96.(困話)エリーの航海
エリー達はブリオリにあるドワコ領の管轄する港へ着いた。
「それではメロディさんお願いします」
「はい」
エリーがメロディにお願いをする。
メロディはアイテムボックスから試作船を取り出し海に浮かべた。
「「「おーー」」」
兵士からどよめきが起こった。このような離れ業をドワコ以外の者が出来た事に皆が驚いた。
「どうしてシスターをこんな所に連れてくるのか不思議に思ったけど、アイテムボックス持ちだったとはね。驚いたわ。」
第4護衛隊の隊長であるカーレッタが言った。
「それじゃ荷物の積み込みお願いね」
「「「了解しました」」」
エリーは兵士たちに出港の準備をするように伝えた。
「遅くなりました」
息を切らせながらブリオリ国監視役のセシリアがやって来た。
「ご苦労様。それじゃ今回少し長めの航海になるけどよろしくね。」
「はい。こちらこそ。」
エリーが代表して挨拶をする。
「積み込み完了しました」
兵士の報告で全員、試作船に乗り込んだ。
そして乗り込みが完了し、船は出港した。
「それでは今回は2段階の作戦になります。前半は2つの目的で行動します。一つ目は難民船の救助。もう一つは要人の確保です。後半については前半が終わってから詳しく説明します。」
エリーが説明をはじめ黒板に張られた地図に×印を付け始めた。
「前半の作戦で救助予定の難民船がいる可能性のある場所です」
「「「え?」」」
皆が驚く。適当に印をつけた物だと思っていたが実はピンポイントの捜索位置だった。
「おそらくこの印の付けれれている場所に行けば、目視で確認できるはずです。」
皆は半信半疑なようだ。
「それでは一番近いここに船を向けてください」
エリーは地図を指さし操舵を担当している兵士に指示をした。
「イエス、マム。」
ノリでドワコが教えた返事が一部の兵士に受け入れられ、このような返事をする兵士が現れだした。ドワコの言いだした事なので誰も言い返せないまま今に至っている。
しばらく航行し、印の書かれた地点に差し掛かった。
「前方に船影発見、数2。」
見張りの兵士から連絡が入る。
「それじゃ魔導ヘリを飛ばして現場確認お願い」
「了解」
試作船より魔導ヘリが飛び立ち現場確認に行った。
「後ろに積んであるアレって変わった飛び方をするんですね」
以前ドワコ領を視察した際に魔導飛行機の離発着風景は見た事があるので今更航空機に驚くことは無いが、飛び方が変わっているのが気になったようでセシリアが珍しそうに眺めていた。
「ヘリコプターって・・・何でもありですね」
もう何があっても驚かない様子のメロディが言った。
「2隻は難民船だと思われます」
ヘリからの無線が入り、艦橋内にいた者は驚き顔でエリーを見た。
「フフン」
無い胸を張っているどや顔のエリーは誰が見ても可愛く見えた。
「それでは小船で難民船に向かい交渉に行ってきます」
エリーがそう言うと皆が止めた。
「外から見て難民船に見えても偽装している可能性もあります。危ないですので止めてください。交渉は我々が行きますので。」
小隊長が指揮を執り難民たちとの交渉をする事になった。
少し経ち、難民たちとの交渉を終えた兵士たちが戻ってきて、難民たちが、こちらの提示する条件を受け入れたと報告してきた。
「それじゃ回収作業急がせて。今日はまだ回る所がいっぱいあるよ。」
こうしてエリー達は難民の回収作業を数日掛けて行った。この回収作業で集められた難民たちは約2000人になった。
回収作業を行った翌日。
「それでは今日はオサーン公国に向かいます。ここで要人の確保を行います。これは大変重要な任務ですので失敗は出来ません。皆さんの活躍に期待します。」
「他国に行っても大丈夫なんですか?」
カーレッタが不安そうに言った。
「見つからなければ良いんです」
エリーが即答した。
どう考えてもこんな大きな船が見つからずに航行できるはずがないと皆が思ったが、エリーは予知能力を最大限に使用して神がかり的な回避で誰にも見つかる事も無くオサーン公国近海まで来る事が出来た。
「それでは私が確保してきますので、しばらくここで待っていてくださいね。」
「了解」
皆にそう告げるとエリーは後部甲板に向かった。普段は魔導ヘリの発着に使うのだが、ワイバーンを召喚できるだけの広さと強度が備えてある。そこでエリーは闇魔法の中級魔法であるワイバーンを召喚し、背中に乗った。(定員は1名なのだが、詰めればエリーの他に標準体型の女性までなら乗ることが出来る。)そして飛び立ちオサーン公国の城のある港町を目指した。
エリーは港町から少し外れた目立たない場所に降り、徒歩で港町を目指した。
そして迷うことなく目的の宿屋に到着した。
「すみません。ここに宿泊しているサンドラさんに面会したいんですけど。」
エリーは宿のフロントでそう告げた。見た目は普通の村娘なのでフロントにいた宿屋の主人は、友達なんだろうと思ったらしく疑う事もせず、部屋を教えてくれた。
コンコン
部屋に向かったエリーは教えてもらった部屋に行きドアをノックした。
「どなたですか?」
「ドワコさんの関係者なんですけど」
「まあ、ご主人様の?どうぞ」
ドワコの名前を出されたので疑う事もせず部屋に招き入れた。
「初めまして。お姫様。私はドワコさんの元でお手伝いをさせていただいていますエリーと言います。」
「はじめまして、私はサンドラと言います。ところでその姫様とは?」
少し焦りの表情を見せているサンドラと余裕の表情をしているエリー。とても対称的な顔をしている。
「ミダイヤ帝国の正当な王位継承権をお持ちの方に対して申していますので、お姫様で間違いないと思いますけど?」
「・・・どっ、どうしてそれを。」
ドワコが知らないはずの情報を出され、サンドラはミダイヤ帝国の刺客ではないかと身構えた。
「そんなに身構えなくてもいいですよ。サンドラさん。」
「あなた何者ですか?」
サンドラは完全に敵意をエリーに向ける。
「まあ、まあ落ち着いて。ドワコさんの関係者なのは間違いないですので安心してください。」
「はぁ・・・」
まったく構える様子の無いエリーを見てサンドラは意図を読めず曖昧な返事をした。
「あなたに、ここにいてもらっては困るのです・・・なので。」
「やはり刺客だったんですね」
サンドラは再び身構えた。
「話は最後まで聞きましょうね。サンドラさん。」
そう言ってエリーはこの後の事について説明した。
「まず、私たちが行っている事について話しますね。今、ドワコ領ではミダイヤ帝国から逃れて来た難民の救助活動を行っています。それは元々貴方の治めていた土地の人たちです。現時点で約2500人ほど保護しました。おそらく貴方の側近だった方も含まれていると思います。」
「な!」
突然の情報を出されサンドラは驚いた。そしてエリーの次の言葉を待った。
「ドワコさんはこの後トラブルに巻き込まれる予定なので、2カ月と数日ほど領地には戻る事は出来ません。その間にあと約5000人ほど保護しようと思っています。それで貴方にはその取りまとめをしてもらうために一足先にドワコ領へ行ってほしいのです。」
「そう言う理由でしたら断わることが出来ませんね。微力ながらお役に立たせていただきます。」
「あなたならそう言ってくれると思っていました。それでは荷物は・・・無いと思うので宿を引き払って行きましょう。」
「もうですか?ドワコ領までは10日くらいかかると聞きました。船に乗る準備とかしないといけないのでは?」
「その必要はありません。すでに準備してあります。」
「え?」
そのままサンドラを引き連れ宿のフロントへ行った。
「すみません。チェックアウトをお願いします。」
「えっ?まだ滞在予定の日数になっていませんけど?」
エリーがフロントで言うと担当していた宿の主人が聞き返した。
「大丈夫です。先に払ったお金は返金の必要がありませんので。」
「そうですか。わかりました。ご利用ありがとうございました。またのお越しをお待ちしております。」
宿を後にした2人は港町を出て人気のいない場所へ行った。
「どうしてこんな所へ?港は反対方向ですよ?」
「誰も船を使うなんて言ってませんよ?」
そう言ってエリーはワイバーンを召喚した。
「わっワイバーン?召喚できる人・・・いたんですね」
「ご存知なら説明の手間が省けますね。ちなみにドワコさんも使えますよ。」
「やはりご主人様は高名な魔導士様なんですね」
「魔導士様ではなく、立場的には聖女様になります。」
「聖女様と言うとマルティ王国では王族を除くと2番目に偉い方では?」
「1番目の席が長年不在のままなので、実質1番になると思いますよ。」
「そんなに偉い人だったんですか?領主様と聞いていたので驚きました。」
「いえ。それは間違ってないですよ。どちらかと言うと今は領主の仕事に力を入れてますので。それでは乗ってください。」
エリーが先にワイバーンに乗り、その後ろにサンドラが乗った。
「それじゃぁ行きますよぉ」
ワイバーンが飛び立ち試作船に向かった。
「街が小さく見えます。うわぁお城が・・・」
エリーの後ろではサンドラが初めて空の上から見る地上の風景を見て感動しているようだ。
島から離れ、少し飛ぶと大きな船が見えて来た。
「大きな船ですねぇ」
「あれがドワコ領の船になります」
エリー達を乗せたワイバーンは後部甲板へ降り立った。
「すごいですね。金属でできた船なんて初めて見ました。」
「これドワコさんが作ったんですよ。すごいでしょ。あと貴方の身分については私以外の人は現段階では知りませんので、ドワコさんに雇われたと言う事にしておきますね。」
「はい。お世話になります。」
2人は艦橋に行き、エリーが皆にサンドラを紹介した。
「と言う訳で今日からドワコ領で働く事になったサンドラさんです」
「サンドラです。よろしくお願いします。」
「それでは任務完了なので一旦、ブリオリに戻りましょう。」
こうしてサンドラを回収してエリー達はブリオリを目指した。




