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賢者になったドワーフ娘(仮)  作者: いりよしながせ
王子様とドワーフ娘
97/128

97.(困話)エリーの救助活動

エリー達はブリオリにあるドワコ領が管理する港に到着した。


「それではサンドラさんを砦までお願いしますね」


「了解しました」


港で待機していた兵士に引き継ぎ、サンドラは魔動車に乗りドワコ領へ一足先に戻ってもらった。

そして、エリーは荷物の積み込みの様子を見ている。


大量の浮輪や小型船が次々に積み込まれていく。


「ただいまより任務に着任します」


「ご苦労様」


そう言って第3護衛隊の隊長であるケイトが言った。

現在この船は第4護衛隊が乗り込んで任務にあたっている。さらに第3護衛隊を加えドワコ領の護衛隊の半数を動員した。


「これで足りればいいけど・・・」


エリーは内心不安だ。この先起こる事はわかっているが、結果がどうなるかわからないからだ。出来る限りの最大限の準備はしたつもりだ。何とかこれでやるしかないと思った。



船は準備を済ませ、出港した。

そして幹部が艦橋に集められエリーが今回の作戦説明をする。


「それでは今回の作戦の説明をします。まず、この船はこの地点に向かいます。」


エリーが地図に書かれた×印を指した。


「ここで夜を待ちます。嵐が来ますので皆さん安全帯を使うなどして外で作業される方は特に、転落事故を起こさないように十分気を付けてください。この少し先でドワコさんの乗った船が沈みます。」


「「「えっ?」」」


皆が驚く。わかっているなら、なぜ先に合流しないのかと思った。


「おそらく、皆さんどうして先にこの船に乗せないのかと思っていますよね?ここが今回のポイントです。そうしないとこの先、面白い展開にならないからです。」


「「「えーーーー」」」


理由があまりにも突拍子の無い事だったので皆が声を上げた。


「でも、人的被害を出さないために、投げ出された人たちを全力で全員救助します。ドワコさんと王子様を除いてね。」


「運よく・・・ゲフンゲフン。運悪く2人は海流に流されて、私たちが捜索する範囲から外れてしまうんですよね。なので仕方ないですよ。」


「では、船はこのまま予定地点に向かってください。皆さんはそれまで十分に休憩して夜に備えてください。」


「「「了解」」」


エリーはそう言って一旦解散した。


「さて、私も準備しないとね。」


エリーはメロディを連れ医務室へ向かった。


「ドワコさんがもしもの為にと言って作った設備が道具が役に立つ日が来るとはね・・・」


エリーがまだ1度も使われたことが無い医務室の備品をチェックしている。


「こんな設備まであったんですね」


「メロディさんは説明しなくても使い方わかりますよね?」


「そんなに扱いの難しい物は置かれていませんので大丈夫だと思いますよ」


メロディは緑、黄、赤、黒の色が付いた紙をチェックしている。ケガの状況を一目でわかるようにして治療の優先順位を決めるトリアージと言う紙だ。基本的に治療は回復魔法で行うので、医療用の設備は必要ないが、応急処置が出来るようにはしておかないと、この船には回復魔法が使えるのは2人しかいないため、回復が後回しになる人が出るのは容易に想像できた。不備が無いか2人で確認作業を行った。


そして波が段々高くなり大きな試作船でも揺れを感じるようになってきた。

雨も降りだし夜になると大荒れになった。


「それでは皆さん2次災害に合わないように十分注意して任務に当たってください」


救命胴衣を着た兵士たちを前にエリーが挨拶をした。


「3,2,1、作戦開始です。皆さんよろしくお願いします。」


それぞれが浮輪の積まれた小型船に分乗し出発していった。

試作船の方ではランプの出力を上げた探照灯を海面に向け照射して要救助者の捜索を行った。またメルディスやカーレッタは「ファイア」の魔法を使用し照明の補助を行った。


次々に小型船が救助された人たちを乗せ戻って来た。試作船に乗っている兵士たちが救助された人を担ぎ格納庫に作った治療用のスペースに連れていった。元々格納されていた魔導ヘリはメロディのアイテムボックスに入れてあるので要救助者全員が入れる計算だ。救助者の移動が終わると小型船は捜索に戻っていった。


運び込まれた人たちに、医療担当の兵士たちが腕にトリアージを付けて治療の優先度をつけていく。それを見ながらエリーとメロディは回復魔法をかけて行った。メロディは主に重傷者の治療を行い、エリーは回復力が少ないので比較的軽傷だが優先度の高い者から治療を行っていった。そうしているうちに嵐が収まり波も穏やかになって来た。


救助活動は夜を徹して行われ、日が昇ると魔導ヘリも導入して空からの捜索も行った。

救助を始めた頃は次々に運び込まれる救助者の対応で大忙しだったが、ほぼ収容作業も終わり、治療も終わったエリーとメロディは一息つくことが出来た。


「あと1人ですね」


船員から聞いた人数を現在救助した人数と照らし合わせ、漏れがないか確認した。ドワコと王子は数に入れていないので、救助が必要な者の残りはメイド1人だ。


そして少し経ち、魔導ヘリから要救助者発見の報があり、小型船で現場に向かって収容した。


格納庫に運び込まれたメイドは重傷で普通の医者なら治療を諦める状態だった。


「これは酷いですね・・・」


メロディが思わず言ってしまう。すでに他の者の治療が終わっているためにトリアージは使用していない。もし付けるとするなら黒だ。いわゆる助からないので放置と言う判断になる。


だが、メロディは「ハイヒール」を唱え、簡単に治してしまった。


「これ凄いチート魔法ですね」


使用したメロディが引きつった笑みを浮かべ言った。

先ほど治療したメイドが目を覚まし言った。


「えっと・・・ここは?」


慌てた様子のメイドを落ち着かせるためにエリーは言った。


「安心してください。ここはドワコ領の所有する船の中です。あなたは重傷で運び込まれましたが、治療も終わっています。」


「ドワコ領の船ですか・・・それで王子様とドワコ様は?」


本人は陸上だと思っていたらしく、船の中だと聞いて周囲を見回した。


「残念ながら王子様とドワコさんは見つかっていません」


「・・・そうですか・・・」


不安そうに心配するメイド。


「ごめんなさい。私たちは、まだする事が残っているので行きますね。もし何かあったら控えている兵士に言ってくださいね。」


「ありがとうございます」


そう言って後を医療担当の兵士たちに任せてエリーとメロディは艦橋へ行った。


「皆さんお疲れ様でした。無事に予定していた者を全員救助。作戦終了ですので全員船に戻ってください。」


無線で捜索している兵士に向け連絡し、エリーは捜索に出ていた兵士たちを船に戻した。


「それじゃメロディさん、魔導ヘリの収納お願いします。」


「はい」


メロディは戻って来た置き場の無い魔導ヘリの収納を行うために後部甲板に向かった。

そして捜索に出ていた小型船と兵士たちを船に収容した。


「それでは救助した人たちを港に送り届けましょう」


エリーがそう言って船はブリオリを目指し航行を始めた。

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