73.社交界デビュー
会議の後は社交界と言う会議に参加した者同士で交流を広げるための集まりがある。
ドワコはエリーと一緒に社交界用に振り分けられた控室にいる。この社交界と言う物は貴族階級かそれに類する階級の者でないと参加できないらしい。エリーは平民なので社交界には参加できない。
エリーがドワコの衣装を着せている。なぜこんなに手馴れているのはわからないが、いつの間にかドワコはフリフリのドレスを着ていた。
「ドワコさん今日は貴族の集まりなので嫌かもしれませんけど、我慢して着て下さいね。」
「わかってるよ」
ちょっと拗ね気味でドワコは答えた。
会場に入るとすでに何人かの貴族がいて交流を始めているようだ。
「ドワコ殿ご機嫌いかがかな?」
そう言って話しかけたのは第一騎士団の隊長バーグだった。
「これはバーグ様。ごきげんよう。」
自分で言いながら何とも言えないむず痒さがでるドワコだったが、作法や仕草には十分注意が必要である。
「鬼神のごとく敵に立ち向かう姿を見ている者からすれば、そのような返し方をされると違和感しかないですな。ハハハ。」
バーグに笑われた。自分でも十分承知してますよ?
「最近多忙なようで城にも滅多の顔を出していないと聞いています。是非とも騎士団に稽古を・・・と思っているのですが、しばらく無理そうですな。」
「すみません。落ち着いて時間が取れるようになれば伺わせていたきますので。」
「いやいや。気にされなくても大丈夫ですよ。それでは次の方に挨拶に行かなければなりませんので、一旦失礼しますね。」
そう言ってバーグは他の貴族へ挨拶に行った。
「これはドワコ殿ご機嫌いかがかな?」
「あっ、ジム様。ごきげんよう。」
自称アリーナ村の村長・・・ジム領領主のジムだ。
「領地の運営上手くいっているようですな。」
「お陰様で何とかやっております。報告でありました工房を閉鎖したことで、品物に不足が生じているそうですみません。」
「いやいや。戦火に飲まれて廃墟と化した土地を再生するために、全力を投じているドワコ殿の苦労に比べれば、品不足ぐらいどうという事もない。」
「私の領地では色々な物の生産が出来るようになりましたので流通経路さえ確保出来れば、かなりの数を融通できるようになりましたので、また詳しく話し合う機会を作りましょう。」
「それはありがたいですな。それでは私は他の方へ挨拶に参りますので失礼しますね。」
「はい。また。」
ジムは他の貴族へ挨拶に行った。ドワコの面識がある貴族というと、この2人位しかいない。あとは王族の方になる。興味があるのか知らない貴族より次々に挨拶を受ける。その度に丁寧な対応を心掛ける。
そして少し経ち、会場内が騒がしくなった。王族の方々が会場に入ってきたようだ。王様と王妃様と・・・王子様はいなかった。
「一緒に入場したら挨拶待ちの列ができてなかなか抜け出せなくなるからね」
ドワコの横で声がしたので見ると王子様がいた。
「良いんですか?こんな所にいて。・・・そうだった。ごきげんよう王子様。」
「今更な感じで挨拶してくるね。まあそれがドワコらしいけど。今日の衣装はとても良く似合ってるよ。前にお母様がお持ち帰りした時を思い出すよ。あの時は本当にびっくりしたからな。行方不明だって聞いて慌ててお父様とお母様に報告に行ったら一緒に食事してるし。」
「そんな事もあったね。でもあの一件が無ければ王族の親しく接することも無かったから結果的には、良かったのかもね。」
他の参加者は王様や王妃様の方に視線が行っていて、ドワコと王子様が話をしている所は見られていない。
「ドワコに一つお願いがあるけどいい?」
「内容にもよるけど・・・と言いたい所だけど、王族の方から頼まれると断れないんだろうなぁ。」
「命令じゃないから断る事も可能だよ?」
「はいはい。そういう事にしておきます。それでお願いって?」
「実は、もう少し先の話になるけど、とある国へ使者として行かなければならなくなったんだ。その付き添いをお願いしたい。船での移動になるから少し時間もかかるし使者としての務めもあるから、1カ月くらい領地を空ける事になると思うけど大丈夫かな?」
「領地の復興作業も大方終わったとは言えるけど即答できないよ・・・と言いたい所だけど色々融通利かせてもらったし断れないよね・・・。何とか同行できるように調整しておくよ。」
「そう言ってくれると思ったよ」
あとでエリーに相談しておかないとなぁ・・・すでに知ってそうな気もするけど。
少し話し込んでしまったようだ。王様や王妃様の挨拶が終わった貴族たちが戻ってきていて遠巻きにこちらの様子を伺っている。
「なんか視線を感じますけど・・・」
「王族なんて常に見られている物だ。気にすることも無い。ドワコも今のうちに慣れておく方が良いぞ。」
王様と王妃様の挨拶の列が無くなったのを見計らって料理などが運び込まれてきた。立食タイプのようだ。好みの物をそれぞれの料理に付けられている使用人から受け取ると言うスタイルになっている。
「王子様、ドワコ様どうぞ。」
そう言って使用人が飲み物を持ってきた。
「ありがとう」
「ありがとうございます」
ドワコと同じくらいの身長の使用人からグラスを受け取った。
そして使用人は料理が置かれている場所へと戻っていった。
「それじゃとりあえず乾杯」
「乾杯」
「チン」とグラスをあててお互い一口飲んだ。確認しなかったがお酒のようだ。さすがお城で出されるものだけあって美味しい。
「どうぞ、今回特別に作りました料理でございます。」
先ほどの使用人が今度は料理を持ってきた。
ドワコと王子様は一口食べてみる。
「あっ・・・懐かしい味がする」
「初めて食べる味だ。だが、今まで食べた物の中では上から数えた方が良いくらいの味だ」
ドワコと王子様の感想は大きく異なった。
同じころ会場からも驚きの声が上がる。
「なんだ、この食べ物は・・・。」
「今までこんなものは食べたことがない」
「どこの料理なんだ。ぜひ詳細を教えてくれ。」
一口食べて味を知った者は次々に料理を取り食べていった。
見た目はこの国で出される料理なのだが味付けが全く違う。だが、この味にドワコは覚えがあった。
「ドワコさん。軽く飯テロしてみましたよ。」
先ほどの使用人が隣に来てささやいた。よく見るとエリーだった。
いつの間にか王様も王妃様も同じように食べ物を漁っている。王子様は食べ物を取りに行きたそうな気持をグッと抑えて、ドワコとエリーの会話を聞いている。
「これって」
「おそらく思われている物ですよ。ただ、代用品で作った物なのでドワコさんが思っている物とは若干違いますけど。」
「それにしてもいつの間に・・・」
「料理研究家を神殿から引き抜いて来ましたからね。その成果ですよ。」
「これはエリーがやった事なのか?」
王子様はエリーに尋ねた。
「調味料作ったのは私ではありませんが、この食事に調味料を使うように料理長に話をしたのは私です。」
「結構頑固な料理長で納得させるのが大変でしたよ」
何をやったかはわからないが、裏で実行に向けて動いていたらしい・・・。
「特に香辛料?って言うのが入手が難しくて苦労しました。」
聞いてもいないのに苦労話をしだした。
「結論から言うとこの料理で使われた調味料と言う物はドワコ領で作られた物なんだな・・・モグモグ」
いつの間にか食べながら話をする王子様。口の中の物が飛ぶからやめてください。
「そうです。ドワコ領で研究開発された調味料と言う食べ物の味を良くする商品になります。」
エリーが営業トークを入れて王子に説明した。
「さしすせそ」で有名な、砂糖、塩、酢、醤油、みそ・・・っぽい物?、ケチャップ、ソース、マヨネーズぽい味がドワコは確認が出来た。他にも使われているかもしれない。
これを開発したのは神殿にいるメロディだろう。無駄に設備の整った厨房をエリーが作らせたのもその為だろう。
「ちなみに半分正解で半分不正解ですよ?」
エリーが心の声を聴いたかのように答えた。
「それにしてもこれは素晴らしい。同じ食材でもこうも味が変わるとは・・・。」
「この調味料の一部は大量生産の準備が出来ていますので近く城下町にも出荷されると思います」
上機嫌の王子様に対しエリーが現状を伝える。
いつもなら無くなる事がない料理だったが、今回は話をするのも忘れ皆が食べていたため、飲み物以外はすべて無くなってしまった。
「王子よ。ここにおったか。おや一緒にいるのはドワコではないか?」
エリーはいつの間にかいなくなっていて、ドワコと王子様だけになっていた。
「先ほどはご挨拶にも行けず、失礼しました。」
「いあ構わんよ。二人が仲良く歓談している所を邪魔してすまんな。」
「ドワコぉーーー久しぶりぃーーー」
後ろから抱きしめられた。王妃様だ。
「先ほどの料理は凄かったな。聞くところによるとドワコ領で作られた調味料という物を使って料理をしたらしいな。新しい物を開発して商売を始めるとは順調に復興が進んでいるよで何よりじゃ。」
「ドワコすばらしいわ。さすが私が見込んだだけの事もあるわ。ここはぜひとも息子の嫁に・・・。」
その会話を聞いた貴族たちがギョッとした目でこちらを向いた。余計な敵を作ったのかもしれない。
「前にも話しましたけど、私たちそういう関係じゃ・・・。」
「わかってますよ。大丈夫大丈夫。」
何が大丈夫なのかはわからないが聞かなかったことにしておこう。
「近く、調味料については詳細の報告を頼む。これからはお城の料理でも使っていきたいからな。」
「ははっ。後程、担当者よりご報告させていただきます。」
「では我々は行くとしよう。王子、そなたもいつまでもイチャ付かずに公務に戻りなさい。」
「はい・・・」
「それではドワコまたね」
王様と王妃様と王子様はドワコから離れて次の場所へと向かった。
「どうですか?ドワコさんを驚かそうと思って頑張っちゃいましたよ?そろそろ終わりそうなので戻りましょうか。」
いつの間にか戻ってきていたエリーが、若干急がせるように言った。
「お待ちなさい」
ドワコに対して誰かが言った。
「ちっ」
エリーが舌打ちをした。どうやら珍しく後手に回ってしまったようだ。
「あなたがドワコね。私の王子様にべったりとして何て事をしてくれますの?」
身長の割に残念な胸をしたローブを着た女性が話しかけてきた。
「何って。普通に話をしていただけですけど?」
「キー。余裕かましていられるのも今のうちですわ。」
「あのー。どちらさんで?会議では見かけませんでしたよね?」
「何ですって!あなたの目は節穴ですか?王子様の隣にいたでしょ?」
ドワコは席順を思い出す・・・真ん中には王様、左には王妃様、右には王子様・・・そして王妃様の隣は私の席だったから空席で・・・王子様の方は・・・思いだせない。席順からして聖女に匹敵するくらいの身分なんだろうけど・・・。
「あの方は、カーレッタさんの妹さんです。」
「カーレッタの妹さんですか・・・」
ドワコ領の第4護衛隊の隊長をしているカーレッタの妹だそうだ。言われると顔にどことなく面影があるような気がする・・・でもカーレッタは身長が低く巨乳だ。それに比べると・・・残念過ぎる。
「キー。人の胸を見て残念そうな顔をしないでくださいますか?あなただって似たような物でしょう?」
「私はまだ成長期ですからぁ」
エリーのセリフを真似てみた。実際ドワーフは成長しても今の体形からあまり変わらないようだ。ドワミや他のドワーフの女性を見るとそう言う気がする。
「なんて生意気なのかしら。私を誰だと思って言ってるのですか?」
「カーレッタの妹さんじゃ?」
「まあ姉の事は置いておいてですわ。わたくしは筆頭宮廷魔導士のジョレッタですわ。」
温厚なカーレッタとは違い何かツンツンした感じの妹のジョレッタ。先ほどから何を怒っているのかも良くわからない。
「あなた、私と勝負しなさい。」
「は?」
「聞く所によると、少しは魔法が使えるそうじゃない。魔法勝負ですわ。」
魔法が少し使える人に対して筆頭宮廷魔導士と名乗るジョレッタは全力で挑もうとしている。これは弱い者いじめではないだろうか?
前にも同じような事があった気がする・・・デジャヴかも。
「エリーどうしたらいいと思う?」
「仮にも筆頭宮廷魔導士ですから倒しちゃったら国の威信に関わっちゃいますからね・・・。」
珍しくエリーも頭を抱えている。
「私が勝てば王子様の事はキッパリと諦めてもらいますわ。あなたが勝てば奴隷にでも何でもなって差し上げますわ。」
(思い出した。メルディスだ。そうそう・・・同じような展開になっている)
「これは面白くなったな。聖女と筆頭宮廷魔導士との一騎打ちか。」
いつの間にか戻って来た王子様が楽しそうな顔をしている。
「そうだな。これは見ものかも知れん。」
王様も戻ってきていた。
「私のドワコは負けませんよ?」
王妃様も・・・私のになってるし。
「表に出やがれ・・・ですわ」
ドワコとジョレッタは魔法勝負をする事になった。




