表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
とある傭兵の勘違い伝承譚~前世でゲームを作り続けて過労死した記憶を引き継いだおっさん、ゲーム世界にて神話になる~  作者: 間野ハルヒコ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

32/33

32.射手の世界


 訓練場で射手のソレルが条件を反芻する。


 配置は騎士の鎧に身を包んだミレイユ、射手のソレル、魔法使いのハミルトンの三人。


 対するは弓を携えたオズワルド一人。



 ミレイユたちの勝利条件はオズワルドを倒すこと。


 武器はすべて本物で殺す気でかかっていい。


 オズワルドの勝利条件はミレイユたちを降伏させること。


 ただし、武器は弓のみで一矢たりともミレイユたちに当てないこと。



 しかもオズワルドの矢筒にはたった3本しか矢が入っていない。


 何度考えてもオズワルドに勝てる道理がない。


「本当にやるんですか?」


「油断するな。おそらく何もさせてもらえないぞ」


 ソレルの不安にミレイユが短く答える。


 確かにオズワルド様の基本動作は熟練そのもの。

 だからって、いくらなんでも。


「おそらく、条件そのものが嘘なのでは?」


 魔法使いのハミルトンはそう判断した。


 矢をこちらに一切、当てずに勝つなど不可能だ。

 むしろ、矢の数が三本しかないことを考えると一人一殺していかないと間に合わない。


 つまり、殺す気でかかってくる以上は殺される覚悟くらいするんだぞ。


 ということか。


 だが、それではアレスに不殺の弓を教えるというオズワルドの言葉と矛盾する。


「オズの考えを読もうとしても仕方ない。彼は私たちごときでは理解できない高みにいるのだから、胸を借りると思って全力でぶつかるべきだろう」


 ミレイユの言葉にソレルとハミルトンは同意する。

 最悪の場合、オズワルド…というか雇い主のレティシアが大量にくれたハイポーションで回復すれば死ぬことはないはずだ。


 ん、まてよ。

 もしかしてこれを見越してハイポーションを…?


 まさかな。


「相談は終わったか? 来ないならこちらからいくぞ」


 三人はその宣言を聞いただけで、ビリビリと肌を刺すようなプレッシャーを感じた。


 ミレイユが剣を構えたのを待ってから、オズワルドが走り出す。


「な、なぜ弓装備で前に…」


 アレスが驚くのも無理はない。

 オズワルドが走り出したのは前方だ。


 射手は距離を取るものというセオリーをオズワルドは破ったのだ。


 さて、検証するか。



――――――――――


【チート・クラフト】:レベル23


・SLG『文明の箱庭』レベル19◀ ブブー

・RPG『マルクト戦記』レベル18

・LIFE『■■■■■の世界』レベル15

・???


――――――――――


 オズワルドがをSLG『文明の箱庭』選択するとブブーと音が鳴った。

 

――――――――――


【エラー】


ここは戦闘エリアです



――――――――――


 戦闘中にも関わらず、オズワルドはいつものように検証を始めた。

 予想通り、SLG『文明の箱庭』は戦闘エリアでは使えない。


 かといって、RPG『マルクト戦記』を3対1で使用すれば総攻撃を受けて何もできずに終わるか、最悪の場合初手でこちらが大規模攻撃魔法を使ってミレイユたちを殺すことになってしまう。


 前回のルシアン戦で嫌というほど思い知ったが、相手を殺してはならない状況だとかなり使い勝手が悪い。


 なら使わなければいいだけのことだ。

 

 オズワルドは走りながらウインドウを閉じ、弓を下段に構える。

 

 突貫してくるオズワルドにミレイユが立ち塞がる。


【聖なる一撃!】


 光属性の魔力を纏ったミレイユの攻撃をオズワルドはすり抜けた。


「何!?」


 ミレイユがスキルを発動した瞬間にオズワルドが加速し、間合いを外したのだ。


 猛然と接近を続けるオズワルドに対応するべく、射手のソレルが矢筒に手を伸ばす。


 オズワルドと違ってこちらにはスキルがある。


 武器熟練度に差があっても、スキル差があれば!


【クイックショット】


 ソレルの手が矢をつまもうとした瞬間、矢筒が暴れ出した。


「――ッ!?」


 ソレルが矢筒に手を伸ばし、矢をつがえるよりも早く。

 オズワルドが矢を放ち、矢筒を破壊したのだ。


 オズワルドはミレイユたちに矢を当てないとは言ったが、武器に当てないとは言っていない。


 矢筒に刺さったせいで、矢は引き抜けなくなっていた。

 これでは射手として何もできない。


「武器破壊か!」


 魔法使いのハミルトンが杖を隠して下がる。

 入れ替わるようにミレイユがオズワルドに迫るが、剣を振るうことは躊躇した。


 ソレルに接近を続けるオズワルドに一撃を入れようとすると、ソレルも巻き込んでしまうのだ。


「弓を失った時のことくらい考えておけ」


 オズワルドがそう言うと、ソレルの胸を蹴って跳躍する。

 ミレイユはどうにか一太刀浴びせようとするが、届かなかった。


 落下するまでの数秒間はお互い遠距離攻撃しか届かない。


 射手のソレルは攻撃手段を失い、魔法使いのハミルトンは武器破壊を恐れて杖を隠してしまっていた。


 この場で攻撃できるのはオズワルドだけである。


「そこだ」


 空中で身をひねりながら、オズワルドは矢を2本放った。


 1本はソレルの袖を地面に縫い付け、もう1本はハミルトンのローブを地面に縫い付ける。


 魔法すら使わせてもらえない。


 戦闘中に身動きがとれない仲間が二人。

 無傷のミレイユは判断に迷った。


 味方を守るべきか?

 じゃあ、どちらを?


 接近戦に持ち込んで時間を稼ぐ?


 オズワルドはミレイユたちに矢を当てないとは言ったが、武器は狙って来るし、殴る蹴るなどはやってくる。


 いや、こちらが近づく前に仲間に弓を撃たれる可能性も…。


 その迷いは致命的だった。


 ミレイユが気がついた頃にはオズワルドはいなくなっていた。


 オズワルド様は一体どこへ?

 まぁ、矢も撃ち尽くしたしな。

 どのみち矢を当てられないルールじゃ勝ち目はないし。


 ざわめく兵士たちはまだ気づいていなかったが、ミレイユは気づいていた。


 戦場で敵の射手を見失う。

 これは考え得る限り最悪の状況だ。


 

――――――――――


【チート・クラフト】:レベル23


・SLG『文明の箱庭』レベル19◀ ピッ

・RPG『マルクト戦記』レベル18

・LIFE『■■■■■の世界』レベル15

・???


――――――――――


 ブラックフォージ砦を守る高台で、オズワルドはSLG『文明の箱庭』の起動を確認する。

 どうやらここは戦闘エリア外として扱われるらしい。


 訓練場から完全に出ているし、そうなるんじゃないかなと思ってやってみたら本当にそうなった。


 ダメならもっと離れるつもりでいたが、この程度の距離でもいけるんだな。


――――――――――


【チート・クラフト】:レベル23


【ワールドチェンジ】


・SLG『文明の箱庭』レベル19


検索…


【鉄の矢作成】×100◀ピッ


――――――――――


 SLG『文明の箱庭』が戦闘エリアで使えないなら、戦闘エリア外まで離れてから使って戦闘エリア外から攻撃すればいい。


 いともたやすく現れた鉄の矢をつがえ、オズワルドは空に向かって弓を放ち始めた。



 その光景にアレスは圧倒されていた。

 どこからともなく降り注ぐ鉄の矢はどこから射られているのかわからない。


 ただ、一方的にソレルとハミルトンが地面に縫い付けられていく。


 少しでも動くと矢が刺さりそうなので、二人は動くことができない。

 動かないことを選ばされていた。


 あえて動けばルール上勝ったことにはなるのかもしれないが、演習で大怪我などしたくない。


 何より、わざと怪我をして勝利を宣言するなど、兵士としての誇りが許さなかった。


 ミレイユが二人を守ろうとすると、すぐさまミレイユの足元に鉄の矢が刺さる。


 警告だ。

 この矢ならば、騎士の鎧も貫通するだろう。


 どこにいるかもわからないオズワルドに剣が届くわけもなく、ミレイユたちは鉄の雨に身を晒すことを強要されていた。


 これだけめちゃくちゃな曲射をして、この精度。

 当たらないのではなく、当てていない。


 戦場を支配しているのはオズワルドただ一人だった。


 ミレイユは指揮官として敗北を感じていた。

 これほどの数の矢…事前に準備していたとしか思えない。


 この戦いは始まる前に決していたのだ。


「降参する! 我々の負けだ!」


 ミレイユが降伏を宣言し、演習は終わった。

 



現在毎日連載中です!


もしよろしければ、


・ブックマークに追加


・広告下にある「☆☆☆☆☆」から評価


をしたうえで、本作を読み進めていただけると励みになります!


どうぞよろしくお願いいたします!!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ