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とある傭兵の勘違い伝承譚~前世でゲームを作り続けて過労死した記憶を引き継いだおっさん、ゲーム世界にて神話になる~  作者: 間野ハルヒコ


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33.グレイフォード砦の宴

 その夜、グレイフォード砦の食堂では宴が開かれた。


 オズワルドを囲む兵士たちはワイワイ騒ぎ、オズワルドにくっつく既に泥酔ぎみのミレイユにレティが無言で火花を散らしている。


「オズワルド様に乾杯!」


 今日、何度目かの乾杯に兵士達が沸き立つ。


「一体、何をどうやったらそこまでたどり着けるんですか!?」


「あの矢の雨の凄まじいこと!」


「そんなことより命中精度だ。あんな曲射でなぜ正確に狙えるんだ!? コツを教えてくれ!」


 オズワルドに言わせれば、単にたくさん練習しただけで特別なことは何もしていない。

 見た目の派手さにつられるばかりで、本質的なことを見落とされているような気もした。


 沸き立つ兵たちの中でただ一人、人を殺すことができないアレスだけが酒を見つめて考え込んでいる。


 不殺の手本として見せたつもりだったが…。


「アレス、お前にもできると思うか?」


 オズワルドはあえてそう言葉を投げる。


 兵たちは口々に「できるわけがない」「あんなことができるのはオズワルド様だけだ」と言う。


 泥酔気味のミレイユは何か言いたげだったが、同意見なのだろう。

 気持ちはわからなくもなかった。


 オズワルドも初めて英雄リーヴェの弓を見た時、できるわけがないと思ったものだ。


 まぁ、リーヴェの場合。空に一本の矢を放ったらそれが100倍になって降り注いできたし、矢の一本一本が意志を持って追尾してくるし、降り注ぐ矢の嵐の中でリーヴェは接近格闘戦を続行してきたので普通に勝ち目が無いというか、才能の差で無理なのだが…それでも学べることはあった。


 学ぶ気がない者に何を言っても無駄だ。

 オズワルドは見定めるようにアレスを見る。


「僕にも…できる…と思います。すべては無理ですが…ほんの一部なら…」


 周囲の兵たちがアレスをなじる。


 お前にできるわけないだろ。人も殺せないのに。


 そんな言葉がアレスに刺さりそうになったその時、オズワルドが口を挟んだ。


「少し黙れ」


 一瞬で場が凍てつく。


 す、すみませんでした。と。


 アレスをなじった兵は即座に謝罪した。


 アレスには明らかに才能がある。

 それをこんなところで潰すのはあまりにも惜しい。


「アレス。次、お前が敵に会った時…お前はどう対応する?」


 オズワルドの言葉にアレスは少しどもりながら応える。


「ま、まず。敵の武器を狙います。そうすれば隙ができるはずです。そこを仲間に狙ってもらいます」


「オズワルドさんは全部一人でやっていたけど。接近戦を行う仲間と組めば、有効な援護になるはず…」


 それはやってはならない戦法だった。

 押し黙る兵たちに割って入るように、レティが挙手する。


「それだとうっかり味方を射てしまうことになりませんか?」


 そう、その問題があるのだ。

 敵味方が入り乱れる接近戦をしている間に矢を放てば、仲間に命中しかねない。


 だが。


「僕は人を射ることができません。敵にも味方にも当てることはできないでしょう。だからこそ、援護できるはずです」


 泥酔中のミレイユが続ける。


「ん、別に接近戦に合わせなくても。牽制の矢で動きを止めて、もう一人の射手で当てればいいんじゃない? 服を地面に縫い止めた時点で勝ち確定みたいなものでしょ? トドメは別の射手が刺せばいい」


「それはそれとして、接近戦中に弓で援護…なんてことができるのなら強力な武器になる。訓練の成果次第では戦術に組み込んでもいいな」


 ミレイユの言葉にアレスは奮起する。

 

「はい! がんばります!」


 そうだぞ。がんばれよアレス。

 最悪、俺たちがトドメを刺してやるからな。


 ケッ、お前が殺せるようになればいいだけじゃねえか。

 意地悪な奴。


 何だとぉ!?


 などなど、様々な声がした。

 

 オズワルドはそんな兵たちの姿を眺めながら、酒を煽る。

 レティは酒に弱いのかちびちび口に含んでいた。


 オズワルドが教えた技は彼の故郷であるブラックフォージ領の人々に向けられる。


 逆にオズワルドがブラックフォージに何も手ほどきしていないとは考えられないから、彼の技はグレイフォードの人々にも向けられるのだろう。


 レティはたまにオズワルドが何を考えているのかよくわからなくなる。

 傭兵という敵と味方がめまぐるしく入れ替わる立場で、その心はどこにあるのか。


 オズワルドに情がないようには思えない。


 でも、もしかしたらすべてはたまの偶然が重なってうまくいっているだけで。


 何かの拍子に勘違いが解けたら、すべては崩壊してしまうのではないか。


 そんな恐怖をレティは感じていた。


 それはもはや、強さではどうすることもできないことだ。


 オズワルドが酒を飲み干して言う。


「お前らなぁ。一応、言っておくが常に相手を殺せると思わない方がいいぞ。殺せない相手と戦う時もいつかはやってくるんだからな」


 どういう状況ですかそれ。


 スケルトンとか?


 やめろよアンデットの話は!


 と、兵たちは笑う。


 冗談だと思ったのだ。

 

「ちゃんと、考えておけよ! そうなったらどうするかを!」


 ただ不殺のアレスだけは冗談とは受け取らなかった。


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