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とある傭兵の勘違い伝承譚~前世でゲームを作り続けて過労死した記憶を引き継いだおっさん、ゲーム世界にて神話になる~  作者: 間野ハルヒコ


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22/33

22.グレイフォード領へ


 レティがオズワルドの嘘に気づいた理由は、推理と言うのもおこがましい、ただの直感によるものだ。


 その始まりも「何か引っかかる」程度の主観でしかない。


 オズワルドとレティはすぐに旅支度を整え、ソルディア川を渡る準備をした。


――――――――――


【チート・クラフト】:レベル23


【ワールドチェンジ】


・SLG『文明の箱庭』レベル19


検索…


【木橋作成】

【石橋作成】◀ピッ

【鉄橋作成」

【大橋作成】

【アーチ橋作成】

【虹の橋作成】


――――――――――


 ブラックフォージ領とグレイフォード領をつなぐ橋はあっけなく作られ、傭兵達の歓声が上がる。


「隊長、必ず戻ってきてくださいね…?」


「いや、戻らない。暗殺後はグレイフォードに潜伏する。というか、ブラックフォージに戻ったら、お前たちごと狙われるからな」


 心配するメルたちの気持ちを振り払うように、オズワルドは告げた。


「あっ、あの…隊長」


「なんだ」


「隊長は…幸せになってくださいね」


 オズワルドにはその言葉の意味がわからない。


 わからないまま歩みを進めた。


 グレイフォードが攻撃してきても防御しやすいように、オズワルドが馬の手綱の根元を握り先導する。


 無防備なオズワルドの背を御者台からレティが眺めてる。


 どこか寂しそうな背中だった。


 強大な力を操り、人々に認められ、感謝されてなお。

 彼はどこか孤独に見えた。


 確かに指示は的確だ。


 グレイフォードを極力刺激しないよう、こちらからの攻撃は控えること。


 ただし、領主から攻撃を命じられた場合は逆らうとお前たちの立場が悪くなるから、従っておくこと。


 しかし、その正しさ。

 間違いのなさが、余計に何かを隠しているように見える。


 何故だろう。


 オズワルドは他者からの愛情や友情、感謝といった本来人間が受け取るべき情緒のすべてを、手にしようとしないのだ。


 ただ、与えはする。

 自らは惜しみなく与えるが、受け取ろうとしない。


 それは聖典に記された神の愛のようにも見えたが、レティから見ればオズワルドが心を開いていないだけだった。


 こうした直感からレティはオズワルドが嘘をついていると気づいたのだ。


 だが、レティはそれを暴こうとはしない。


 そんなことをしても意味はないからだ。

 なぜなら……。


 グレイフォードの砦から、幾人かの見張りがこちらを監視し始める。

 特に攻撃的な行動は見られない。


 むしろ、どこか喜色を帯びていてバタバタしているようにも見えた。


「あいつら…」


 そうオズワルドがぼやいた時点でレティは静かに悟った。


 馬車を先導するオズワルドが小声で告げる。


「これからグレイフォードに入るが…あいつらを敵だとは思うなよ。案外、気のいいやつらなんだ」


 オズワルドは既にグレイフォードと繋がっている。

 メル達を裏切っているのだ。



 これは余談だが。

 【チート・クラフト】使用の是非を問う決議の開始条件。


 クリアすべき【グランドクエスト】の一つ。

 「人類の好感度が合計100万ポイントを超える」は、悪戯の神・戯神ロキからの出題だった。


 これは本来、達成不可能なクエストだ。

 

 人類は一枚岩ではなく誰かの味方をすれば常に誰かの敵になる。


 ブラックフォージとグレイフォードがそうであるように、どちらかに加担すればどちらかからは嫌われるのだ。


 誰もの味方になろうとすれば、いずれは嘘をつき、誰もを裏切ることになる。


 その在り方は心を摩耗させ、最後には裏切りの咎を受けて失墜するだろう。


 少なくとも戯神ロキはそう考えてグランドクエストに組み込んだ。 


 そして…その偉業は達成された。

 


 

 故に彼はあくまで傭兵なのだ。

 だから、契約次第で敵にも味方にもなる。


 それは最初からオズワルド自身が言い続けている。


 彼は本当に、ただの傭兵なのだ。


「オズワルドさん。私は商人です」


 レティはオズワルドの後ろ暗さに加担するように、自らもオズワルドの居る暗がりに立つように続ける。


「商売相手は多ければ多い方がいい。それはいけないことでしょうか?」


 できるだけあっけらかんとした声を出すように努めた。


 オズワルドは笑った。

 こんな形で内心に触れられたのは久々だった。


「……傭兵と同じだな」


「そうですよ。似たもの同士、うまくやっていきましょう」


 僅かばかりの…。

 しかし、確かな感情の交換。


 その喜びを橋を渡るほんの短い間だけ、二人は噛みしめた。



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