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とある傭兵の勘違い伝承譚~前世でゲームを作り続けて過労死した記憶を引き継いだおっさん、ゲーム世界にて神話になる~  作者: 間野ハルヒコ


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31.不殺のアレス


「オズワルド様! こんな感じでどうでしょうか!?」


「オズワルド様! こっちも見てください!」


 ブラックフォージ砦の訓練場で、オズワルドは兵士達の訓練を見ていた。

 

「ん、ああ。もう少しヒジを下げたらいいんじゃないか?」


「ありがとうございます! うわ、なんだ剣が軽くなって…」


 長いことスキルが使えなかったオズワルドはあらゆる武器の通常動作を極めるしかなかった。


 本来誰であれ習得したスキルを高めることに集中するので、様々な武器を扱えるオズワルドの存在は貴重だ。


 皆、ここぞとばかりに教えを乞うた。


 オズワルドが見本とばかりに矢を三本放つと、そのすべてが的の中心に命中する。


 周囲から感嘆の声がするが、動かない的に当てられないようでは戦場では役に立たない。


 そんなに驚くことでもないのにな。


「流石ですね。オズ」


 湿度の高い声に振り向くと、ミレイユが立っていた。


「まぁ、こんな細かいことしなくたってスキルでゴリ押ししてしまえば済むことではあるんだがな…」


 矢をまっすぐ飛ばす技術を培うより、射手のスキル【パワーショット】で力任せに飛ばせばどのみち矢はまっすぐ飛ぶ。


 どこまでいっても才能のある人間には敵わないんだよな。と、オズワルドは思う。


 それでも、自分が獲得した技術が人のためになるならこしたことはない。


 正直、実際のところ教えるというのは建前で、みんなが元気にやっているか見ておきたいというのが本音だった。


「ところで、あの端の方で訓練している子はどうしたんだ? どうも避けられているように見えるが」


「ああ、アレスですね。彼は最近入隊した兵士なのですが…その…兵士に向いてないんですよ」


 オズワルドは困惑した。

 アレスが放った矢はほぼすべて的の中心に命中している。


【マルチショット!】


 アレスが矢を4つつがえて放つと、4本の矢が的に命中する。

 流石に中心ではなかったが悪くない手際だった。


 スキルも使えるし、射手としての能力はあるはずだが。


 ミレイユが残念そうに告げる。


「アレスは生き物を射れないんです」


 そういうことか、とオズワルドは納得した。


 どんなに腕が良くても実践で命中させることができなければ意味は無い。

 

 なぜなら、敵を殺さずに見逃せばその敵は仲間を殺すからだ。


「以前、グレイフォード内陸にグリフォンが現れた際。射手として見張り台に立っていたアレスは何もできなかったんです。なんとかグリフォンは倒したものの、仲間が怪我を負ってしまった」


 どうしてだアレス! お前ほどの腕前がありながら、なぜグリフォンを射なかった!


 ヘタしたら仲間が死んでいたかもしれないんだぞ!


 アレスは震えながら答えた。


「どうしても、できなかったんです。グリフォンが…かわいそうで」


 兵士達は困惑した。


 現代ならば優しい心の持ち主として愛されることもあったかもしれないが、当時の倫理観においては敵を殺せないということは不道徳であった。

 

 仲間の命より敵の命を優先するというのか!


 お前が殺さなくても仲間が殺す!

 お前は兵士でありながらその手を汚すことを拒むというのか!


 やめてしまえ!


 仲間達の言うことはもっともだった。

 しかし、アレスは頭で理解できても生き物に矢を向けることができない。


 決心して射てみても、無意識に外してしまう。


 しかし、弓の才能は間違いなくあった。

 

 なら、どうにかして殺せるようになればすべては解決する。

 殺せるように、殺せるようにならなきゃ。


 しかし、優しいアレスは思い詰めれば思い詰めるほど生き物を狙えない。


 アレスはそんな自分を卑怯者だと思うようになった。


 いつか仲間を見殺しにする、卑怯者だ…と。


「ん? 殺せないなら殺さなければいいんじゃないか?」


 あっけらかんとしたオズワルドにミレイユが困惑する。


「オズ、兵士なのですから戦わないわけにはいきませんよ…。かわいそうですが、向いていないんです。アレスには折を見て暇を出す予定で…」


 確かに向いてはいないのだろう。

 だが、オズワルドは前例を知っていた。


 かつて共に魔王を倒した英雄の弓手リーヴェは不殺だった。


 あれは心の弱さからの不殺ではなく、矢が血で汚れると気持ち悪いからという潔癖症からの不殺だったが…不殺は不殺だ。


 アレスも頑張ればできるのではないか?


「え、英雄と一緒にしないでください! アレスはただの一兵卒なんですよ! そんなことできるわけが……!」


 オズワルドも若い頃はよくそう言われた。

 スキルを使えないお前なんかに、できるわけがないと。


 勝手に感情移入しただけなのでミレイユは悪くないが、オズワルドはちょっと傷ついた。


 それにミレイユたちは本質的なことに気づいていない。

 そもそも、お前たちだって状況次第じゃ……。


「うーん、じゃあ、やってみせるか。おーいみんなー! あと、アレスー!」


「え、やってみせるって本気で言ってる?」


 オズワルドは演習をしたいと言う。

 配置は騎士の鎧に身を包んだミレイユ、射手のソレル、魔法使いのハミルトンの三人。


 対するは弓を携えたオズワルド一人。


 ミレイユたちの勝利条件はオズワルドを倒すこと。

 武器はすべて本物で殺す気でかかっていい。


 オズワルドの勝利条件はミレイユたちを降伏させること。

 ただし、武器は弓のみで一矢たりともミレイユたちに当てないこと。


 しかもオズワルドの矢筒にはたった3本しか矢が入っていない。


「無理です。絶対無理ですよこんなの…」


 アレスはオズワルドが勇気づけようとしてくれていると察せるものの、流石にあまりにも不利。


 オズワルド様は射手系スキルを一切使えないし。

 そもそも、こんな条件では英雄だって勝てないのでは。


 しかし、反面アレスの胸は高鳴っていた。


 でも……。

 もしそんなことが可能なら、僕もやっていくことができるかもしれない。


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