90.お別れ会
翌日、公務も無事に終わり今日は自由行動である。明日にはマルティ王国へ向け出発する事になる。
昨日は色々な事があり、城中大変な事になっていたが、何とか丸く収まり解決した。今頃イザベルはいつもの生活に戻っているだろう。姉のイザベラもドワコに礼を言っていた。
「それでドワコは今日どうするのだ?」
「んーと未定。リオベルクは?」
「そうだな・・・公務で疲れたから一日ゆっくり過ごすよ」
「前にも同じセリフ聞いた記憶があるけど・・・まあいいや。お互い別行動だね。」
ドワコの予定は未定だったが、一日宿で過ごすつもりもなく、街へ出ようと思っていた。
支度を整えドワコは街へ繰り出した。結局のところ、今日は色々と食べ歩こうと思う。船に乗っている間、同じ物だけ食べるのは飽きてしまうので露店を回りながら色々物色する事にした。幸いドワコにはアイテムボックスがある。それに入れておけば時間が止まるようで、痛んだり冷めたりしないので食料を保管するにはとても都合が良かったりする。とりあえず今食べる用と保存用の2つを確保しながら買い漁っていった。ドワコのアイテムボックスは20個までしか収納できない。箱に入れておけば何個入れようと箱が1個と認識されるので、うまく収納すれば20個を遥かに超える量をアイテムボックスに入れることが出来る抜け穴もある。
「間食用だから2週間分あれば大丈夫だろう」
食料の買い物を済ませたドワコは冒険者ギルドに行く事にした。先日行った時は時間が無くてゆっくり見ることが出来なかった。今回は時間があるのでゆっくり見ようと思う。
ドワコが冒険者ギルドに入ると見知った顔があった。
「あっドワコだ」
この国の第1王女イザベラのパーティー仲間アルフだ。アルフの声で一緒にいたイアンとミルトも気がついてこっちを見た。
「いよぅ」
「先日はありがとな」
「おはよう。今日は何してるんですか?」
挨拶を終え、ドワコが尋ねた。
「今、イザベラを待っている所なんだ。でも約束の時間を過ぎているのにまだ来ないんだ。」
アルフが答えた。
(城を抜けだすのに手間取ってるのかな?)
「お待たせー。あっドワコ。昨日はごめんね。ケガの具合どう?」
と言って遅れてやって来たイザベラがドワコの方を見て言った。
「ドワコ、デュラハン相手に平気な顔して戦えるような人でもケガするんだな。」
イアンが言った。
「もう治ってるから大丈夫だよ。心配かけたね。」
そう言って上のボタンを外し、肩を見せた。
「しまった。下ろし過ぎた。」
勢い余って上半身全部見える状態になってしまった。
イアンとミルトはそっと横を向き見ていない振りをしたが、アルフは視線をそらさずドワコの胸を見ていた。
「いつまで見てるの?」
イザベラに諭されあわててアルフは顔を赤くして視線をそらした。
「ドワコもいつまで見せてるの?怪我の具合はわかったからしまいなさい。」
「・・・はい」
ドワコはイザベラに怒られ服をなおした。
「ドワコ明日この国から発っちゃうんだよね」
「そうなの?」
イザベラが言った事にアルフが反応した。
「元々は私はマルティ王国から来ているから、滞在は1週間だけで国に帰るだけだよ?」
「そうだったんだ・・・」
アルフの元気が無くなった。
「それじゃ今日は送別会をしないとな」
ミルトが提案してきた。
「おっいいな。ドワコには色々と世話になったしな。俺たちのおごりだ。」
イアンが言った。
「いいねぇ。会場は・・・ここでいいっか。」
イザベラが会場を決めた。この冒険者ギルドには他の大規模ギルドと同様に飲食スペースがある。そこで酒や食事の提供を行っている。一行はそのまま隣の飲食スペースに行き、注文をした。
注文した物がテーブルに並べられ、4人はビールのようなお酒の入ったジョッキを片手に持って代表でイザベラが言った。
「それじゃ。短い付き合いだったけど、ドワコの門出を祝いまして・・・・乾杯!」
「「「かんぱ~い!!」」」
全員がジョッキを当てて「カン」と音がなり皆が飲みだしだ。
「グビグビグビ・・・ぱふぁ~ぁ」
イザベラは王女とは思えないいい飲みっぷりで1杯目を飲み干した。
「おねえちゃん。おかわりぃ。」
即座に給仕をしている女性に2本目の注文を出した。他の者もそれぞれのペースで飲み食いを始めた。
「なあなあ。ドワコ飲んでる?」
ドワコの肩に手を回しイザベラが絡んでくる。一応この場所・・・怪我した事になってるんですけど?
「飲んでますよ?ね?アルフ。」
「えっ、はっはい。」
急にドワコに話を振られ慌てて飲んでいるアルフ。
「ゲホゲホっ」
「アッ咳き込んだ」
「あははははは」
イザベラはかなり上機嫌になっている。
「それにしても、ドワコのバカ力ってどうなってるの?こんなに腕細いのに。」
そう言ってイザベラはドワコの腕を持ち上げ言った。
「ほんとそれには驚いたよ」
イアンも話に乗って来た。どさくさに紛れてドワコの腕を触っている。・・・まあ良いんだけど。
「なんかドワコの腕触っていたら変な気持ちになって来た。むぎゅーってして良い?」
と聞いておきながら、すでにイザベラが抱き付いている。
「あードワコなんかいい匂いがする」
「うらやま・・・」
ミルトが羨ましそうに見ている。
「イザベラ。ミルトが抱き付いてほしいって言ってるよ?」
気持ちを汲んでイザベラに教えてあげた。
「な!」
ミルトがハッとした表情をする。
「なんだ?ミルトクン寂しかったのかい?」
と言いながらイザベラがミルトに近づき抱き付いた。
「えいっ」
「ぐはっ」
一撃でミルトは崩れ落ちた。
「ミント耐性無さすぎ。もっと鍛えないとね。あはははは。」
ドワコが笑った。
「ドワコっていい匂いがするの?」
アルフがドワコに聞いてきた。
「私は自覚ないけど、結構言われるかも。嗅いでみる?えいっ。」
ドワコがアルフに抱き付いた。ちょうどアルフの顔付近にドワコの胸が来ている状態だ。
「あーなんかわかるかも。すごく甘くていい匂いがする。」
アルフはとても心地よさそうにしている。
「アルフばかりずるいぞ。俺も興味あるぞ。」
イアンも興味があるようだ。
「それじゃ大サービスで、えいっ。」
ドワコがアルフから離れイアンに飛びついた。
「なんだ。この匂いは。」
「くさい?」
「いや、甘い匂いがする。これはいかん。心地よ過ぎて人をダメにする。」
そう言ってドワコを抱え少し離れた所に置いた。
「ありがとよ。滅多に出来ない経験をさせてもらった。」
満足そうな顔をしたイアンが言った。ミルトは気を失ったまま戻ってきていない。
「ちょっと、ミルトいつまで寝てるの?」
イザベラがミルトの顔を平手打ちして起しにかかった。
「ぶったね。親父にもぶたれたことが無いのにぃ。」
どこかで聞いた事がある言葉を言ってミルトが復活した。
5人でワイワイやっていると、女性4人のパーティが声をかけて来た。
「あら?この前武器屋で会った貴族のお嬢さんじゃない?」
「「「え?」」」
イアンとミルトとアルフが固まった。今は冒険者風の服装をしているので、この場所でもイザベラ共々うまく溶け込んでいるので気がつかれることは無いが、以前会った時は、貴族の格好をしていたので彼女たちはそのように認識していたようだ。ちなみにイアン、ミルト、アルフはその時に一緒にいたが気がついていないようだ。
「ドワコって貴族様だったの?」
アルフが恐る恐る聞いた。
「まあこの国の貴族ではないけど、それなりの地位はあるよ?でもそんなに畏まる必要は無いよ?今はただの冒険者だから。」
ちらりとイザベラの方を向き言った。
「そっか、それなら安心した。不敬罪で牢屋に入れられるかと思ったよ。」
ホッとした様子でアルフが言った。それを聞いていたイアンとミルトも安心したようだ。
「今日は明日この国から離れる、この子のお別れ会をしているんだ。良かったら一緒に飲まない?」
「明日この国を離れちゃうんだ・・・それじゃ私たちも混ぜてもらおうかな」
イザベラの誘いにリーダー格の女性が答えみんなで飲むことになった。
「ドワコ様って言うんですね」
「いや、今は同じ冒険者だから畏まらなくていいよ。」
「わかった・・・。この前、選んでくれた武器すごいよ。彼女すごく腕が上達したんじゃないかって見間違えるほど魔物を倒すようになったよ。」
「どうせ武器の力だし・・・」
リーダー格の女性が言った事に対しドワコが武器を選んであげた子が拗ねたように言った。
こうしてドワコを含め、男3人、女6人で夕方まで大騒ぎをしてお別れ会が終わった。
「それじゃドワコ元気でね」
リーダー格の女性がドワコに挨拶をして女性4人のパーティーは冒険者ギルドを後にした。
「イザベラ寝ちゃったね」
ドワコが3人に向かって言った。
「家まで送り届けた方が良いよね?」
イアンがそう言ったが、ドワコは悩んだ。イアンなら背負えば家まで送る事は可能だと思う。だが、家と言うのは城になる。王女と言うのを隠してパーティーを組んでいるのでバレてしまうと後々の関係がどうなるかわからない。
「それじゃ、私が責任を持って送り届けるよ。」
「大丈夫なの?」
ドワコが言った事を心配しアルフが言った。
「大丈夫、大丈夫、こう見えても力持ちだから。」
「それはわかるけど、イアンに持ってもらった方が良いんじゃないの?」
「ちょっと事情があってイザベラの家は教えられないんだ。もし知ってしまうと一緒に行動できなくなるかもしれないし。」
「「「え?」」」
ドワコが貴族だと言う事はバレてしまっている。そしてドワコがその様な言い方をするのは・・・それなりの身分の人だと言う事だ。3人はドワコのが言いたい事の意味を理解したようだ。
「わかった。それじゃドワコに任せるよ。」
「それじゃ。私は行くね。送別会ありがとね。とても楽しかった。」
「ドワコも元気でね」
「元気でな」
「お元気で」
ドワコはイザベラをお姫様抱っこして冒険者ギルドを後にした。城に行くよりも宿の方が近いので一旦そちらに向かい馬車の手配をする事にした。
「ただいまぁ」
「おかえり・・・ってドワコ。何お持ち帰りしてるの?」
リオベルクがドワコが女性をお姫様抱っこして帰って来たのを驚き聞いた。
「よいしょっと」
ドワコは眠っているイザベラをドワコのベッドに寝かせた。
「お持ち帰りしちゃいました。てへっ。」
ドワコがてへぺろをしてみせる。
「それにして綺麗な女性だな。・・・でもどこかで見た事あるような・・・。」
「まあこの国の王女様だし」
「確かにそう言われれば・・・って何してるの?」
リオベルクが驚いてドワコに問いただした。
「一緒に街で飲んでたら酔いつぶれちゃって、ここが近かったから、とりあえず連れて来た。」
「2人共そんなに仲良かったっけ?」
「まあ色々ありまして・・・」
そうこうしている間にイザベラが目を覚ましたようだ。
「うぅ・・・気持ち悪い・・・吐きそう・・・・ゲロゲロゲロ」
ドワコのベッドの上で思いっきり吐かれてしまった。
「うわっ」
ドワコが驚くのが一足遅く、ベッドの上は大変な事になっていた。とりあえずドワコは2次災害が起こらないように回復魔法でイザベラの酔いを醒まさせた。
「申し訳ない・・・迷惑をかけてしまったようだ」
嘔吐物まみれのイザベラがベッドの上で謝った。
「とりあえず服を着替えないと。まずお風呂かな。」
そのままの状態でドワコはイザベラを持ち上げ浴場まで連れて行った。まだ浴槽にはお湯が張られておらず、前回のサンドラの時と同じように「ウォーター」で浴槽に水を張り「ファイア」で暖めお湯にした。
「それではお召し物の方を脱がせていただきますね」
ドワコは汚れたイザベラの服を脱がした。
「ごめんなさいね。迷惑をかけてしまったようで・・・。」
「いえいえ、お気になさらず。ゆっくりお湯につかって来てくださいね。」
「ありがとう。そうさせてもらうわ。」
あとはメイドに任せて、そう言ってドワコは汚れた服を持ち浴室から出た。
ドワコは別のメイドに服を洗うように指示を出し体拭き用のタオルの準備をして脱衣場に置いておいた。
しばらくしてメイドが洗い終えた服を乾かすためにドワコは「ファイア」と「ウィンド」で温風を作り衣類乾燥をした。
「それでは洗濯しましたのでお召し物はここに置いておきますね」
ドワコは浴室のイザベラに声をかけた。
「もう洗濯終わったの?ありがとう。」
イザベラはドワコに礼を言った。
服の方は洗えばよかったのだが、問題はベッドの方だ。この感じでは今日は使用できないようだ。仕方ないのでドワコはリオベルクに言った。
「今日は私のベッド使えないようだからリオベルクのベッドに入れてくれる?」
「それは構わんが、いいのか?」
「嫌ならそこのソファーで寝るけど」
正直な所、明日から船での移動になるので今日くらいはフカフカのベッドで寝たい気分なのだ。リオベルクと一緒なのはちょっとアレだが、すでに何回か一緒に寝ているので今更気にする物でもないとドワコは思っていた。
「いやいや。一緒でいいぞぉ・・・わーい。」
感情のこもっていない声でリオベルクは言い、こうして今夜は一緒のベッドで寝る事に決まった。
「最後に色々とご迷惑をおかけしたみたいでごめんなさいね。これからも良いお付き合いをお願いしますね。」
イザベラが詫びを入れた。それから馬車の手配も出来てイザベラは城に戻っていった。
そして食事、入浴を済ませドワコとリオベルクは一緒のベッドに入った。VIP用の部屋なのでベッドも大きめの物が置かれているので2人寝ても狭さは感じない。
「ドワコ、いよいよ明日は出発だな。無事に公務も終わったし、色々ありがとな。」
「あまりこれと言ってした覚えはないけど、無事に終わって良かったよ。」
「ちょっとそっちに行ってもいい?」
「え?」
ドワコが答える前にリオベルクはドワコに抱き付いてきた。
「やっぱりドワコの匂いは心地いい。こうしているとすぐに眠れそうだ。」
「疲れてたんだね・・・今日だけは特別だよ?」
そう言ってドワコはリオベルクの頭を優しく撫でた。そうするとスヤスヤと寝息が聞こえて来た。
「相変わらず寝るの早いな・・・」
ドワコは呆れながらもその寝顔を見ながら自分も眠りについた。




