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第23話

 なんとかジェランドさんと、二人きりで話ができないだろうか……


 そんなことを思いながら、悩み多き日々を過ごしていたある日のこと。私は雑貨店の店長さんに頼まれて、隣町に品物を配達しに行った。


 大体の場合、配達は専門の業者さんに頼むのだが、隣町までは大した距離じゃないので、『私が行ってきます』と引き受けたのである。最近は、ヘイデールとアリエットのことで気が沈み、室内でじっとしているとふさぎ込むことが多かったので、体を動かし、気分転換をしたかったのだ。


 思った通り、晴れた日に、ほとんど知る人もいない隣町を歩くのは、とても良い気分転換になった。配送を終えた後も、私は特に目的もなく、ゆったりと見知らぬ路地を歩く。店長さんからは、品物を届けたら今日はそのまま帰宅していいと言われていたので、もう少し、のんびりと散歩してから帰ることにしよう。


 歩みを進めるうちに、レストランや喫茶店が多く立ち並ぶ、飲食店街に入る。……そこで、不意に過去の記憶がフラッシュバックした。確か、この辺り、ヘイデールと一緒に来たことがあるわ。


 そうだわ、路地で一番目立つところにある高級レストランに、一度だけ、連れてきてもらったんだっけ。美味しい料理を食べて、たくさん話をして、あの頃は、とても楽しかった……


 瞳を閉じ、一人、しみじみとそう思うが、不思議とあの頃に戻りたいとは思わなかった。


 だって、戻ったところで、永遠に恋の夢の中で過ごせるわけもなく、いずれはまた、ヘイデールへの愛を失い、アリエットのことで悩まなければならないのだ。数々の痛みを経て、あれこれと思い悩む日々にも少しずつ慣れてきたのに、また最初から苦しみを繰り返したいとは思わない。


 恋の夢の中、か……

 私がしていたのは、本当に恋だったのだろうか。


 最近は、まるで夢から覚めたかのように、ヘイデールへの想いが日々冷めていくのを感じ、私はもともと、彼のことを愛してなどいなかったのかもしれないとも思うようになった。


 本当に、心の底からヘイデールに恋い焦がれていたなら、これほど簡単に、愛が冷めるわけがないもの。


 私はただ、代わり映えのしない鬱屈とした日々の中に突然現れたヘイデールのことを、特別視していただけだったのかしら。おとぎ話の王子様を待ち焦がれる幼い少女のように……


 そんなことを考えていると、突然、背後から声をかけられる。


「レオノーラ様……?」


 普通、後ろからいきなり声をかけられるとビックリするものだが、私は、少しも驚いたりしなかった。彼の声が、これ以上ないほど優しく、穏やかだったからだ。

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