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とある傭兵の勘違い伝承譚~前世でゲームを作り続けて過労死した記憶を引き継いだおっさん、ゲーム世界にて神話になる~  作者: 間野ハルヒコ


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25.ミレイユ・ローズマリーの勘違い


 ミレイユは一瞬忌々しそうな顔をして、名残惜しそうにオズワルドから離れた。


「そうですか、ではおかけください」


 促されるままに着座するオズワルドとレティ。


 ミレイユも正対するように着座する。


「ミレイユ。先の攻撃の件なのだが…」


「オズ。そんなことより、いくらで雇われているんだ?」


 オズワルドの言葉をミレイユが遮る。

 いらだっているのか、テーブルを指がコツコツと叩く。


 レティがオズワルドの雇い主だと言った途端これである。


 レティは鞄の中に手を突っ込まれたかのような不快感をおぼえた。


「金の問題ならその小娘の倍出そう。それですべては解決だ。そうだろう?」


 当然のことのように続けるミレイユにどう対応するべきか、レティは迷った。


 レティは簡単な食事と寝床を用意しているだけで、まだ金品を支払っていない。

 オズワルドがそれで十分だと言っているからだ。


 しかし、事実をそのまま伝えたらどうなるか。


「オズ、かわいそうに。無償で働かされていたなんて……。これからは私がしっかりと金を払ってやるからなっ。言い値でいいぞっ」


 などと言われてもおかしくはない。

 

 オズワルドとの契約も曖昧だ。


 メルたちの前ではグレイフォードまで護衛してもらえれば十分と伝えているものの、継続して護衛してもらえるならそれにこしたことはない。


 オズワルドもそれはわかっているはずだ。


 レティにとって最高の展開は何事もなく契約を延長すること。


 その為にはグレイフォードの砦を守るミレイユが邪魔だった。


 だが、街から出たばかりの駆け出し商人であるレティに何ができるだろう。

 立場も財力もオズワルドに関わった時間もミレイユの方が上である。


 雇い主という唯一のカードも、金で奪われそうになっていた。


 レティの心が焦れる。


 これが大人の世界……!

 私はここで渡り合っていかなきゃならないんだ。


「ミレイユ、悪いな。守秘義務があるのだ」


 レティはそんな契約を結んでいない。

 オズワルドの嘘である。


 だが、効果的な嘘だった。


「は? そんな小娘との約束なんて律儀に守る理由はないだろう?」


 ミレイユはあくまでレティを無視する。

 オズワルドに話しかけるばかりで、レティの頭越しに話を進めようとする。


「いや、それも言えないんだ」


 申し訳なさそうなオズワルドの言葉にミレイユが困惑する。

 少しの間、思考を巡らせ、続けた。

 

「本当にその小娘は雇い主なのか?」


「そうだ」


「ブラックフォージの手先か?」


「さぁな」


「あの積み荷には何がある?」


「それは言えない」


 畳みかけるようなミレイユの舌剣をオズワルドが弾いていく。

 取り付く島もないとはこのことだった。


 だが、オズワルドは防御するだけではない。

 返す刃も備えていた。


「ただ、暴こうとするなら…俺は敵に回らなければならなくなる」


 レティにはミレイユとオズワルドが剣戟を交わしているようにしか見えない。


「ミレイユ…お前ならばわかるだろう。俺たちは敵対したいわけじゃない。ただ積み荷を運んでいるだけなんだ」


 レティの馬車に積載された積み荷に特別なものは何もない。

 ないのだが。


「その積み荷が届かないとどうなる?」


「それも言えないが…。友人としてのよしみだ。困ったことになるとだけ言っておく」


 こう言われると何かあるようにしか思えなくなってくる。

 そんな大事な積み荷を運ぶ、この小娘は何者だ?


「その小娘…。いや、レティシア・ノーランが何らかの理由で消えた場合は?」


 無遠慮にも踏み込んだミレイユの首筋にオズワルドの剣が添えられる。


「そんなことは起こらない。起こらないんだよ。ミレイユ…。そんなことが、起こってはいけないんだ」


 レティに手を出すな。

 さもなくば、大変なことになるぞ。


 オズワルドの言外の言葉にミレイユは戦慄した。


 まず前提として。

 年若い女が敵地に向かうなど、正気の沙汰ではない。

 

 しかも、商人だと言う。


 わざわざ安全な土地を捨てて敵地で商売をする?

 意味不明だ。死にたいのか?


 よって、レティシアは商人ではない。


 そうミレイユは断定する。


 そうなるとオズワルドが伴侶として連れ回している可能性があり、つまりレティシアは泥棒猫ということになる。


 私というものがありながらこんな小娘に手を出すなんて…!

 結婚したのか! 私以外の女と!


 いや、私も別にオズワルドと何か深い関係があるわけではないし、オズワルドはいつもそっけないが、ミレイユはミレイユなりにアプローチしてきたつもりだ。


 次に会ったら渡そうと、裏庭でせっせと花を栽培してきたミレイユは身が焦げるような思いだった。


 だが、話してみるとどうも様子がおかしい。


 オズワルドは何かを隠している。


 いや、オズワルドが何かを隠しているのはいつものことだが、今回は特に様子がおかしかった。


 重要な積み荷、敵地への通過。

 そして年若い謎の女。


 オズワルドという過剰な戦力を護衛につける意味。


 そのすべてが指し示すのは……。


「なるほど。完全に理解した。オズ…君はこの戦争を止めるつもりなんだな」


「は……?」


 オズワルドは困惑した。


 いや、確かにブラックフォージとグレイフォードの戦争が止まったら嬉しいし、そうなったらいいなと思って生きてきたが、具体的な方法は思い付いていなかった。

 

 レティも困惑した。


 レティはグレイフォードで商売をしたいだけである。


 どうしてそうなった?



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