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第37話

 気の弱い私が、詰問するような言い方をしたことに驚いたのか、ヘイデールはやや怯んだ。しかしすぐに気を取り直し、さっき以上に大きな声を張り上げる。


「ゲスな勘繰りをするな! アリーは……アリーとは、そういう関係じゃない! 彼女は、死んでしまった妹の……アニスの生まれ変わりなんだよ。いなくなってしまったアニスが、少しだけ姿を変えてまた僕の前に現れてくれたんだ! 大切にするのは当たり前だろう!?」


 生まれ変わりって……

 自分で言ってて、おかしいと思わないのだろうか?


 言うまでもないが、アニスが天国に旅立ったのは、アリエットが生まれた後だ。どう考えても、アリエットはアニスの生まれ変わりではない。


 呆れと共に、かすかな哀れみが胸に浮かぶ。


「ヘイデール……かわいそうな人。あなたは、最愛の妹さんを失ったことを、ずっと引きずっているのね。だから、こんな……」


 私の同情を吹き飛ばすかのように、ヘイデールは叫んだ。


「黙れ! アニスは死んでない! アリーになって、よみがえったんだ! レオノーラ! きみにはガッカリだ! あんなに真剣にアニスへのプレゼントを選んでくれて、アニスを喜ばせるための相談にも乗ってくれて、そして、そして、アニスのことで慰めてくれて……最高の……最高のパートナーだと思ってたのに……!」


 アニス、アニス、アニス、か……


 ヘイデールは、何故私を愛したのか。

 そして、愛しているのに、どうして私を信じないのか。


 この二つの疑問が、今になって、やっと氷解した。


 ヘイデールは結局、大好きな妹――アニスを通してでしか、世界を見ていないのだ。彼が私に好意を持ったのは、誰よりも親切に、アニスに関することの相談に乗ってあげ、そして、アニスが死んだ際、心からの同情でヘイデールを慰めたから……ただ、それだけのことだったのだ。


 そんなままごとのような愛情は、ヘイデールが『アニスの生まれ変わり』と信じるアリエットの出現によって、たやすく揺らいで当然だ。……悲しいことだが、最初から、私たちの間に愛情などなかったのだろう。


 いや、少なくとも私は、短い間だが、ヘイデールとの間に、恋の夢を見ることができた。しかしその夢は、もう覚めてしまった。


 ……ヘイデールも、もう妹の幻影を追う世界から、目を覚ますべきだ。


 私とヘイデールの婚約関係がなくなれば、アリエットはヘイデールに興味をなくし、彼の元を離れる。少々荒療治だが、ヘイデールが『アニスの生まれ変わり』と信じているアリエットがいなくなることで、彼もいい加減に、現実を見ることができるはずだ。

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