75.縫製工場
ジョレッタとの勝負も無事に勝利を収めたドワコだったが、翌日会議の2日目が行われたが皆の態度が変わっていた。会議には50人ほどが出席しており、その後ろには補佐役の従者が後ろに控えている。同じ部屋に100人程度がいる計算になる。参加している貴族たちの視線をドワコは感じていた。
今、ドワコは王妃様の隣に座っている。聖女用の席だ。そして王子様の隣には筆頭宮廷魔導士のジョレッタが昨日の元気は嘘のようにおとなしく座っている。そしてドワコ領の領主席は空席となっている。
次回開催の日程と次の議題などの説明が行われている。予定されていた物が全て終わり会議が終了した。慣れない会議を2日間参加したのと余計な戦闘をしたためにドワコはお疲れ気味だった。
「早く帰って寝たい」
「ドワコさん。お疲れ様。それじゃ荷物はまとめてありますので速攻で帰りましょう。」
ドワコの何気ない一言を聞いたエリーが、気をつかって帰る準備をしてくれていたようだ。
「それじゃ帰ろっか」
「はい」
エリーは満面の笑みでドワコに答えた。
ほかの参加していた貴族がドワコに話しかけるタイミングを狙っていたようだったが、思いのほか速攻でドワコが撤収したため話す機会を失っていた。
その日のうちにドワコ領に戻ってきたドワコとエリーは、その後は予定を入れず、ゆっくり休んだ。
翌日、工業団地に建設していた縫製工場が完成したのでドワコ達は見に行く事になった。ドワコのの他にはエリーとメルディス、そして工場のオーナーであるシアだ。
「相変わらず完成するのが早いね」
シアはしばらくドワコ領に滞在して村の様子を観察していたため、初めの方は驚いていたが、ドワーフ軍団が中心となって建設や製造される工事や作業の異常なスピードにも慣れたようだ。
大きさは中規模の工場と言ったところで、中には魔動機が動力で動くミシンが沢山置かれ作業の効率化が図られている。さらに魔動機を使った自動裁断機も複数台置かれ、布を入れれば自動で裁断し、あとはミシンを使って縫い合わせるだけで服を完成させることができる。従来なら採寸してオーダーメイドで作るのだが、一定のサイズを段階的に変えて数種類用意する事で採寸しなくても自分の体形に合わせたサイズを選ぶことが出来るようにした。そして機械化による大量生産が可能となっている。現在は建設に携わったドワーフたちが新しく雇った従業員たちに機械の使い方を指導している。
「これで服の価格が下がって、僅かなお金で新品の服が手に入るようにすることで、継ぎ接ぎだらけの服を着る人が減るようにしないとね。次の目標はここで作った服が気軽に着られる位には収入を増やしてあげて生活水準を上げたいね。」
「そうなると良いですね」
ドワコの言葉にシアも同調した。
この工場でも一定数の人員を雇わなければならない。ジョディの村は最近では働き手が足りず人員不足に陥っている。今回はアリーナ銘品館で働いていた一部の元従業員にも来てもらい、ここで作られた服を各店舗で販売してもらえる事になった。今回は何とか人員確保が出来たが、他の工場の建設はまだ続いている。早急に人員不足の解決策を考えなければいけない。
シアはここで仕事があるようでドワコ達と別れた。
ドワコとエリーとメルディスは商業地区にやって来た。かなり広めに作った道路が手狭に感じる程、人の行き来があり、とても活気がある。道幅を確保するため、道路を占有する露店とかは配置せず、店舗のみで営業をさせている。初めの頃は平屋建てだった店舗が、今は雑居ビルのように高層化した建物の中に様々な店舗が入り、通りに建物がずらりと並んでいる。
「この場所では手に入らない物が無いと言われるぐらい物が豊富に揃ってるから、以前の村とは全くの別物になってしまったね。」
「今までこの領地には見向きもしていなかった城下町の人が、数日後には大挙押し寄せてくるから、さらに賑やかになりますよ。」
昨日までの会議でドワコ領が復興したという印象を十分に与えてきた。貴族たちが商人たちを使いエリーが宣伝した調味料を中心とした商品を中心に大量に仕入れを行うだろう。城下町からの人達がくることで、さらにこの村が活気づけばいいかなと思う。
ドワコ達はのんびりとお洒落なカフェのテラス席を陣取りお茶を飲んでいる。こんな感じでお茶をするのはこの世界に来てからは初めてかもしれない。
「一人余計なのがいますけど、ドワコさんとデートですね。」
エリーがドワコに言った。違う気がするけどなぁ。
「御主人様達だけ自分達の世界に入ってずるいですよー」
メルディスが拗ねた。
「もう、甘えん坊さんでちゅねー。仕方ないから食べさせてあげますよー。あーんして。」
エリーに言われメルディスが口を開けた。
そしてエリーは茶口に置かれたお菓子をメルディスの口の中に放り込む。
「おいちいでちゅかー」
「おいちいでちゅ」
二人のやり取りを見ていてドワコは平和だなぁ。と思った。
「もう入らないでちゅ」
エリーとメルディスはまだやっていた。リスが食べ物を口の中に入れて頬を膨らませているような顔になっているメルディスを見て、可笑しくなって飲んでいた物を吹き出してしまった。
「ドワコさん汚いです」
そう言いながら汚れたテーブルをエリーは拭いていた。
カフェを出て、新しくオープン予定のシアの店の前に行ってみる。今回は前のような一等地ではなく商業地区の雑居ビルのような建物の1階部分に店舗を構えている。中では内装工事が進められているようだ。他にもいたる所で新規にオープンするお店の内装工事が行われている。
商業地区の散策を終えてドワコ達は砦に戻った。今はブリオリに建設している港を利用して外海に出られる船を建造している。造船は海など水辺に近い所でする物だが、ドワコのアイテムボックスがある為、入れて運べば良いだけなので砦で建造しても問題がなかった。砦内の広場を占有している状態で足場が組まれ建造が始まっている。全長は150m程度あり、ブリオリの港で見た一番大きいクラスの船の5倍くらいの大きさがある。あくまでも性能確認のための船だが武器等の試験も行うため、ある程度の武器も搭載されている。
「やはり船と言えばこれくらいの大きさがあった方がカッコいいよね」
ドワコは建造中の船を見て言った。
「ドワコ、言われた通り作ってるけど、こんなに大きな船どうするの?」
建造担当のドワミが言った。そう言いながらも楽しそうに作っているように見えるのだが・・・。
「今の所、あまり考えてないかな。とりあえず大きな船が欲しかった・・・だけ。」
「なんとなくわかる気がする。でもこの領地に港が無いのが残念だよね。これを浮かべようと思うと隣の国まで行かないとダメだし。」
「まあね。と言っても港が欲しいからって他国に侵攻する訳にもいかないし。」
「その手があったか」
ドワミが危険な事を言った。魔動機を使用した兵器である程度、優位に戦えるとは思うけど、ドワコは領主なので国の意向無しでは攻める事も出来ないし、元々ドワコにもその気がない。
「そんなこと言っちゃダメだよ」
「冗談だよぉ」
ドワコに注意されドワミはシュンとした。
そして船を見た後、ドワコはジョディの村のドワーフを束ねている親方の家へ行った。
ドワーフの居住区は元ムリン国の砦があった所にある。このエリアにはドワーフ達の住居の他にそれぞれのドワーフ達が得意とする物を作る工房も建てられている。
「おっ領主様じゃないか。どうした?」
「こんにちは親方。ちょっと頼みたい事があって来ました。」
「なんだい?」
「無煙火薬と言う物が作りたいのですが・・・」
ドワコがイメージを説明して該当する物かそれに類似するものが用意できないか聞いてみる。
「なるほど。これは軍事用だな?」
「そうなりますが、鉱山などで発破作業と言う物にも使えると思います。」
「なるほどわかった。誰か知っている奴がいないか聞いておくよ。」
「ありがとうございます」
ちなみに無煙火薬と言うのは銃などの火器で使用する火薬である。これが確保できれば銃などの小型火器から戦車や自走砲、艦砲用の火器の製造まで視野に入れることが出来る。それによって戦力の大幅な向上が期待できるとドワコは考えた。




