77.難民
翌日、多数の魔動装甲輸送車と荷物輸送用の魔動車を引き連れてデマリーゼが港に戻って来た。
「只今戻りましたわ」
「ご苦労様。それじゃ早速難民輸送を行いましょう」
用意した魔動装甲輸送車は装輪タイプが10台、荷物輸送用の魔動車は20台用意された。ドワコ領の港は魔動車が並ぶ異様な光景になっている。詰めれば一回で全員輸送できる台数だ。数回往復を覚悟していたドワコだったが、状況を的確に把握して必要な台数を確保してきたデマリーゼの優秀さにドワコの評価が上がった。
「ちょいとお姉さんなかなかやりますねぇ」
横からツンツンとデマリーゼを指でつついているエリー。
「いやですわ。当然の職務を果たしただけですわ。」
そうも言いながらエリーに褒められて満更でもない様子だ。以前なら、このような事をすればエリーに向かって「平民の分際で」って大激怒しそうなのだが、にこやかな表情で答えるデマリーゼを見ていると、丸くなったなと感じるドワコだった。
一応監視の目的でセシリアも来ているが、敵対行動をしない事はわかっているので、適当に任務をこなしている感じで、メルディスと話をしている。
「前から気になってたんですけど、この耳ってどうなってるんですか?」
「触ってみる?」
セシリアの耳が気になっているようだ。やった事あるので、その気持ちわかるかも。ドワコも以前触った時の事を思い出した。猫の耳を軽く触った時のような反応が面白いんだよなぁ。
セシリアがそっとメルディスの耳に触れる。
「ひゃぅ」
メルディスが変な声を上げ、耳がピクピクっと動いた。
「へぇーこんな感じなんだ。ありがとうございました。」
満足したようで、セシリアがメルディスにお礼を言った。
船の撤収準備が終わったのでアイテムボックスへ収納した。突然消えた船に難民たちは驚いた。
(船に乗り移った頃は驚く余裕も無かったみたいだけど、お腹も満たされ余裕が出て来たようだ。)
船から降りた人が一ヵ所に固まっている。ドワコが皆に向けて言った。
「これから皆さんは、ここに並べられている魔動車に乗ってマルティ王国ドワコ領へ向かいます。住居が出来るまではご不便をおかけすると思いますが、完成次第移ってもらう事になります。仕事はこちらで用意しますので自分に合ったものを選んでください。あと、生活が安定するまでは食料の配給を行いますので安心してください。狭い車内ではありますが、道中ごゆっくりとおくつろぎください。」
ドワコの挨拶が終わり兵士たちの誘導で魔動車に分乗していく。
「それじゃ任務お疲れ様。私たちは領地に戻りますね。」
「はい。道中お気をつけて。」
ドワコはセシリアに挨拶をしてブリオリを後にした。
ドワコ領までは魔動車なら2時間程度で到着する。特に問題も発生せずにドワコ領へ到着した。そして砦と隣接する護衛隊の基地の一部を難民たちの為に開放した。
砦から戻り早急に幹部たちを集め今後の対策を協議する。集まったのは、ドワコの他にデマリーゼ、カレン、ベラ、親方、ドワミだ。他の人はそれぞれの仕事がありそちらを優先させた。
「まず住居の確保かな。500人となるとジョディ村のどこエリアに居住区を持ってくるかが、問題になるけど何か意見のある人。」
ドワコが聞いた。正直みんな専門外でこの領地の人口はおよそ2000人だ。急に2割強の人口が増える訳だからみんな悩んでいる。
「みなさん意見が無いようで・・・。本当はこの土地は別の用途で考えていた物だけど、これはどうかな?」
ドワコがある案を提案した。新たに穴を深く掘り、丈夫な杭を地面に打つことで地盤を補強し、その上に高層建築を建てると言う案だ。ドワコ示した図面には10階建てのRC構造の建築物だ。500人程度なら1棟を建てれば全員が収まる計算だ。
「こんな大きな集合住宅初めてみた」
親方が図面を見ながら言った。横からドワミも興味深そうに覗いている。
「これを順次建てて人口増加に対応しようと思う。どうかな?」
ドワコが皆に聞くがイメージがつかめないのか親方とドワミ以外の反応が薄い。
「まあワシは面白そうだから賛成だな」
「私も賛成。この昇降機と言う物が面白そう。」
親方とドワミは賛成のようだ。10階建てなので階段での上り下りは大変だ。住む人の負担軽減のために魔動機を使った昇降機が図面には入れてある。
「土地は森林伐採した後に開発用に残しておいた場所を整地します。その一帯にこの建築物を建てて行きます。木材運搬用の線路も残されているので、旅客輸送用に整備しなおし活用することにします。何か質問は?」
「・・・」
「無いようなのでこの案で進めていきたいと思います」
ほぼドワコの意見のみで会議が終わった。続いて親方とドワミに残ってもらい建設工事の打ち合わせをする。1棟目を急いで作りその後順次2棟目、3棟目と建てて行く事になった。そして翌日から建設工事が始まった。
あれから1週間経ち、難民たちも仮住まいが続くが、ドワコは不自由を感じさせないように色々な配慮を行った。また、仕事の紹介も行い働くことを希望する者のほとんどは働き口を見つけた。働き手は増えたのだが、工場の建設は続いており、人口が増えた為に各業種で人手不足は続いている。
ドワコは今、自分の工房にいる。魔動機制作と魔石燃料製造の為だ。最近ドワコの工房はこの関係の製造しか行っていない。各部隊が練習と称して集めて来た魔石から魔石燃料を作ることが出来るのはドワコだけの為、必然的にドワコの仕事になる。手伝いに来ているドワミがバケツ一杯に入れた魔石を製作用の箱に投入していく。そしてドワコがクリエイトブックを使い魔石燃料を生産していく。生産された魔石燃料を数え帳簿にエリーが付けて行く。付け終わった物をドワミが貯蔵庫へ持っていく。その間にドワコは魔動機の生産を行う。
「魔石燃料の在庫ですけど、徐々に増えてきている感じです。発魔機を増やした恩恵がありそうですね。」
エリーが帳簿を見ながら言った。一時期、魔動機を増やし過ぎたために、使い過ぎで魔石燃料が尽き掛けた時期があった。危機感を感じたドワコは風力や水力を使って魔石燃料と同等の魔法力が得られる発魔機と言う機械を開発し対応した。山奥に作ったダムを利用した水力発魔機のお陰でかなり改善されたようだ。
ドワミが戻ってきて今日の作業を終わる事にした。
「それじゃ汗も出たし、お風呂行こうかな。」
「私も行くよ」
「私も行こっかな」
ドワコがお風呂に行くと言ったら、エリーもドワミも一緒に行くと言ったので3人で向かう事にした。
砦の中に仮住まいしている難民の方も利用して良い事にしたので、いつも風呂場は大賑わいになっている。ドワコたちが服を脱いで入ると、目の前に老若問わずの女性の裸体が目に入ってくる。目のやり場に困るけど、どこを向いても裸の女性だらけだ。1週間前からこのような状態が続いている。女性用は改装していない浴場がもう一つあり、使えるようにはしてあるのだが、設備が全く別物なので良さを知った人たちは改装した方しか入らなくなった。おかげでこのような状態になっている。
「これでは人の目がありすぎてイチャイチャできないですね」
エリーが残念そうに言った。
「基地側のお風呂がどうなっているか気になるね」
ドワミはもう1ヵ所の避難民が生活している場所の心配をしている。あちらは自分の趣味が入れていないので無難な設備で作ってある。広さもあるので入るだけなら問題ないが、お風呂が楽しみになるほどの物ではなく、ここのように長時間いる人はいないと思うから混んでいないかもしれない。また時間がある時に様子を見に行こうと思った。




