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第3話

『素敵な人だったけど、よっぽどのことでもない限り、こんな田舎の雑貨屋を二度も訪れることはないでしょうから、もう会うことはないんだろうな……』


 そう思っていた私だったが、なんと数日後、ヘイデールは再び店に現れた。彼はとても高揚した様子で、やや驚いている私の手を取り、心からの感謝の言葉を述べる。


『あなたの選んでくれたプレゼントで、妹がとても喜んでくれました。僕はどうも、女性の喜ぶ物というのがよくわからなくて、これからも贈り物をする際、色々と相談に乗ってもらえると嬉しいのですが……』


 私は、一も二もなく頷いた。

 これからも彼に会える――そう思うだけで、天にも昇るような気分だったのを、今でも覚えている。


 その後、ヘイデールはたびたび店を訪れた。


 詳しく話を聞くと、彼は体の弱い妹を溺愛しており、毎週療養所に通って、プレゼントをしているとのことだった。私も、彼の妹の健康を願い、毎回頭を悩ませて、最高の贈り物を選んだ。


 ヘイデールと二人で話をしながら、店の中で過ごす時間は、それまでの人生の中で最も幸福で、満ち足りた時間だった。


 そんな生活が半年ほど続いたある日、この世の終わりのような顔をしたヘイデールが、珍しく身なりも整えず店に現れ、私はただならぬことが起こったのを察知した。


 ……療養の甲斐なく、ヘイデールの妹は、若くしてこの世を去ったらしい。


 私は、彼女とヘイデールがとにかく哀れで、無礼かとも思ったが、泣き崩れるヘイデールを抱きしめ、思いつく限りの優しい言葉で慰めた。そして、なんとか落ち着いたヘイデールが帰っていくのを、寂しい気持ちで見つめていた。


 妹にプレゼントを贈るという動機がなくなった以上、彼がこの店にやって来る理由は、もうないのだから……


 しかしヘイデールは、翌週も、そのさらに翌週も、『あれが必要だ』『これが必要だ』と、何かと理由をつけて店にやって来た。そして一ヶ月後、自分に自信のない、鈍い私でも、流石にわかった。ヘイデールは『私に会うために』この店に来ているのだ。


 私が彼の好意に気づくのとほとんど同時に、ヘイデールは私への想いを言葉にして打ち明けた。


『レオノーラ、あなたほど誠実に、僕の心に向き合ってくれた人はいない。どうか、僕と婚約してもらえないだろうか』


 美しき貴族の青年が、雑貨屋の地味な娘に求婚するなんて、一瞬だけ、何かの冗談かと思った。……しかし、ヘイデールはそのような冗談を言う人ではない。


 こんな、おとぎ話みたいことが、私の身に起こるなんて……


 感動と多幸感で胸がいっぱいになった私は、瞳から涙をこぼしながら、『喜んで』と頷いた。私にとって、間違いなく人生最良の日だった。

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