94.帰還
船はその後、順調に航行し、翌日の朝、ブリオリのドワコ領が管轄する港に戻って来た。
「やっとで戻って来た」
ドワコは安心した表情で船から降りた。
港にはデマリーゼが迎えに来ていた。
「ドワコ様。お帰りなさいませ。ご無事なようで安心しましたわ。」
「ただいま。デマリーゼ。私がいない間、何か変わった事は無かった?」
デマリーゼが少し暗い顔になり言った。
「少々問題事が起きまして・・・詳細はまた後程させていただきます」
「わかった」
デマリーゼとのやり取りをしている間にエリーやリオベルク、ドワミ達も船から降りて来た。
「それで、ここがドワコ領が使わせてもらっている港だと言う訳だな。」
「そうなりますね」
リオベルクの言った事に対しドワコが答える。
「この船を見て思わなかった訳では無いが、バカみたいに広い港だな。」
「船が2隻しか泊められませんよ?」
「その船がすでに常識外れな大きさだと言っているのだが、確かにもう1隻は置けそうだな。」
兵士たちは今、荷物の積み下ろしをしている。
「ドワコさん。船はどうしますか?持って帰ります?」
「そうだな。ここに置いておいても良いけど、人を配置しないといけなくなるしなぁ。持って帰ろう。」
「はーい。それじゃその方向で撤収準備始めますね。」
エリーが確認をしてから船に戻り兵士たちに指示を出していく。
「ドワコ様、先にリオベルク様を砦までお送りしてきますわ。」
「はい。よろしく。それではリオベルク様また後程。」
ドワコは皆の前なので、呼び方に様を付け言った。それを聞いたリオベルクは少し寂しそうな顔をしたが、気を取り直した。
「それではリオベルク様は先にドワコ領の砦までご案内いたしますわ。どうぞこちらへ。」
デマリーゼがリオベルクを用意してあった魔動車まで案内する。
「これは馬車なのか?馬がいないようだが。」
「これはドワコ様とドワミさんが開発した魔動車と言う乗り物ですわ。どうぞお乗りください。」
兵士が運転する乗用に特化した魔動車に、リオベルクとデマリーゼが乗り込み先に砦に向けて出発した。
船から物資の積み下ろしが終わり、ドワコは試作船をアイテムボックスに収納した。
「それじゃ私たちも砦に戻りましょう」
ドワコ、エリー、ドワミ、カーレッタと第4護衛隊の兵士たちはそれぞれ魔導装甲輸送車に分乗しドワコ領を目指し出発した。道路も整備されているので数時間で国境を越えドワコ領の砦まで戻って来た。
「「「お帰りなさいませドワコ様」」」
砦にいるほとんどの者が仕事を中断して出迎えに来ていた。ドワコはとても嬉しい気分になっていた。
「帰る家があるっていいね」
「そうですね」
ドワコの何気ない一言にエリーは答えた。
そして出迎えに来ていた人たちの中にドワコが奴隷商人から買い取ったサンドラの姿があったのを見つけた。
「いなくなったと聞いたけど・・・サンドラ、どうしてここに?」
「ドワコ様がオサーン公国を出発する一足先にエリー様がここに連れてきてくださいました。」
「あのままにしておくと色々と不都合・・・ゲフンゲフン・・・ドワコさんが困らないように先に教育をしておこうと思って一足先に領地に連れてきました」
宿を引き払う時に一緒にいた少女はエリーだったようだ。と言う事は?
「もしかしてエリーはオサーン公国に来ていたと?」
「まあそういう事になるかもしれませんね」
エリーは言葉を濁すように言った。
そして皆は砦に入り、早速ドワコは領地の幹部を集め不在中の報告を受ける事にした。
各方面の報告を受け、特に領地内では問題も無かったようだ。ただ、一つだけあるとすれば、人口がドワコが出発した時よりも増え、もう少しで1万人に届く所まで来ていた。
「どうしてこんなに人口が増えている?」
「それはエリー様が・・・」
文官が報告をする。エリーはあの後、何度も試作船を使い難民船を捜索して、乗っていた人たちを片っ端からドワコ領へ連れて来たそうだ。多い時は1日で数百人単位で人口が増える日もあったそうだ。
おかげで集合住宅はドワコが出発する時点では1棟だったが、今では20棟建っているそうだ。約3カ月で19棟も建てた計算になる。相当大変だっただろうとドワコは思った。人口が増えた為に工場などの人員も確保でき、計画通りの生産量が確保出来るようになっているようだ。そして、領地の収入も物凄い金額になっていた。
「デマリーゼに任せて正解だったな。ここまでうまくやってくれるとは思わなかったよ。」
資料に目を通したドワコが言った。
「わたくしが行ったのは書類の処理をしただけで、実際指示を出していたのは・・・エリー様です。」
伏し目がちにデマリーゼが言った。しかもいつの間にかエリーの事を様付けで呼んでるし、何があった?
「私はドワコさんの為にやっただけですよぉ」
ニコニコした様子でエリーが言った。
「そう言えばデマリーゼ。何か困ったことが起こったと言ってたな?」
ドワコが港を出る時にデマリーゼが言っていた言葉を思い出し聞いた。
「はい。困った事と言うのは、ミダイヤ帝国の動向についてです。お聞きになられますか?」
「はい」
ミダイヤ帝国の動向についてと言われドワコは嫌な予感がした。リオベルクもミダイヤ帝国の事をかなり気にしていた様子だったのもあるかも知れない。
「ミダイヤ帝国の内戦は終結し、勝ち残った派閥による統治が始まりました。そして急激に国力を取り戻しているようです。また、軍備も増強され、かなりの規模になっているそうです。おそらくどこかに向かって進軍するのではないかと思われます。さすがにどこを目標にしているかまでは情報を掴めていませんが、マルティ王国、諸国連合も動向を注視しています。」
「ありがとう。ミダイヤ帝国は私たちの領地で採用しているように、兵士たちは銃を装備していると聞きました。おそらくどこかに進軍すれば対抗手段を持たない国の被害は甚大になるかも知れません。引き続き監視の方をお願いします。」
「かしこまりました」
こうして会合が終わり集められた幹部たちはそれぞれの仕事に戻った。
ドワコはリオベルクの部屋に行った。
「リオベルク。お待たせ。会議が少し長引いて遅くなったよ。」
「いや、待ってはいないのだが・・・それにしてもこの領地はどうなっているんだ?」
「頑張っているでしょ。人口ももうすぐで1万人超えそうだよ。」
「その数字おかしくないか?確か前に報告を受けた時は1000人位だったはずだが?」
「ほとんどがミダイヤ帝国の難民なんだけどね」
「どう考えても土地的に見てもミダイヤ帝国とは接点がないと思うのだが・・・まあ良い。ドワコの領地が見てみたいのだが案内してくれないか?」
「まあそれは構いませんけど・・・」
この後ドワコはリオベルクを案内する事になった。今回は警備上の理由もあり魔動車での移動となった。
一通り車窓から村内を見てもらったが、リオベルクの常識から外れた街並みはどれも驚かされたようだ。農業地区、商業地区、工業地区、住宅地区と回っていった。最後に護衛隊の基地へ向かった。
「ここが領地の護衛隊の基地になります」
「砦の中には無いのだな」
「はい。砦の中では広さなどの制約があるので外に作りました。」
基地の周りには有刺鉄線が張られているだけだが、これには電気を流すことが出来る。有事の際にはこれの電源を入れ基地を守る装備となるのだが説明は省略した。
陸上兵器を格納している格納庫に行き、魔動投石車や魔動装甲輸送車を見てもらった。魔動戦車や魔動自走砲もあるのだが、これは隣の格納庫に格納されている。今回は時間の都合で見学は省略した。
「この魔導投石車に付いている投石機は、あの大きな船に付いている投石機と同じ物なのか?」
「投石の仕組みはほぼ同じですね。大きさは艦載用が大きいですけど。」
リオベルクの質問にドワコが答えた。
そして航空兵器が格納されている格納庫へ向かった。
格納庫には魔動戦闘爆撃機がずらりと並んでいた。ドワコが出発する前は1機の試作機しかなかったのだが、いない間に量産され配備されたようだ。
「これは何だ?」
見た事がない形の兵器についてドワコに説明を求めた。
「これは魔動戦闘爆撃機と言って空からの攻撃を可能とした兵器です」
「こんな大きなものが空を飛ぶのか?」
「はい。で、あちらに見えるのが偵察用の魔動飛行機になります。」
ドワコは奥の方に置かれた数機の複葉機を指さし説明した。
「空から敵の動きを観察して、無線機と言う機械を使って本隊に状況を知らせることが出来ます。」
実際は他の兵器にも無線機は搭載されているのだが、偵察機に積んである物は他の無線機より強力な出力があり、かなり離れた場所からでも通信が出来るようになっている。
「空からの攻撃や偵察か。そんな考え自体浮かばなかったな。」
リオベルクが感心したように航空機を見て回った。
一通り見学した後、砦に戻った。すでに馬車の支度が出来ているようだ。
「ドワコ。色々とありがとうな。あの時、伝えたい事があったが次の機会にするよ。それじゃまたな。」
「リオベルク様も道中お気をつけて」
ドワコ達砦の者が見送る中、用意した馬車に乗ってリオベルクは第2護衛隊に護られ城に戻っていった。




