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31 王国が滅んだ日3


『「天の遺産」の継承を完了しました』

『エシャルディータ・クリシェを【破壊】の使い手として認定しました』

『現在、第一術式のみ使用可能です。今後、遺産の習熟度に応じて新たな術式が解放されていきます』

『なお、第一術式は発動のたびに100ポイントを消費します』




「な、なんだ、この声は……?」

「声……?」


 シリルがキョトンとした顔をしている。


 もしかしたら、この脳内に響くような声は自分だけに聞こえるのだろうか?


「まあ、いい。疑問は後だ。この力があれば、奴に――」

 ディータは目の前の黒いモヤをにらみつける。


「【侵食】に対抗できる……いや、破壊できる!」


 がおんっ!


 さらに『力』を放つ。


 どうやら自分が『破壊したい』と考えた対象に、巨大なエネルギーの塊のようなものが飛び、対象を破壊する――そういったものらしい。


 おそらく魔力とは別種のエネルギー。


 不可視で即時発動可能の、無敵の攻撃だ。


「へ、陛下……!? その御力は――」


 シリルが驚きに目を見開いている。


「……私にも分からない。ただ、突然声が聞こえた」


 ディータは凛とした顔で眼下の【侵食】を見据える。


「【天の遺産】――か。まさしく天が我が王国の窮状を見かねて、私に与えてくれた力かもしれんな」


 ディータはふたたび右手を黒いモヤに向ける。


「この攻撃を一発撃つたびに『ポイント』とやらを消耗すると、あの声は言っていた」


 その『ポイント』が何を指すのかは分からない。


 ただ、最初に一発撃った後、軽い虚脱感に襲われた。


 もしかしたら精神エネルギーのようなものを消費するのだろうか?


 ディータには一応の魔法の素質があり、それほど高くはないものの魔力を持っている。


 とはいえ、魔法を使った時に感じる魔力の消費と、今の虚脱感はまったく別種のものだった。


「この力は魔力の消費を伴わない――魔法の類ではない」


 ならば、やはり精神力か、もしかしたら魂や生命力のようなものをすり減らすのだろうか。


「……いや、それでもいい。奴を退けられるなら」


 ディータは決意を固める。


「私は撃ち続ける。クリシェを守るために。民を守るために」


 がおんっ!

 がおんっ!

 がおんっ!


「命を懸けてお前を――」


【破壊】の連発。


 そのたびに黒いモヤの一部が吹き飛んでいく。


「このまま消し去ってやる――!」


 さらに【破壊】を放ち続けると、ふいに視界がぼやけた。


「くっ……」


 消耗が、体に影響を及ぼすほどに大きくなったのか……!?


 攻撃自体は無敵でも、使い続ければディータの方が持たないかもしれない。


 だが、それでも彼女は止まらない。


「お前を倒すためなら、私は!」




 ――がおんっっっっ!




 渾身の一撃が、今まで以上にモヤを弾き散らした。


 黒いモヤの中心部に大穴が空く。


「あれは――?」


 その向こう側に黒いモヤの『内部』が見えていた。


 巨大な都だ。


 クリシェの王都によく似ている。


 いや――王都そのものに見えた。


「無事だったのか……!?」


 ディータは身を乗り出すようにして目を凝らした。


 よかった――。


 安堵感がこみ上げてくるが、すぐにハッと顔をこわばらせた。


「……!?」


 様子が、変だ。


 王都からはいっさいの色彩が消え、白と黒の二色に彩られたモノクロームの街並みがたたずんでいた。


 道行く民はいずれも彫像のように制止している。


「なんだ、あれは……!?」


 ディータは戸惑いを隠せなかった。


「もし、あれがクリシェの王都なら――」


 まるで、死の都だった。


 生気を感じられない。


 王都は、民は無事なのか?


 それとも、あれはただの『抜け殻』のようなものなのか?


「ええい、考えていても仕方がない! とにかく――」


 と、両手を突き出した。


「今! 助ける!」


【破壊】の攻撃を連発する。


 黒いモヤの一部を吹き飛ばす。


 吹き飛ばす。

 吹き飛ばす。

 吹き飛ばす――。


 さらに【侵食】に空いた穴が広がっていく。


「やはり、王都か……?」


 そこには飲みこまれて消滅したはずの王都が存在しているようだ。


「もっと……奴を破壊すれば……」


 王都をまるごと【侵食】の外に出せるかもしれない。


 そう考えた次の瞬間、視界が大きく揺らいだ。


 思考が薄れ、目の前が急速にぼやけていく。


「ちいっ……もう意識が……」


 ディータがうめいた。


【破壊】の一撃を放とうとしても、上手く集中できなかった。


 ――甘かった。


 この力があれば、どんな相手だろうと勝てる。


 万物を破壊できる力に、敵などいない。


 そう考えていたが……あまりにも甘かった。


 持久戦に移行したとき、この力はあまりにも脆い。


 術者であるディータ自身が、この力の反動に耐えきれない。


 それが――【破壊】の弱点なのだ、と。


 ディータは今さらながらに痛感した。


 そして、悟ったときにはもう遅い。


 四方から触手状に変化した黒いモヤが襲ってくる――。


「ここまでか……」


 ディータが眉根を険しく寄せる。


 このまま【侵食】に飲みこまれ、消滅するのか。


 それとも、先ほど垣間見た景色のように彼女も……【侵食】の内部に取り込まれるのか?


「答えはもうすぐ分かる……か」


 小さく笑う。

 と、


「だめぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」


 シリルが絶叫した。


「陛下は、あたしが守る!」




 ――やがてディータの意識は薄れ、完全に消えて――。




「……タ」


 どこかで、呼ぶ声がする。


「だ……れ……だ……?」


 ディータの意識がわずかに覚醒する。


「エシャル……」

「ディー……タ」

「待って……いますよ……」


 誰だろう。


 知らないはずなのに、なぜか懐かしい感じがする。


 ディータの前に複数の人影が現れる。


 いずれも額や胸、手などに紋章のようなものが浮かんでいた。


「君たちは……?」


「待っています――」

「いずれ、この星の中心――『星の心臓』で……」

「そして、世界を……」

「絶対の、力を――」


 彼らが語り掛ける。


 その言葉を聞きながら、ディータの意識がゆっくりと覚醒していく――。




「ここは……?」


 しばらくの間、意識を失っていたらしい。


 ディータは気が付くと、森の中にいた。


 かたわらにはシリルがいる。


「はあ、はあ、はあ……」


 そのシリルは荒い息を吐き出し、近くの木にもたれかかっていた。


 顔色が真っ青で、汗もびっしょりのようだ。


「シリル……?」

「よかった、気が付いたんですね、陛下」


 シリルが顔を輝かせた。


「ここはどこだ? 私たちは一体――」

「……目覚めたんです、あたしも」

「何?」

「陛下と同じように――『力』が」


 シリルが告げた。


 その額に王冠を意匠化したような紋章が輝いている。


「陛下が【破壊】を身に付けたように、あたしには【転移】の力が――」

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