92.島の探索
翌日、ドワコとリオベルクは島の探索を行う事にした。
昨日、空から島の全体を見ているのでおおよその形はわかった。大きさとしては500mくらいの小さな島だ。砂浜の海岸におおわれ、他は林のようになっている。
「上から見た感じでは大きな島では無かったから探索はすぐ終わるかもね」
とりあえず他に海岸に打ち上げられている人がいないか見て回った。1周1.5km程度なのでそんなに時間はかからなかった。
「誰もいませんでしたね」
「そうだな」
2人は海岸に打ち上げられている者、またはその形跡は見つける事が出来なかった。
次は林の探索に行く事にした。
「当面の食糧はあるから良いとしても、それ以上の期間になった場合に備えて食料が確保できればいいのだが・・・。」
そう言って林に入ったが、虫や小鳥はいたが、小動物などは見つける事が出来なかった。食べられそうな植物も探したが、食用になりそうな物を見つける事が出来なかった。
「あとは海から調達するしか無さそうだ」
リオベルクはがっかりした様子でドワコに言った。
「まあそんなに悲観しなくても大丈夫ですよ・・・たぶん」
ドワコが苦し紛れに言った。コンテナハウスが置かれている場所に戻り、ドワコは納品用に使っていたコンテナを1個アイテムボックスから出した。そして工房権利書を使用し工房を作った。
「とりあえず必要な物はちゃちゃっと作っちゃいましょう」
そう言ってドワコは林から木を数本持って来て木材に変換した。
「ドワーフの工房ってこんな簡単に物が変換できるのか」
リオベルクがその様子を見て言った。
「いや、他のドワーフはきちんと工程を踏んで作業をしているよ。私だけちょっと特殊なだけ。」
領地にいるドワーフ達の工房は1から作業をして製作を行っている。ドワコが実際に見ているので間違いない。そうするとドワコのやり方の方が稀なケースになる。
ドワコはさらに3人部屋に置かれていた納品用の剣を1本製作用の箱に入れ鉄に変換し、さらにそれを材料にノコギリ、ハンマーなどの工具類、釘などを製作した。
それらを使いドワコはコンテナハウスの横にお風呂を作った。この島には2人しかいないようなので囲いは作っていない。完全に露天風呂状態だ。魔法で手早くお湯を張り、お風呂の準備をした。
「お風呂作ったけどリオベルク先に入る?」
「すごいな。こんな短時間でお風呂を作ったのか?海水を浴びたままだったから助かる。それじゃ先に頂こう。」
とりあえず、タオルなどはコンテナハウスに常備してあったのだが、着替えが無い。まあ二人だけなので乾くまで着なくても大丈夫かな。
魔法で乾かす事も出来るが、生地が痛むのでいつまでここにいるかわからない状態なので服にダメージが入らないようにしたい。ちなみにドワコはアイテムボックスに替えの服を持っている。ただ、今着ている服と冒険者用の服の2着しかないのであまり状況は変わらないかもしれない。
とりあえずリオベルクの着ていた服を回収して、ついでにドワコも自分の服を脱ぎ洗う事にした。
「おい、服をどうするつもりだ?というかなぜドワコは服を着ていない?」
湯船に浸かっているリオベルクがドワコを見て言った。
「服を洗おうと思ってね。ついでだから自分のも洗う事にしただけだけど?」
そう言ってドワコはコンテナハウスに置いてあったタライに魔法で水を張り、洗い出した。
「よしっ、こんなものかな。」
ドワコは洗った服を吊るして干した。
「さすがに服を着ない状態だったから体が冷えちゃった。えいっ。」
ドワコはリオベルクの入っている湯船に飛び込んだ。魔法でお湯を出しているので湯量による大きさの制限を受けないので2人入っても十分な広さがある。
「ふーあったまる」
「なあドワコ?」
「なに?」
「私の事は男と思っていないだろう?」
「いや?そんなことは無いよ?」
元々おっさんだったドワコにとっては男性と一緒に入るよりも女性と一緒に入る方が緊張する。
ドワコにとっては同姓と入浴している気分なのである。
2人でポカンと夜空を見上げお湯につかっている。
「なんか色々ありすぎて疲れたね」
ドワコが言った。
「そうだな。これからどうなるのか不安でしょうがない。無事に国に戻れるのだろうか?」
「いつになるかわからないけど、きっと戻れるよ。」
2人共さっぱりしたのでコンテナハウスに戻り食事を取る事にした。
食料の入った箱から夕食を取り出しテーブルに並べ、残りをアイテムボックスに収納した。
「この格好で向き合うのはちょっと恥ずかしいけど、とりあえず食べよう。」
リオベルクが恥ずかしそうに言った。
そして、服がまだ乾いていないので、お互い裸の状態でタオルを巻いただけと言う格好で夕食を食べた。
「替えの服も作らないといけないね」
「そうだな」
2人の意見は一致した。そしてお互いの部屋に入り寝る事にした。
翌日ドワコは服を作るために森に入り材料集めをした。
クリエイトブックには木を材料とした布のレシピが乗っている。
とりあえず木を集め、布に変えていく。あとはコンテナハウスに置いてあった簡易的な裁縫道具を使い、裁断し、チクチクと縫い合わせ服を完成させた。
「相変わらず器用なことをするな」
リオベルクが感心してドワコの作業を見ていた。食料を調達する事も現段階ではできないので、ドワコの作業を見るくらいしかすることが無いのだ。時々、ドワコがリオベルクの寸法を測りながら作業を進め。
リオベルク用の服を2着完成させた。そしてドワコ用も同様に2着作った。
「ごめんね。今回はスピード重視で作ったから本当に着るだけのもので装飾とか無いけど・・・。」
「この島には2人しかいないから気にしないさ。ありがとな。」
これで当面は着る物については大丈夫だろう。船に乗っていた時に来ていた服は帰る時の為に2人は大事に保管しておく事にした。
こうしてのんびりとした時間が1カ月過ぎた。
今日は2人は海で遊んでいる。服が濡れるといけないので2人共裸だ。流石に1カ月もたつとお互い裸でも何とも思わなくなってしまっている。
「ドワコーそれそれ~」
リオベルクがドワコに海水をかける。
「つめたい。お返しどりゃー」
大量の海水がリオベルクにかけられた。
「ぶごぉ・・・少し飲んだじゃないか」
「あはははは」
「ドワコ捕まえた」
隙を見てリオベルクはドワコに抱き付いた。お互い裸なので温もりが伝わってくる。結局することが無いので2人共遊ぶことしかすることが無いのだ。林に行って遊び、今日みたいに海で遊んだり。2人は子供のように遊びまわった。
それからさらに1カ月後・・・。
「さすがに毎日同じ事していても飽きて来たね・・・」
「そうだな」
この島に来てから2カ月が経過した。ドワコが持ってきた食料も残りが僅かになって来た。
「食料もあと数日分・・・と言った所かな」
「助けが来る気配が無いし・・・せめて海で何か取れればよかったのだがな・・・」
食料の調達を海で行えないかと考え、潜ったり、釣りをしたり、貝を探したりしたが、全く見つからなかった。自然豊かなはずなので何かあるだろうと思っていたが、こうも何もないと笑うしかない。
そして数日が過ぎ、ドワコの持っている食料が底をついた。
「今日が最後の食事だね・・・」
「そうだな・・・」
共用スペースでテーブルを挟み向かい合う2人の顔は暗くなっている。この先は飢えとの戦いになるのを覚悟しなければならない。
「ドワコ・・・この際だから伝えておきたい」
急にリオベルクがまじめな顔になって言った。
「なに?」
「今日まで色々とありがとうな。ドワコがいなかったらすでにこの世からいなくなっていたと思う。そして、この島に来てから2カ月。ドワコと生活をして色々なことが分かった。もしこのまま無事に戻れたら・・・。」
そこで2人は見つめ合う格好でドワコは次の言葉を待った。
リオベルクがドワコを抱きしめて次の言葉を言おうとした時に突然、コンテナハウスの入り口のドアが「バン」と勢いよく開けられた。
「えっ?えっ?」
ドワコが突然の出来事で驚く・・・。
良い感じになった2人は外部から誰かが入ってきた事で、強制的に中断させられてしまった。




