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賢者になったドワーフ娘(仮)  作者: いりよしながせ
ドワーフの領主様
78/128

78.試食会

今日は神殿にいるメロディから来て欲しいと連絡があり、神殿に行く事にした。


魔動鉄道を使ってもよかったのだが、徒歩で向かうことにした。

砦を出ると村まで向かう魔動鉄道の駅とその奥には魔動鉄道や魔動車の整備用格納庫、さらに奥には護衛隊の基地と並んでいる。砦の門にいる警備兵に「ご苦労様」と声をかけて村に続く一本道を歩く。村と砦を行き来する馬車や魔動車を見ながら進む。砦と村を結ぶ道は元々国境で何もない草原だったが、ドワコ領になり国境線が無くなったので広い土地を生かし大規模な農地にした。農地では農業用の魔動車を使い効率よく農作業を行っている。今は何かの作物を収穫しているようだ。ドワコは農業関係の知識には乏しいので機械化案のみで実作業はジョディ村の農民たちに任せている。


エリーは今日から里帰りをしていて不在となっている。その他の領地の幹部達も他の仕事をしており今はドワコ1人で歩いている。本来なら領主ならば護衛も付くのだが、必要ないと判断されていて最近では護衛はついていない。のんびりと農作業を見ながら村へと歩いていく。


村の入口の手前には中央駅と称した駅が作られている。ここに魔動鉄道の各路線が一か所に集まるようになっている。旅客用は、砦と村を結ぶ路線、村内を循環する路線、工場へ向かう路線、そして貨物用から転用した住宅団地へ進む路線が延びている。貨物用は鉱山など鉱石類を採掘する場所や森林などで木を伐採する場所など各種資源が入手できる場所へと続いている。集められた資源は一旦中央駅にある貨物ターミナルへ集められ必要な場所へと魔動鉄道や魔動車に積み替えられ運ばれていく。


村の端には沢山の風車が備え付けられ連動した発魔機により魔動力を作っている。これは備え付けの魔動機を動かす時に必要な魔石燃料と同等のエネルギーが得られ魔石燃料の節約に貢献している。将来的に魔石燃料が確保できなくなっても、この設備があれば、ある程度の魔動機は稼働させることが出来るだろう。


旧村内に入った所で中心へ向かう道路と魔動鉄道の線路が交差する場所がある。そしてドワコが通ろうとしたところで「カンカンカン」と鐘が鳴った。これは魔動鉄道の魔動車が接近した時の警報だ。これが鳴った時は貴族であっても線路内への進入は禁止とした。これに違反した時は厳しい罰則が科せられる。たとえ領主であろうと平時は魔動鉄道の進行を妨害できない。これによって魔動鉄道の優位性を高め利用促進となるようにした。魔動鉄道の魔動車が通過するのを見送り旧商業地区へと足を進めた。


ここは元々個人商店がポツポツと並ぶ旧村の中心地だ。今は店なども無くなり整地され公園となっている。今は数人の小さな子供が遊んでいるようだ。少し前まではこれくらいの年齢でも働かないと食べていけない生活だったが、生活水準もある程度上がり、小さな子供が仕事をしなくても生活が出来るようになった。


「おねえちゃん何してるの?」


遊んでいた事もがドワコに気が付き寄って来た。


「散歩かな?君たちは何してるの?」


「んとね。追いかけっこ。ちなみに僕が鬼だから。タッチ。」


ドワコが鬼になってしまった。仕方ない・・・時間もあるし少し遊んでいこう。


「にがさないよーまてー」


ドワコは童心に帰って子供たちと追いかけっこをした。もちろん手加減してますよ?

しばらく追いかけっこをして遊んでいると、皆のどが渇いたようだ。子供たちは公園に設置してある水飲み場でのどを潤す。これは湧き水や井戸ではなく水道だ。高い所にタンクを設置し魔動機を使ったポンプで水をくみ上げタンクに水を入れ、重力を利用して村内に配水している。いわゆる高置水槽方式と呼ばれる水道だ。これを村内全部にこの方式の給水を行っている。井戸などは健康面などで不安もあったので廃止し、代わりにダムから引いた水を浄水し配管を通しタンクへと汲み上げている。家の中で気軽に水が使えるようになったので村民たちからの評判も良い。


少し遊んでいたら子供たちの母親と思われる人たちが迎えに来た。


「そろそろお昼ごはんだから帰るよー!?」


迎えに来た母親たちは固まった。一緒に遊んでいた子供たちの中にドワコがいたためだ。


「領主様。うちの子がご迷惑をお掛けしたようで申し訳ありません。」


「おかあさん何してるの?僕たちこのお姉ちゃんと遊んでいただけだよ?」


母親たちの変わりように子供たちが不安がる。


「大丈夫ですよ。ただ遊んでいただけですから。」


ドワコが心配させないように言った。


「そうですか。忙しい所子供たちに付き合っていただきありがとうございました。それじゃ帰るよ。きちんと挨拶しなさい。」


母親に言われ子供たちも挨拶をした。


「お姉ちゃんまた遊んでね。バイバイ。」


「はい。またね。」


子供たちが手を振りながら家に戻っていった。ドワコも手を振り返して見送った。

公園を進むと住宅街が見える。この辺りは昔からの村民が住む地区で一度魔物に破壊された建物だが忠実に再現している。だが、地価が上がったので売却し郊外へ引っ越した者も少なからずいる。売却して空いた場所には富裕層の家が立ち並ぶ。


(ここはちょっと不揃いになって来たな)


新しい大きい家と小さくて庭の広い昔ながらの家(建て直しているので一応新築)が混在している状態だ。

そのエリアを抜けると神殿のあるエリアとなる。


「カーン、カーン・・・」


神殿から鐘の音が聞こえた。神殿には時計台が設置してある。ドワコが適当に決めた8時頃、12時頃、16時頃と1日3回鳴るようにしてある。これで村内どこにいても、おおよその時間がわかるようになっている。ちなみに先ほどの鐘は12時の鐘だ。この鐘の音を目安にお昼ご飯を取る人が多いようだ。


神殿の隣には託児施設がある。これは工場などで働きに出ている人が子供を預けて安心して働けるようにと設置したものだ。現在受け入れ枠が限界に近づいていて増築の準備を早急に進めている所だ。


そしてドワコは神殿に到着した。神殿に入ると聖堂がある。そこには祭壇があり祭壇の上には2頭身の可愛いヌイグルミが置いてあった。よくよく見ると何処かで見た事あるような容姿をしている。


とりあえずスルーして隣の部屋に入る。ここは多目的室となっているが、通常は診療所となっている。簡易的な仕切りが置かれ、待合所と診察室が別けられている。待合室には3人の患者がいた。ドワコが患者の1人に話しかけた。


「今日はどうされたんですか?」


「あっこれは領主様。このような格好で失礼します。先日転倒して足を捻ってしまったようで今日はここで診てもらおうと思いまして・・・。」


そうでしたか。それはお困りでしたね。ドワコは魔法書を取り出して「ヒール」をかけ治療した。


「ありがとうございます。おかげで痛みも消えました。それでは失礼します。」


治療した患者は出入り口付近に置かれた箱にお金を入れて出ていった。そして残りの2人も同様に治療した。同じように部屋から出る時に箱の中にお金を入れていった。基本治療は無料なのだが、余裕のある人からは僅かばかりの寄付をいただいている。それを帰る時にこの箱の中に入れてもらっている。この寄付が神殿の運営資金の一部に充てられている。


「次の方どうぞ・・・?」


次の患者を呼びに来たが、ドワコが治療したため患者が皆帰ってしまったので待合室には誰もいなくなっていた。


「あっ。ドワコ様ようこそいらっしゃいました。」


ドワコが来ていた事で状況を把握したメロディがドワコに向けて挨拶をした。


「今日も診察お疲れ様」


この村には医者がおらず、ドワコが治療するとなると他の仕事が出来なくなると言う事から、エリーの発案でここに診療所を作り回復魔法が使えるメロディにその役を任せた。神殿に無駄に広い部屋を作ったもこれが目的だったようだ。診療所として作らなかったのは他の用途でも使えるようにするためのようだ。


「今日はお呼び出ししてしまって申し訳ありません。研究の成果を見てもらおうと思いまして・・・お時間大丈夫でしょうか?」


「大丈夫ですよ」


「それではご用意しますので少しお待ちくださいね」


メロディはそう言い残し奥へ入って行った。しばらくして厨房へ案内された。

神殿には料理店が開けそうな立派な厨房があり、メロディの料理研究の場として使用している。以前来た時には無かった各種調味料が棚には並べられ、新しく設置された冷蔵庫や冷凍庫には様々な食材などが入っている。厨房の一角に設けられた食事用のスペースにドワコは座りメロディの動きを観察している。


料理が並べられてドワコが驚く。ご飯、焼き魚、サラダ、漬物、みそ汁・・・。いわゆる焼魚定食だ。


「なんか懐かしい感じがします」


「やはり1回目は和食かなっておもって。でも一部食材に代用品が混じっているので味が微妙に違うかもしれませんがどうぞ。」


「いただきます」


きちんと箸まで用意してあるのが嬉しい。一口食べてドワコが言った。


「なんやー和食のオーケストラやー」


「懐かしいですね。それ。食レポのテレビ番組でよく見たピコマロさんみたい。私好きだったんですよ。」


むこうの世界での共通の話題が出て二人でテレビの話や食べ物の話で盛り上がった。


「ご馳走様。美味しかったです。懐かしい味が楽しめて本当によかったです。」


「そう言ってくれると嬉しいです。また2回目も楽しみにしておいてくださいね。」


「楽しみにしておくね。次も期待しているよ。」




「・・・で話が変わるけど、聖堂に置いてあったヌイグルミだけど・・・?」


「しまった。置いたままだった。」


大急ぎでメロディは聖堂に行きヌイグルミをどこかに隠して戻って来た。


「ハァハァ。何もなかったですよ?」


息を切らせてメロディは戻って来た。いまさら言われても・・・しっかり見ましたし。


「最近来てくれませんでしたから寂しさのあまり作ってしまいました・・・すみません」


少し間をおいて正直に白状した。一応、国教として崇拝する女神様の前なので嘘は良くないと判断したようだ。


「なかなか足を運べず、すみません。でもこの前の調味料は驚かされました。」


「エリー様から話を聞いて研究を進めていました。と言っても必要な材料はエリー様が持ってきましたけど・・・あとは味の調整を行ったくらいでしょうか。調整した比率で一部の物については工業団地内にある工場で生産に入っているようです。」


「実はこの件は全く触れていなくて、工場建設も知りませんでした。」


ドワコは調味料を生産する工場建設の許可を出した覚えもないし、指示をした記憶もない。この件に関してはエリーが独断で行ったようだ。


「驚かせるために黙っておいてくださいね。って言われていましたので・・・。」


メロディが申し訳なさそうに言った。


「エリー様って本当にすごいですよね。この先の何が起こるかわかっているような行動を良くされますし、知識とかも何処から知ったのか解らないような事までいろいろ知っておられますし・・・。これってチートって言うのでしたっけ?」


「チートですか。そう思えるような事が多々ありますね。初めて会った時は普通の村人の少女みたいな感じだったんですけどね」


2人で謎が多いエリーに付いて話をした。


「メロディさんはどうして料理や調味料について詳しいんですか?」


ドワコはこの件で気になった事をメロディに聞いた。


「私、今はシス・・・じゃなかった巫女やってますけど、元々料理研究家なんですよ。ネットでも色々レシピとか公開してましたし、本も何冊か出版していましたよ。城下町の神殿にいた時は設備も材料も無くて10年以上何もできませんでしたけど、この神殿に来て好きな料理研究が出来るようになって良かったと思っています。」


「それなら良かったです。この国の食べ物の味は薄くて好みに合わなかったですが、私は食べる専門なのでその方面の知識が全く無くて、改善する事ができずに半ば諦めていた所だったんです。本当に感謝してますよ。」


「喜んで頂けて良かったです。私は料理専門なのですけど、ドワコ様の知識はどこから来ているのでしょう?どう考えても色々知りすぎているような気がしますけど・・・建物や機械、それに服飾関係とか・・・。」


「あれは元の世界で身に着けた技術ですよ?各種機械の整備や設計、建設関係の図面引きから建築まで色々な仕事をして来ました。しかもこれが全部同じ会社なんですよ・・・色々な所に回されて見についたなと思った頃に他の部署に回されて・・・みたいな。ただ、動力装置だけは苦労しましたよ。それ単体の知識が乏しかったので開発できなかったのですが、魔動機を偶然ですが生産できるようになって、それをドワーフ友達のドワミが加わった事で抜けていたパーツが収まったかのように一気に計画が進められるようになりました。ちなみに服飾は趣味ですよ。」


「いろいろ苦労されてたんですね。でもその話を聞くと元々はおと・・・いえ、この話はやめましょう。」


メロディが何かを言おうとして止めた。そして話題を切り替えた。


「それにしてもこの服凄いですね」


メロディは自分が来ている巫女服を指した。

この元になった巫女服は元々メロディのアイテムボックスに入っていた物だ。聞く所によるとゲーム内で回復職の人に配られた3周年記念の限定アイテムらしい(そう表示が出ていたそうだ)。その服のデザインを元に着替え用の巫女服をドワコは数着用意した。もちろんお手製である。


「趣味で色々作っていたら完成度が上がって今に至るですよ。でもメロディさんもヌイグルミ作っていたじゃないですか?」


「ナンノコトデショウ?」


「まあそういう事にしておきますね」



「あのーすみません」


聖堂の方から誰かの声が聞こえた。


「誰か来られたようですね。ちょっと行ってきます。」


「はいどうぞ」


メロディは来客対応の為、聖堂に向かった。

何か話し込んでいるようだ。そして戻って来た。

そして戻って来たメロディは複雑な顔をしている。


「何かあったんですか?」


心配になったのでドワコは聞いた。


「先ほど使者の方が来られまして、今度城下町から神殿長か視察に来られるそうです。困りました。私、うまくやっているのか不安になってきました。」


明らかに動揺している様子だ。


「いつも通りで良いと思いますよ?私が言うから大丈夫です。」


根拠はないが自信を持たせるためにドワコは言った。


「ありがとうございます。ドワコ様にそう言っていただけると勇気が持てました。」


メロディは気を持ち直したようだ。


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