がおかしい』って、異変に感づくでしょ。まともな親ならさ」


 それはまあ、そうかもしれない。


 でも、うちの両親が子供に無関心なのは、ある意味ありがたいことだと、今では思っている。……私はこれから故郷も両親も捨てて、二度と帰らない旅に出るのだ。もし、父さんと母さんが人並みに愛情深い親だったとしたら、私が突然いなくなったら、それはもうひどく悲しんだことだろう。場合によっては精神を病む可能性だってある。


 しかし、うちの父さんと母さんならその心配はまったくない。そもそも最初から、子供のことなど見ていないから。あの二人にとって私とアリエットは『愛し合った結果、たまたまできてしまった』――それだけの存在であり。それ以上でもそれ以下でもない。たぶん両親は、しばらくは、私がいなくなったことにすら気づかないだろう。


 それにしても、少し意外だ。


 アリエットは両親に甘えるのが上手いので、色々とプレゼントを買ってもらっていたし、少なくとも私よりは、父と母のことを好いていると思っていたのだが、今の語り口は、隠す気もない侮蔑の感情で満ち満ちている。

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