91.遭難
翌日、ドワコはリオベルクの腕の中で目を覚ました。
「もう朝か・・・」
隣にはリオベルクがスヤスヤと寝息を立てて寝ている。幸せそうに寝ているのを見るとついつい悪戯をしたくなってきた。リオベルクの息子さんはお元気なようだ。
「まあ朝だからなぁ・・・気持ちはわかる」
ドワコは転生前の記憶をたどりながら昔の事を思い出していた。
「お兄ちゃん。朝だよー。いつまで寝てるの?」
「もう少し寝かせて・・・」
ガバッと誠が寝ていた布団をはぎ取られた。
「キャー。朝からなに元気になってるの?」
年の離れた従妹に大事な所を思いっきり踏まれ、何とも言えない叫び声を出した。
「うぎゃぁあああ」
「お兄ちゃん大げさだよぅ」
「イヤイヤ。マジ痛いから。」
以前、親戚の家に泊まりに行った時にあった年の離れた従妹との出来事だ。
あれから何年も会っていないが元気にしてるだろうか。
その従妹にはとても懐かれていて、何度か家に行った時はいつも一緒にいた気がする。
と回想をしている間に悪戯をするのを忘れていた。
ドワコは起き上がり、リオベルクに掛けられていた毛布をバッと剥ぎ取った。
「朝だよ~」
「うわぁ」
びっくりしてリオベルクが飛び起きた。だが、ドワコの視線に気がつき自分の息子を確認した。
「お元気なようで何よりです」
ドワコが悪戯っぽく言った。
リオベルクはそれを慌てて手で隠そうとした。
「朝から何て事してくれるんだ」
リオベルクは少し怒っていた。
「ごめんごめん。ちょっとした出来心で。」
ドワコが謝る。
朝食を済ませ、身支度を整えて宿を後にする。
そして馬車に乗り港まで移動した。
「あーまたこの船乗らないといけないと思うと気が重い・・・」
ドワコは乗る前から疲れた表情を見せる。
「まあそう言うなよ。6日ほど我慢してくれ。」
「はーい」
荷物の積み込みも終わり、ドワコ達マルティ王国ご一行は船に乗り込んだ。「カンカンカンカン」と鐘が鳴り港を出港した。
「「「えいっほーえいっほー」」」
船の下からは低い声が聞こえ、屈強な男たちが船を漕いでいる。
「これが意外と気になるんだよなぁ・・・」
ドワコは海を眺めながら下から聞こえてくる男たちの掛け声を聞いていた。
そして陸地が小さくなりドワコ土地を乗せた船は外洋へ出ていった。
そして滞在中ずっと着用していたかつらを外しアイテムボックスへ収納した。
「やっぱり自然が一番だね」
海風が髪を撫で心地よい気分だ。
「ドワコ様。お茶でもいかがですか?」
メイドがお茶を勧めて来た。このメイドは行きの船で一緒に船酔いになったメイドだ。
「ありがとう。船酔いの方は大丈夫?」
「お気遣いありがとうございます。今のところは波も穏やかですので大丈夫ですよ。」
「そっか。また気分が悪くなったら遠慮なく言ってね。」
「はい。ありがとうございます。」
メイドに入れてもらったお茶を飲みながらドワコは海を眺めている。そんな感じでのんびり2日が過ぎたが、事態は急変する。
「まずいな嵐が来そうだ」
リオベルクが遠くの空を見ながら言った。
船長も心配そうに雨雲の動きを見ている。徐々に波が高くなり、風も出てきて雨も降りだした。
「ドワコ、風邪を引くといけないから中に入っておこう。」
リオベルクがそう言って、2人は客室へ入った。船はかなり揺れて立っているのも厳しくなってきた。そして日が落ち夜になった。
「うっ・・・気持ち悪い」
「もうダメかも」
ドワコと船酔い仲間のメイドは顔を青くして吐き気に耐えていた。回復魔法で回復させても少しの間は良いのだが、すぐに気分が悪くなると言う悪循環になっている。何度目かの回復魔法を唱え終わり魔法書を収納した所でそれは起こった。
ミシミシミシと船から変な音が聞こえ、波の力で船が真っ二つに割れてしまいドワコを含む大勢が海に投げ出されてしまった。船に乗っていたと思われる人の声が至る所で聞こえるが、暗闇の中で居場所を確認する事も出来ない。突然の出来事で誰も動くことが出来ず、船はバラバラになり沈んだようだ。ドワコは、たまたま近くに浮いていた船の部品だと思われる木片につかまり真っ暗な海をさまよう事になった。
夜が明け、視界が開けてきた所で、ドワコは周りを確認したが一緒に船に乗っていた者は見当たらず、船の残骸はドワコがつかまっている木片以外は確認できなかった。
「みんな無事なんだろうか・・・」
一人取り残された気分になったドワコは皆の心配をしたが、まずは自分が助かる事を考えないといけないようだ。ちょうど少し離れた所に小さい島が見える。陸上に上がれば何とかなると考え、その島を目指し泳ぐ事にした。
海流に流され思うように進めなかったが、何とか島に辿り着くことが出来た。とりあえずお腹がすいたので、アイテムボックスから出発前日に買った食べ物を出してお腹を満たした。
ドワコはワイバーンを召喚し、背中に乗って上空に上がってみた。
「見渡す限り海だね・・・闇雲に進んでも何処に行くかわからないしなぁ・・・」
まったくと言って良いほど付近の地図が頭に入っていないので、どこをどう進んだら戻れるかなどもさっぱりわからない。そして、ドワコの泳ぎ着いた島の海岸に打ち上げられている人がいるのを見つけ、ドワコはそこを目指し降りていった。
「あっ。リオベルク。」
打ち上げられていたのはリオベルクだった。気を失っているようだ。とりあえず状態を確認する。
「脈は・・・ある・・・呼吸は?」
呼吸が不十分なようだ。酸素が・・・この世界にはあるのかわからないが、十分に取り込めていないように見える。こういう時の対処法はアレしかないよね・・・。
リオベルクの気道を確保して、鼻をつまみ、ドワコは口移しで息を吹きかけた。何度かやると水を吐き呼吸が安定したようだ。
「とりあえず、これで良し。」
念のため「ヒール」をかけて回復させた。とりあえずそのまま寝かせておくのもかわいそうなので、ドワコの膝の上にリオベルクの頭を乗せて寝かせ、しばらく様子を見る事にした。
水平線の向こうに夕日が見えた頃になりリオベルクは目を覚ました。
「ここは?」
「わからない。どこかの小さな島みたいだけど・・・」
「船に乗っていた人たちは?」
「わからない」
ドワコはリオベルクの問いかけにわからないとしか答えられなかった。
「とりあえず今晩の寝床を何とかしないとね」
「そうだな。水も食料も無いし、だがもう暗いから今日は何もできないな。」
「とりあえず準備するよ」
そう言ってドワコはコンテナハウスをアイテムボックスから取り出した。
最近は倉庫と化していたのでコンテナハウスの中は納品用の武器や防具その他諸々でいっぱいになっている。ランプに火をつけ、2人は部屋の片づけを始めた。と言っても、3人部屋に不要な物を放り込んだだけなのだが・・・。何とか共用スペースと2つの個室を使えるようにした。
「何とか片付いたね」
「ドワコがいて助かったよ」
「それじゃご飯にしようか」
「えっ?あるの?」
リオベルクは今日は食料が無いと思っていて諦めていた所、ドワコが持っていると聞いて喜んだ。
「えっとこの木箱に・・・」
エリーに持たされた食料の入った木箱をアイテムボックスから取り出した。それを見たリオベルクが驚いたように言った。
「これは沢山の水と食料だな。2人なら2カ月分はありそうな量だな。おや?蓋に何か書いてある。知らない文字だな。」
リオベルクに言われドワコが蓋の裏に書かれた文字を見た。
(2人で仲良くやってくださいね。そのうち迎えに行きます。)
丁寧にリオベルクには読めないように日本語で書かれていた。おそらく日本語がわかるメロディに書かせたのだろう。と言う事はここに居ろと言う事ですか・・・。
文章は1行だが、それだけでエリーはすべてお見通しなんだと言う事がわかり、ある意味安心した。おそらく本当に頃合いを見て迎えに来るのだろう。この島からは出ないほうが良さそうだ。
食料が痛むといけないので必要な物だけを取り出し、残りは箱ごとアイテムボックスに収納した。
「それじゃいただきます」
「いただきます」
2人は共用スペースでテーブルを挟み食事を取った。
「ドワコ、これからどうする?」
「助けが来るまで待つ感じかな。とりあえず明日はこの島の捜索かな。他にも流されてきている人もいるかもしれないし。」
「そうだな」
今日は疲れていたので2人共それぞれの部屋ですぐに寝る事にした。




