76.試験航海
少し日が経ったある日、ブリオリに建設していた港が完成した。
規模としては150m級の船が2隻程度は着岸できる長さがある。用意してもらった土地を最大限に使わせてもらった為かなり長めの岸壁になっている。大型船も着岸できるように深さも確保してある。それに合わせ倉庫や事務所など建物群が付帯する。
ドワコ、エリー、メルディス、デマリーゼそして製造担当のドワミはブリオリのドワコ領の港に来ている。ブリオリ国側からは、いつの間にかドワコ領担当となったセシリアが来ている。
ドワコがアイテムボックスから完成した船を取り出す。瞬時に海面に建造された船が出現した。それを船員として各護衛隊から確保した兵士たちが係留作業を行った。
「それにしても大きいですね」
セシリアが驚きの表情で船の外観を見ている。今は城直属らしいが、元海軍所属だったので船にはそれなりの知識を持っているようだ。各部に渡って真剣な表情で観察しメモをしている。
この船は全長150mくらい、金属製で装備品としては、魔動ポンプを使用した放水銃が船首に2基、左右側面2基ずつ全部で6基搭載され、前部には自動装てん型の連装投石機が2つ備えてあり台座は魔動機駆動の可動式で艦橋部分を除く全方位に向けることが出来る。投石用のブロックは中に爆薬が仕込まれ着弾と同時に爆発するようになっている。船体後部には甲板と格納庫が設けられ、偵察用、連絡用に新開発の魔動機で動くヘリコプターが1機搭載されている。船体の動力は大型魔動機を4基搭載して高速航行も可能となっている。手漕ぎの木造船に比べると性能差は明らかだ。
兵士たちは係留作業を終えて、今度は出港準備を行っている。砦でこの船を使って訓練を行ってきたのでうまく動いてくれているようだ。次々に物資の積み込み等が行われていく。
「それでは船内に案内しますね」
ドワコはセシリアを船内に案内した。
「これって木造ではなく何かの金属でできているみたいですね。すごく丈夫そうです。」
感触を確かめつつ船内に入って行くセシリア。ドワコ領の面々は少し前まで砦に置いてあった為に、どのような物かは皆知っているので驚くことは無い。
そのまま上にある艦橋へ入る。船の最上部に設けられ全方位が見渡せる部屋のようになっている。
「遠くまで良く見えますね」
ぐるぐる回りながらセシリアが言った。
「すごいですよね。こんな構造良く思いつくなって感心しますよ。」
製作担当のドワミが言った。
この船は基本的に艦橋部分に操縦系統を集中させて少人数で動かせることが可能となっている。配置されている兵士は主に見張りと運用に関する補助、兵器の運用と居住スペースの管理が主な任務となる。
「それじゃ準備できたようなので出港するよ」
ドワコが一斉放送を使い館内に伝達する。ドワコの声が船中から聞こえる。
「それじゃドワミお願い」
「あいあいさー」
ドワミが操縦部にある引き紐を引くと汽笛が鳴った。それを合図に係留用ロープを兵士たちが外した。そして動力をつなぎ船が離岸し動き出す。そして外洋に向かって動き出した。
デマリーゼとメルディスは各部の動作状況を詳細に記録して回っている。エリーは厨房に入り乗組員たちの食事の準備をしている。艦橋にいるのはドワコと監視目的で同行しているセシリア、あと操縦担当のドワミの3人だ。実質ドワミ一人で船を動かしている状態だ。前部、側面部には監視役の兵士が付いており他の船舶の状況を確認しながら進んでいる。
「それじゃ他の船もいないようだから出力を上げて航行テストをするよ」
「はーい」
ドワコの合図でドワミが魔動機の出力を上げ船の速度が上がっていく。
「なんですか。このありえない速度は。」
セシリアが手漕ぎ船では味わえないような速度に驚く。この船は最高で27ノット(約時速50km)程度の速度で航行が可能だ。ドワコ的にはもう少し速度が出るようにしたかったが、様々な事情でこのような仕様に納まった。
そして外洋の周りに船舶のない所を選び船を停止させた。艦載ヘリが飛び立ち、少し離れた所に的になる標的物を降下した。的の付けられた浮輪のような物体が海上に浮かんでいる。
「それじゃ放水銃からテスト開始するよ」
放水担当の兵士へ連絡を入れる。
「それじゃ放水開始」
3基の放水銃が放水を開始した。これは射程が50m程度で小型の船なら直撃すると沈没させる程度の威力はある。水のアーチを描きながら標的に向かい飛んでいく。
次に艦載ヘリが少し離れた所に標的を降下した。距離にして1km程度離れた場所だ。
「こんどは投石機のテストを行います」
投石担当の兵士に連絡を入れる。投石機が回転し標的の方向を向く。そして4発同時に投石が行われた。標的には若干逸れて当たらなかったが、海面に落ちた衝撃で爆発が起きる。その爆風で標的物が吹っ飛ぶ。
もう少し命中精度の向上が必要なようだ。
「それじゃ武器のテスト終わります。今から昼食にしますので、見張り担当以外は各自食事を取ってください。」
ドワミは兵士に操縦席を任せてドワコとセシリアと共に食堂へ向かった。すでにメルディスとデマリーゼは食堂にいて先に食事をしていた。ドワコたちは配膳をしているエリーから食事を受け取り同じ席に座る。
「お二人ともお疲れ様。結果の方がどうだった?」
ドワコが2人に聞いた。
「若干兵士たちに不慣れな点がありましたけど、おおむね良好ですわ。」
「動作の方は問題なかったです」
2人とも特に問題点は無かったようだ。
「それなら良かった。テスト結果は合格と言うところかな。」
「そっか。それなら良かった。」
ドワコの評価にドワミは安心したようだ。
「それじゃ今日は航行テストを少しして港に戻る事にしましょう」
「「「了解しました」」」
「なんか私が入る前に話が終わってしまいました」
仕事が一段落したエリーが来たがすでに話が終わっていてガッカリしていた。
今回の試験航海は1日の予定だ。夕方には港に戻る予定となっている。食事の片づけを終わらせたエリーは艦橋に来ていた。メルディスとデマリーゼも記録を終わらせ艦橋に来ている。
「今日はこの辺で終わりかな。そろそろ港に戻りましょう。」
ドワコが言ったが、エリーは思う所があるようで反論した。
「このまま少し進んでもらって良いですか?」
エリーは何かこの先にあるのがわかっているようだ。こういう場合は言う事に従った方が良い方向に進むと皆は知っている。
「まあエリーさんがそう仰るなら、わたくしとしては異論がございませんわ。」
デマリーゼはエリーの意見に賛成をした。
ドワコも特に却下する理由もないので了承する。
「わかりました。それじゃそのまま前進します。」
「了解」
ドワミがそのまま船を進める事になった。
しばらく航行していると見張りをしている兵士から連絡が入る。複数の船が漂流しているそうだ。ドワコたちはその方向を見ると確かに複数の小舟が漂流しているのを確認した。
「どこかへ移動中・・・でしょうか?」
デマリーゼが疑問形で問いかけた。ドワコの他の艦橋にいる人たちも一人を除き客船には見えない異様な船団を見ていた。
「あれは難民船ですね」
エリーが言った。船からはそれなりに距離があって船の中までは確認できないはずだが、自信満々に答えている所を見ると難民船なんだろうと思えてしまう。一応確認のために船を近づけてみる事にした。ボロボロの5隻の船が動くわけでもなく、漂流していると言った感じだ。各船の船上には多くの人が座り込んでいるのが確認できた。
相手に敵意はなさそうなので、事情を聴きに数人の兵士が搭載されている小船に乗り込んで難民船と思われる船団に近づいていった。この小船も動力に魔動機が搭載されており、通常の船と比べ高速で航行することが可能だ。兵士たちが難民船と思われる船に乗り込み詳細を確認して戻って来た。
「報告します。あの船団はミダリア帝国より戦火を逃れて脱出した難民たちを乗せた船のようです。隣の大陸を目指していたようですが、海流に流されてしまい予定していた航路から大きく逸れたようです。そして食料も尽き数日この海域をさまよっていたとの事です。」
「ご苦労様」
報告を終えた兵士は艦橋から出て下へと降りていった。
「ミダリア帝国と言うと内戦が行われている隣国だったかな。さて、どうしたものかな。」
ドワコは今後の対応を考える。難民船は状態が悪く水と食料だけ与えても無事に目的地まで付けるかも怪しい。一旦この船に全員を収容して目的地まで送るのが得策だろう。
「少し手狭になるかもしれないけど、難民を収容して目的地まで送ろうと思うけどどうかな?」
「私は構いませんよ?」
真っ先にエリーが答えた。
「ご主人様が仰られるならその通りにします」
「ドワコ様がそう言われるのでしたら・・・」
特に反論は出なかった。
「それじゃそういう方向でよろしく」
方向性が決まったので行動に移す。大型船は直接難民船に横付けすると転覆する恐れがあるので小船で少しずつ移乗してもらう。何度も小船は往復して難民を収容していった。全員で500人程度いたようで全長20mくらいの小さな船に100人くらい乗っていた計算になる。とりあえず格納庫のヘリコプターをアイテムボックスに入れ、後部甲板と合わせて収容スペースを作った。それでも入りきらなかったので船内にある会議用の多目的スペース、物資輸送用の荷室も開放した。難民船と比べ一人当たりの占有スペースがゆったり目になったので難民たちは安心したようだ。難民たちは男女様々な年齢層の者がいて、小さな子供も含まれていた。だが、若い男は極端に数が少なかった。それは内戦にかり出されてしまったためのようだ。
手分けをして水と食料を配っている。乗組員の数十倍もいる難民に食料を配給してしまったので、食糧庫の中は予備も含め空に近い状態になっている。一旦補給のためにブリオリの港へ戻る事にした。
戻る途中に難民の代表者達と今後の目的地について話し合いをした。話し合いの結果、目的地は仮に決めてあっただけで、安心した生活を送る事が出来るなら、どこでも良かったらしい。エリーの提案で当面の食糧の配給と住居の確保、仕事の紹介を行う事を約束して全員ドワコ領に来てもらう事になった。
港に戻るとドワコたちは手分けをして人数分の食糧を確保し、セシリアに難民輸送を行うために多数の魔動車をブリオリ国内に入れる許可をもらってくるように頼んだ。そしてデマリーゼに伝令に走ってもらい、魔動装甲輸送車や多数の魔動車の手配をお願いした。デマリーゼは命令を受けるとすぐに乗って来た魔動車でドワコ領へ戻った。ドワコ、エリー、メルディスは残った兵士たちと共に難民たちの世話に当たった。ドワミは船の点検を行うためにこの任務からは外してある。今日は船内で1泊して翌日出発する事になるだろう。
少ししてからセシリアが戻ってきて王様より通行の許可をもらってきたと報告があった。




