74.聖女vs筆頭宮廷魔導士
成り行きでドワコと筆頭宮廷魔導士のジョレッタとの魔法勝負が行われることになった。
王様、王妃様、王子様の王族3人は思いのほか乗り気で、会場や時間の設定などお膳立てまでしてしまった。
そして社交界が終了してから一時を置いて城内の演習場で開催されることになった。
「なんか大変な事になったね」
「何とか回避しようと思ったけど無理でした・・・。」
ドワコとエリーは控室で今後の作戦について考えていた。
「一気に片を付けるか、じわじわと痛めつけるかのいずれかの選択になると思うけど・・・。」
エリーが考えている。今までの先手を打っていく行動では無く、後手に回った事で珍しく悩んでいるのは新鮮だ。
「よし、この作戦で行こう・・・」
エリーは今回の作戦をドワコに伝えた。
演習場には王様をはじめ多くの人が見に来ている。娯楽の少ないこの国では珍しい事なので皆今後の展開を楽しみにしている。非番の兵士なども来ており人気のスポーツ試合でも開催されるかのような雰囲気だ。
そして王様の指名によって第一騎士団隊長のバーグが審判をする事になった。
「青コーナー、筆頭宮廷魔導士、ジョレッタ。」
青く塗られた門よりジョレッタが登場し演習場の中央まで進み両手を上げて皆に答えた。そして大きな歓声が上がった。
「赤コーナー、聖女、ドワコ。」
「「「「えーーーー」」」」
会場から大きな驚きの声が聞こえた。
そして聖女服に身を包んだドワコが赤く塗られた門より出て来た。もちろん今回はフードを被っていない。
現在の聖女は謎に包まれていて、姿は滅多に見せないものの、数々の武勇伝が残っており撲殺聖女とか脳筋聖女とか物理聖女とか不名誉な名前で呼ばれており、回復魔法よりも騎士団以上の戦闘力を持つ聖女様として一部の者には知られていた。ドワコが聖女と聞いて一部の者は納得したようだった。
一応ドワコは片手を上げて皆に答えた。
「聞いてないわよ。あなた聖女様だったの?」
ジョレッタが驚きの表情でドワコに言った。
「ふっふっふ。聖女に喧嘩を売った貴方の勇気には褒めてあげるわ。だがそれ以上の後悔を貴方に差し上げますわ。」
エリーの台本通りにドワコは言った。これでは思いっきり悪役のような気がする。
ジョレッタの足元は震えている。どちらが格上かは誰が見てもわかるほどだ。
「まあドワコったら思い切った作戦に出たわね」
王妃様が感心して動向を見守っている。
ちなみにこの件はバーグも共犯だ。本当は「ドワコ領領主、ドワコ」と紹介するはずだったが、エリーの申し出によって変更された。事情を知るバーグは面白そうだからと快諾していた。
「大丈夫よ。たとえ死んでも私は聖女なので生き返らせることが出来るから安心してね。まあ死ぬときは少し痛いかも知れないけどね・・・ふふふ。」
これもエリーの台本通りだ。
ジョレッタは顔が青ざめている。だが、自分から言い出した事なので後に引けない。魔法書を構え戦闘準備に入る。
ドワコもそれに合わせ魔法書を構え準備に入った。
「それでは構えて・・・・・はじめ!」
バーグの合図で魔法勝負が始まった。
そして会場は大きな歓声が上がった・
ドワコは初手で相手の魔法攻撃を軽減する「水の守り」を詠唱する。
それと同時にジョレッタは土属性の中級魔法「サンダー」の詠唱に入った。
既に「水の守り」を詠唱して防御陣を展開したドワコはそのまま「サンダー」の詠唱に入る。
「!!」
ジョレッタは同じものを詠唱しようとしているドワコに驚いたが、詠唱をドワコより早く発動させなければいけないのでそのまま詠唱を続ける。
「・・・。・・・。・」
言い終わる前にドワコの方が先に詠唱を終わらせ、雷がジョレッタに襲い掛かった。
「キャー」
直撃を受けたジョレッタは悲鳴を上げた。
会場からも歓声が上がる。
だがドワコが威力をかなり抑えたために、ジョレッタは少しビリビリ来る程度でほどんどダメージを受けていない。続けて火属性の下級魔法「ファイア」の詠唱に入った。
「炎よ来・・」
それより先にドワコの「ファイア」が発動しジョレッタを襲い掛かる。炎に包まれたジョレッタは悲鳴を上げる。
「キャー」
だが炎は派手だったが威力は無かったようだ。ジョレッタは気を取り直し、風属性の下級魔法「ウィンド」の詠唱に入った。
「風よ来・・」
またもやドワコの方が先に「ウィンド」を詠唱し猛烈な風がジョレッタに襲い掛かる。
「キャー」
だが、周りの大きな風に対しジョレッタに当たる寸前で威力が減少する。
ドワコは先に水、土、火、風と4属性立て続けに放った。だがジョレッタはまだ水属性の魔法を唱えていない。ドワコは再詠唱時間がある為に攻撃魔法が打てないはずだと踏んで水属性の下級魔法「ウオーター」を詠唱する。今度は詠唱に成功し、水の塊がドワコに襲い掛かった。
だが先に「水の守り」を発動しているドワコには同属の下級魔法など効かず、掻き消された。
お互い再詠唱時間まで魔法が撃てないとジョレッタは少し安心したが、今度はドワコが反撃に出た。
「・・・・・。・・・・・。・・・・・。・・・・・。・・・カモン・ドラゴン。」
ドワコは慣れない闇属性の上級魔法だったが、相手は再詠唱時間があるので沈黙している。間違えないようにゆっくり詠唱した。魔法が発動し巨大なドラゴンが現れた。
これには見物に来ていた大半の者が腰を抜かしていた。
そしてジョレッタは驚きでお漏らしをしてお股が大洪水になっていた。そしてそのまま気を失ってしまった。
勝負がついたのでドワコはドラゴンを早々としまった。
「相手は戦闘不能につき・・・勝者ドワコ」
バーグの判定で会場内は大きな歓声が上がった。
(ちょっとやり過ぎたような気もするけど・・・一応平和的に解決できたよね?)
「さすが私のドワコだわ。私も驚いて下から少し出ちゃったわ。」
王妃様が言った。あなたもですか・・・。
ドワコは両手を上げて勝利のポーズを決めて即座に控室に戻った。
「エリーこんな感じで良かったのかな?」
「大丈夫ですよ。これで聖女の恐ろしさが皆に分かったので誰も逆らってこなくなるでしょう。それにジョレッタさんも格上の人に負けたのだから諦めも付くでしょう。」
「そんな物なのかな?」
「そんな物なんです」
この場はエリーの言葉を信じる事にする。あとで何も起きなければいいけど・・・。




